舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第11章

第109話 talk 2

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「ルゥラは、どうやって私を殺すつもりなんだろう」

 抱いた疑問を月夜はまた素直に口に出した。そうすると多少心が落ち着くような気がした。そもそも焦燥感に駆られているわけでもないから、何に対する落ち着きなのかは分からない。

「殺すつもりは、もうないんじゃなかったっか?」

 どんな話題でも、フィルは飄々とした態度で答える。どの程度まで安定を保っていられるだろうか。

「ない、とは言っていなかったと思うけど」月夜は話す。「その目的を果たすために、私にご飯を食べさせようとしたと言っていた。そして、私が家に帰ったら、またご飯を食べさせるつもりらしい」

「それが、お前を殺すという目的を果たすための行為ではなくなった、ということではないのか? もちろん最初はそうだっただろうさ。けれど、純粋にご飯を食べてもらうだけでよくなったんだ。そのあとのことまで、もう意識は向いていないということじゃないか?」

「無造作に人工知能を発達させるのに似ているかも」

 月夜の言葉を聞いて、フィルは少し笑ったみたいだった。

「どういう意味だ?」

「仕事を減らすために発明したのに、実際に仕事が減ると慌てるのに似ている、という意味」

「別に、仕事を減らすためだけに発明したんじゃないだろう」

「だけ、とは言っていない」月夜は話を続ける。彼女は基本的にニュートラルだから、相手を貶めようと思っての発言ではなかった。たぶんフィルもそれは理解しているだろう。「でも、いつでも、道具を生み出すのは楽をするためだから、楽になるという結果を目の当たりにしてから慌てるのは、おかしいように思える。紙を楽に切れるようにと願ってハサミを発明して、実際に楽に切れるのを目の当たりにしたら、大変困るというのと同じでは? そんな人間がいるだろうか」

「いるかもしれないし、いないかもしれない」

「可能性としてはそうだけど、それを一般化すると負の方向に傾くと思う」月夜はフィルのジョークを無視する。「思った通りの結果になったと感じる人間の方が多いはず」

「人工知能の場合は、それがもたらす影響を適切に測れなかったという面があるだろうな。楽ができるようになるとは考えていたが、完全に楽になりきるとは考えていなかった。要するに、減ることは想定していたが、ゼロになるとは想定していなかったんだ」

「それでいいと思う。皆で働く必要はないと思うけど」

「そうすると、治安が悪くなる」

 風が吹く。

「で、俺たち、今、何の話をしていたんだっけ?」
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