舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
89 / 255
第9章

第89話 乖離

しおりを挟む
 昼休みになって、月夜は食堂に向かった。

 なんとなく、食事をする気になったからだった。彼女にしては珍しい。何を食べようかと考えて、前の人がラーメンを注文していたので、同じものを頼んだ。空いている席を探してそこに座り、箸を手にとって麺を啜り始める。

 食堂は、以前夜に来たときと雰囲気が違っていた。やはり人がいるからだろう。人がいると騒がしく感じられ、人がいないと寂しく感じられる。人間の世界は人間主体でできている。少なくとも、恒常的に存在する椅子や机は、喧騒の担い手としては意識されない。

 ラーメンは、鍋にずっと入れっぱなしだったからか、微妙に伸びていた。小学校の給食で食べたものと同じような感じだ。具材も魚介類が多く、一般的なラーメンとは少し違っている。

「今日の放課後さ、あれ、あそこ……。ほら、駅前に新しくできた、喫茶店に行かない?」

「うん、いいね。じゃあ、行こう。あ、今日って、授業何限までだっけ?」

「七限」

「あ、そうか。あー、じゃあ、けっこう遅くなるね。授業が終わって……、向こうに着くの、五時くらいになるかな?」

「私、ショッピングモールでさ、服見たいな。この間雑誌で見た、春物のコーデ、試してみたいんだよね」

「へえ。どんなやつ?」

「なんか、上半身と下半身で、補色のやつ」

「補色? 何だっけ、それ」

「あの、ほら、なんか……、美術の授業でやったじゃん。……十二色相環、だっけ?」

「ああ、はいはい」

「あの、向かい側の関係のやつ」

「それで?」

「その色で服の組み合わせを作るわけ。あ、でもね、下半身が暗い色の方がいいみたい」

「へー。面白そうじゃない」

(ゴクゴク)

「喫茶店でさあ、飲み物を注文するときって、なんか、面倒臭いよね」

「何が?」

「え? うーん、なんか、買ったあと、暫くその辺で待っていなくちゃいけないのとか」

「じゃあ、待たなければいいじゃん」

「待たなければ貰えないじゃん」

「じゃあ、貰わなければいいんじゃない?」

(laugh)

「何言ってんの」

「いや、だって、面倒なんでしょ? じゃあもういいじゃん。もう、飲まない。初めから飲まなければいいの」

「飲みたいけど、面倒だって話じゃん」

「我儘なんだよ。だってさあ、そんなこと言ったら、電車とか乗るのも同じじゃん。ホームで待つ方が多いでしょう?」

「あ、信号とかもそうかな」

 ラーメンを食べ終わったので、月夜は食器を片づけるために立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...