魔王にさらわれた聖女の君は、僕の言葉で堕とされ『花嫁』となる

K.A.

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Act 10

書架~現の本

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「ああっ! あ、あ、あ……あは……し、尻尾しっぽを、胸の方に伸ばしてこないで……ああ……魔法の触手で、下を、でないで……あはっ! あはっ! や、やめて……魔王である事を示しながら、私の身体をもてあそばないで……くぁあ……くん、くんっ! はあ、あは……棚の本を、私の手に渡してくれた時と同じ笑顔を……魔王のまま見せないで……く……あはっ!」

「僕が、本当に人間であれば、梯子はしごが使えなくなってしまい困り果てているところだよ。愛する人の願いを聞いてやれないと想像するだけで心苦しい。魔法を使ってよいのなら、すぐに望む書物を手渡してやれるが……聖女さまの心から生じたしがらみじゃうように絶えずうごめいているね。
 僕の次に大切だと言う本たちを、そのいびつな鉄格子の向こうに拘禁こうきんしてしまう気かい?
 広間に面して置かれていた塑造そぞうぞうは砕いてしまったのに、書物は、蠢動しゅんどうする真金まがねに傷つけさせないよう必死なんだね。護りたいのかな? それとも併呑へいどんして、おのが手の中におさめてしまうつもりなのかい」

「本たちに、これ以上、闇の力を与えないで……烏夜うやが取り巻く魔王にせられ、深淵しんえんの底にたまった泥土でいどに絡まれてしまうのは私だけでいい。光を失うのは私だけでいい……闇は、本たちを護る為に必要……だけど、光がなければ誰かに見つけてもらえない……うとまれるような本を作り出さないであげて……あ……あ……私の頬を、優しくでてくれるエリオットの慈愛を……本たちにも、与えてあげて……ん……んんっ! んんんんんっ」

「……ふふ。僕の可愛い聖女さま、先ほどより、さらに深い味のつばきで口の中が満たされているね。
 人に化けた僕ではなく、真実の僕を愛してくれているんだろ?
 魔王と出逢い心を揺さぶられていれば、アリスは何も迷う事はなかった。この図書館で、君に見初みそめてもらった時、僕が人間に化けていた事、謝っておこう。うつつの時を戻す事はできないが、想いを描き出すこの典籍てんせきを使って、き返すように白紙を創ろう。還魂紙かんこんし著述ちょじゅつされていくのは、魔王エリオット・ジールゲンとその花嫁の物語。僕と君が愛し合う道途どうとが描かれた珠玉しゅぎょくの名編として賞され、たたえられるだろう。
 ほら、初めて僕と身体を重ねたあの日のように、きんく事を躊躇ためらわないで」

「……この場所で……あの日の姿の私で、魔王のままのエリオットと身体を重ねたら、迷いを捨てる事が本当にできなくなるかもしれない……私は、魔王を滅ぼすかもしれない、おぞましい存在なの……だから、やめて……あたり一面に張りめぐらされた鉄条茨てつじょういばらを生んだのが私の心だというのなら恐ろしい……このままだと、美しい天井を支える木柱を締めあげて、すべてを壊してしまうかもしれない……思い出の場ごと、二人共ににしたいと願ってしまったら……私、どうしたらいいの……怖い」

「恐れないで、アリス。
 僕は、あの日と変わらず、君の事を深く愛しているよ。
 心が大きく揺れているのかい? 広間を囲む木柱が、石造りの束ね柱になってしまっているようだ。これは、図書館ではなく、二人が初めて身体を重ねた、大聖堂の身廊しんろう列柱れっちゅうではないのかな。純潔を失う事を恐れなくなるほど愛に溺れてしまった時のように、この魔王エリオット・ジールゲンと一つになりたいんだろ? 心偽るのをめ、僕と一つに――同じ生命せいとして、永遠とわに生きていこう」

「ああ……やめて、リボンがけて、胸が見えたままなのに……あは……む、胸……よ、横をさするように……優しく、何度も胸をでないで……魔王の姿のまま、人の優しさで、私をつつまないで……あ……あは……い、陰核いんかくに、唇をあてないで……魔王の姿のまま、人の愛撫あいぶで、私を惑わせないで……あは、あは……めたり、吸ったり……いんかく、おかしく……エリオット、やめて……あ、あ、あ、あ」

「……裂け目から、とろりとしたものがあふれて止まらないようだ。戸惑いから、アリスを解放するには、最後まで遂げる以外に方法が思いつかないよ。
 僕らは、鉄条茨てつじょういばらの中に閉じ込められたようだが――これは、二人だけの時間をゆっくりと過ごせるよう、君が用意してくれたまゆなんだろ? 真金まがねはしを尖らせ、僕を排する事をしなかったじゃないか。僕と君がいるこの長椅子を取り囲むように、安らぎの空間を作ってくれて嬉しいよ。二人が今いる、このまゆの中で、完全なる魔の者へと変化する事を望んでいるのではないのか?
 もっともっと、胸の横をゆっくりとでられたら、心地よさ止められなくなり、偽る事なく、素直になれるのかな」

「あは、あは……やめて、エリオット……優しい手つきで……はあ、はあ……私の胸を、刺激しないで……物恐ろしいと感じさせるような、魔王のままでいて……はあ、はあ……魔王のままでいて……おねがい……あは、あは……む、胸の先を、でないで……あは、あは」

「気持ちいいんだろ? 魔王の手の中に堕ちてしまわないと、こらえられないほど満悦まんえつであると、その赤らめた頬が語っているようだよ。
 君の中にたっぷりと注ぎ込んである『魔の力』は、本質的な変化に至ろうとするアリスの想いに応じ、生命せいとしての構造を魔族のそれに近づけていくんだ。
 魔王の花嫁になる時を夢見て、聖女さまが穏やかな気持ちのままさなぎになって眠りたいというのなら、僕は、そばに寄り添って、ずっと君の目ざめを待っているつもりだ。約束する。
 ふふ。この魔王エリオット・ジールゲンの烏夜色うやいろのマントにのすべてをくるまれながら、変化の時を迎えてもらっても構わない。絡めた指と指が、わずかにれる事すら情熱的だと感じるほど、互いに心も身体も近傍きんぼうで過ごそう」

「あ、あ、あ、あ……し、尻尾しっぽの先を……さ、裂け目に入れないで……あは……そ、そのまま……動きを止めないで……」

「もっと奥まで、入れてほしいんだろ?
 目を潤ませ心苦しそうだね。らされて、苛立いらだたしいと、素直に言葉で伝えてよいんだよ。
 人として愛し合った楽しい思い出を二人で語りながら、君の聖女としての生命せいが終わりを告げ、魔王の花嫁としての新たな生命せいが始まるんだ。おぞましい『聖なる力』は、僕との愛でめつを迎えるのがさだめ。君を護る為に取り除かれてしかり。一刻も早く、二人がしんに結ばれる時に辿たどり着けるようにするつもりさ。
 『魔の力』を注ぎ込むから、さあ、足を大きく開いてくれ」

「エリオット、やめて……この思い出の白いワンピースの私を、魔王のまま貫かないで……」

「魔書に願いを送れば、僕をがいする事も、君の目に人の姿として映るようにする事もできるのに、なぜそれをしないんだ? それはつまり、この魔王エリオット・ジールゲンを不倶戴天ふぐたいてん怨敵おんてきだと思っていないという事だろ? 人の姿ではなく、魔族の僕に抱かれるのが望みであると、アリス自身が認めているという事だ。
 魔王の僕の方をまゆの中に入れてくれて、ありがとう。僕の大切なものも、中に入れて――」

「……ああ……あ、あ、あ、あ、あっ! や、やめて……ま、魔王のまま……私の中に注ぎ込まないで……あ、あ、あ、あ、あ!」

「僕の可愛い聖女さま……小さき生命せいたちのように、姿形すら変貌を遂げるといい……それは長きを僕と共に生きる為の道すがら……今の生命せいを脱ぎ捨て……本当のアリスになるんだ……変化の間、まゆの護りだけでは不安だろうが……僕が、ずっと、君のそばにいるから心配はいらない……わずかでも傷つかぬよう……えいえんにまもるから……ぼくのお嫁さんになって……」

「あああ……あ……あ……エリオット、魔王に戻らないで……人のあなたに注がれて、『魔の力』が身体中を駆けめぐっている私を、人の姿のまま抱いていて……怖いの……同じあなただとしても……魔王の方だけを、あいしてしまうのが……こわ……い……」

「……アリス……注がれる時は、人の姿の僕がよかったのか……眠ってしまったの? 僕を、魔王の姿に戻してしまってよかったの?
 この城で、君が唯一逃げ込めるのは、すいの中かもしれないが……お喋りしてくれない間は、寂しくて仕方がないよ。魔界のあるじである僕が、深沈しんちんたる態度を保ちたくないと思うほどさ。魔の者になる為の新生しんせいへの眠りではなく、人の生命せいにすがろうとするように閉じこもるのはめて。
 ほら、人の姿に化けたよ。
 人の姿をした魔王なら、しがらみを取り去ってくれるの……聖女さま、必ず幸せにするから、何もかもが違う生命せいに変化して、さなぎから抜け出る事、恐れないでほしい。なまめかしい動きで、新しい姿をして出てきた君の目に最初に映るのはこの僕だ。
 君が、悪魔の翼を持つ者に生まれ変わったとしても、僕は、今までと変わらぬ心持ちで強く抱きしめてあげるからね」
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