【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真

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58.報告

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 数日が経ち、おじさまが辺境に帰るために出立する日になった。国王陛下と王妃殿下への挨拶のために王宮に立ち寄るとは聞いていたので、一瞬仕事を抜けて挨拶ぐらいはできるだろうかと考えながら働いていると何故か謁見室に呼ばれた。私は双子殿下のお相手をしているところだったので、仕事を別の侍女に代わってもらい、何事だろうと訝りながら御前に参上つかまつった。

 話を伺うと、国王陛下と王妃殿下はまだアンジェリッテの件についてご存知ないとのことで、これからおじさまからお伝えするらしい。アルマン様から話を聞いた時にその場にいた者として、私も同席することになったようだ。

 (アルマン様、何故ご報告していないのですか…)

 隠し通せる訳がないのに、なぜなのだ。これから出発するおじさまに迷惑がかかるし、私にとっても仕事の邪魔だし、アルマン様のためにもならない。これ以上後手に回ると、あちらの立場はさらに悪くなるだろう。ただでさえ気持ちの良い報告ではないのに、気が重い。

 おじさまも同じ気持ちだったようだが、お伝えすべきことは全て奏上してくださった。私は隣で静かに聞いていた。

 「…まさか弟にそのような落とし子がいたとは。信じ難いが、話を聞くに実の娘である可能性が高そうだ。…辺境伯、エマ、大儀であった。その娘、修道院に入れるのが適切であると余は考えるが…王妃の意見も聞き、その上で審議にかけて決めたいと思う。余にとっては姪に当たるとはいえ、紫色の目を持つからといって不義の子が珍玩ちんがんされるのは許されざることだ」

 国王陛下は驚いていらしたが、どっしりとした態度を全く崩さずにそうおっしゃった。王太后陛下やアルマン様の計画についてお伝えしたときには僅かに眼光が鋭くなったものの、その紫の目に動揺の色はなかった。王妃様も深刻なお顔で憂いていらっしゃるご様子だったが、やはり狼狽えることはなかった。

 幼い頃から特殊で厳しい教育を受け、長い年月を王族として生きてきたおふたりの威厳は、こんなことでは揺らがないのだ。これぞ本物の王族だ。私が内心で尊敬の念を深めていると、王妃様が静かにおっしゃった。

 「陛下のおっしゃる通りですわ。王太后陛下のお望みでも、くだんの娘を養女にするなど決して認められないでしょう。そうなるとカフカ公爵が養育権を主張してくることが考えられますわね。それも含めて話し合うことになるでしょうね。…それにしても、カフカ公爵の血統至上主義的な傾向を甘く見ていたかもしれませんわ。『王家の血』を礼讃する公爵が、王太后陛下の満たされないお心につけ込んで今回のことを計画したように私は思います」

 国王陛下は頷いた。

 「アルマンは単純な王党派ではない。王家の血筋をことさらに愛でるあの者は、まるで「王家の紫」に魅入られておるようだ。公爵の母と同じ目の色を持つ者を側に置きたいと無意識に思っているのかもしれぬな。落胤の存在を知りながら報告を怠ったことや、未遂とはいえ余の母と結託して勝手な計画を練っておったことに対しては追及せねばならぬが…余は自身の責任も感じておる。よく話を聞いてみて、処遇を決めよう」

 「王太后陛下のお話も伺わなければなりませんわね。これまで色々と思い通りにいかないことが多く、不満もおありだったのでしょう。寂しさや虚しさを紛らせたいお気持ちも、分からなくはないですわ」

 王妃様はそうおっしゃると、これまでのことを話してくださった。

 「国王陛下が私と結婚し、最愛の息子を取られたようでずっとお寂しかったようなのです。私から見ると国王陛下は結婚後も母上を大切になさっていましたが…王太后陛下は私に対して不満をぶつけることもおありでした。関係を改善できるよう国王陛下も私も努めましたが、ある日「王妃の産んだ子と思うからか自分の孫でもそれほど可愛く思えない」そうカフカ公爵に話しているのを聞いてからは、私も距離を置きたいと思うようになったのです」

 そんなことがあったとは。私は驚きを隠せなかった。王妃様は心なしか少し寂しそうに小さく微笑み、話を続けた。

 「…子どもたちが王太后陛下に対してよそよそしくても、私は取りなすことをしなくなりました。可愛いとも思えない孫と親しくしていただく必要はない、そんな風に開き直っておりました。ですが私のそのような態度が王宮の者たちに伝わり、王太后陛下を少しずつ追い詰めていたのかもしれません。私に取り入ろうとする臣下や侍女たちは、王太后陛下には近づきたがりませんもの。完全に中立の立場を貫き、王太后陛下にも心を込めてお仕えするエマを見ていると、自分が恥ずかしくこともありましたわ」

 正直なところ、私は意識して中立を保っていたわけではなかった。おふたりがあまり仲良くないことには勘づいていたものの、そのような確執があったとは存じ上げなかったのだ。皆が知っている中でも気づいていなかったなんて、単なる私の愚鈍エピソードである。まあ知っていたとしてもどちらかに肩入れすることはせず、自分に求められる仕事をしただけだろうとは思うけれども。そう考えている私に向かって、王妃様がにこっとなさった。先ほどとは違う、晴れやかな笑みだった。

 「愛する国王陛下のお母様であることには変わりありませんし、エマを見習ってこれからは態度を改めることにするわ。このようなゴタゴタが起こるのはもう嫌だもの。エマ、落ち着いたら何か面白いお話でもして王太后陛下を元気付けて差し上げてちょうだい。もちろん私も同席するわ」

 「かしこまりました」

 自分の愚鈍ぶりに対してのちょっとしたショックはとりあえず脇に置いておき、私は頭を下げた。王妃様のこういう明るくてお優しいところが私はとても好きなのだ。国王陛下も嬉しそうになさっていた。しかしおじさまは心配そうだった。

 「王太后陛下やカフカ公爵閣下が根っからの悪人でないことは私も存じておりますが、計画を頓挫させた私やエマは恨まれるかもしれません。それを考えると、残していくのが気がかりでして…どうかエマが安全に過ごせるよう、伏してお願い申し上げます」

 「いやだわ、辺境伯なぞに言われなくても国王陛下は護衛を強化してくださるに決まっているのに。そんなに信用ならないのかしら?」

 「い、いえ、そのようなつもりは…」

 「これ王妃、あまりいじめるでない。辺境伯、これまで以上にエマの安全には気を配る故、安心して領地に帰るがよい。エマ、そなたも万が一のことを考え、王宮の中でも外でも一人にならないようにせよ」

 私とおじさまは心から感謝を伝え、退出した。そして私は屈強な護衛にぴったりと張り付かれたまま門のところまで出て、辺境に帰っていくおじさまを見送ったのだった。

 この時、私は自分の安全についてそこまで心配していなかった。そのため、もっと周囲を警戒し、自分なりの防犯対策をしておくべきだったと後に後悔することになるのだ。
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