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57.紛糾
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「本来、いるべき場所…」
私は機械的にアルマン様の言葉を繰り返した。
「それは…どこですか?アルマン様はアンジェリッテをどうなさるおつもりなのですか?」
「あの子が王女のひとりとしてかしずかれ、王宮で何不自由なく暮らせるよう全力を尽くすつもりでいます。育てると言いましたが、私の元で暮らす期間は長くないでしょう。実は王太后陛下がゆくゆくはアンジェリッテを養女にしたいとお考えなので、まずは宮廷に上がっても恥ずかしくない礼儀を身につけさせなければ」
まさかの言葉に、おじさまが口を挟んだ。
「王太后陛下が?一体何故ですか?」
「きっとお寂しいのですよ。女の子を産んでおきたかったと以前からよくおっしゃっていました。アンジェリッテがここにいることはご存知ですので、早く会って色々世話をしたいと首を長くしてお待ちです」
実子の国王陛下がいつでも会える距離にいる上に四人もお孫がおいでなのに、私はそう言おうとして思いとどまった。王太后陛下はお孫たちにあまり懐かれていないのだ。
その理由は、王太后陛下があまり王妃殿下のことをお好きでないためだろう。表面上は一応うまくやっているが、長く王宮で働いていると分かることもある。王太子殿下を始めとしたお子たちは母親である王妃様のことが大好きなので、何となく祖母君とは距離が出来ているのだろうと私は推測している。
おじさまは真剣な声でこう言った。
「公爵閣下、臣下として王太后陛下をお止めするべきです。あの娘を引き取って世話をしたいと思うほどにお寂しいならおいたわしいことですが、そのような王宮内の秩序を乱す計画を国王陛下がお許しになるはずはありませんから。おそらく国王陛下はまだご存じないのですね。逆鱗に触れる前に、早急に奏上すべきかと」
その言葉に私も頷いた。
「アンジェリッテの『本来いるべき場所』がどこなのか私には分かりかねますが、少なくとも王宮でないことは確かです。あのお嬢さんが王弟殿下に認知されていないのなら、この国の規範では王家の一員には数えられません。国王陛下が王妃殿下や重臣たちと話し合い、彼女の今後をお決めになるでしょう」
「いや、それではいけないのです。国王陛下や王妃殿下はアンジェリッテのことを疎ましくお思いになって、冷遇なさるかもしれない。だからこそ王太后陛下と私、そしてエマさんが協力してあの子を守る必要があります。辺境伯閣下にも、ぜひお力を貸していただきたい」
反論するアルマン様に、私はさらに言い返した。
「勝手に私を数に含めるのはおやめくださいませ、私には関係のないことでございます。それに冷遇と言いましても、まさかスラムや娼館に捨て置けとは言われないでしょう。アンジェリッテが静かに落ち着いて暮らせるよう考えてくださると思いますわ。…王家への忠誠心が厚い、アルマン様はさっき私のことをそうおっしゃっていましたね。その通りです、私は王族の方々に忠義を尽くしたいと思っております。だからこそ、アルマン様のお考えには断固反対です。王族の方々の安寧を脅かすつもりなら、確かにアンジェリッテはさぞ疎まれるでしょうね」
「だからこそです。私はあの子を守ってやりたいのです。日陰者として生涯を送らせるなど、あってはならないことです。血筋の尊さで言えば、畏れ多くも国王陛下や王太子殿下たちに次いで高貴なのですから。誰に反対されようが、その血にふさわしい人生にしてやりたいのです」
青い瞳に情熱を宿し、いつになく熱っぽく話すアルマン様に私はドン引きしていた。何故ここまでアンジェリッテに執着しているのだろう。
「アルマン様…どうなさったのですか?落ち着いてください。もちろんあの子にも幸せになる権利があります。ですが非嫡出子が正真正銘の王族と同じように扱われることなどあり得ませんし、あってはならないことです」
「いや、そんなことはない」
「そんなことあります!」
言い争いに発展しかけたところを、おじさまが止めた。
「お話にならないようですので、ひとまず話は終わりにしましょう。…公爵閣下、私が今日どうしても言いたかったことだけお伝えさせてください。…これまでエマが、大変お世話になりました。本人からもお話があったことと思いますが、ふたりの関係はこれで終わりということにさせてください。そして、今日閣下とお話をする中でお願いしたいことができました。あのお嬢さんのことで、金輪際エマを巻き込まないでください。もちろん私のことも」
「辺境伯閣下になら、アンジェリッテがいかに特別で守られるべき存在か、分かっていただけるかと思いましたが…買い被っていたようですね。真に忠実な臣なら、王家の紫を持つあの子に必ずや心を込めて尽くすはずですのに」
おじさまは少し呆れたように首を振った。
「先ほどエマがいみじくも言ったとおり、あの子は王族とは呼べません。…もしや閣下は、あの子が王太后陛下の養女になって十分な身分を得てから、ご自分の妻になさるおつもりなのですか?」
「まさか、あんなに幼い子にそんな気持ちは抱きませんよ」
「百歩譲って今はそうでも、この先はどうでしょうね…。とにかく、これからは私の娘に関わらないでいただきたい。…これにて失礼いたします」
おじさまは儀礼的に軽く頭を下げると、帰ろうと言って私の手を掴んで歩き出した。私は黙ってそれに従った。
私は機械的にアルマン様の言葉を繰り返した。
「それは…どこですか?アルマン様はアンジェリッテをどうなさるおつもりなのですか?」
「あの子が王女のひとりとしてかしずかれ、王宮で何不自由なく暮らせるよう全力を尽くすつもりでいます。育てると言いましたが、私の元で暮らす期間は長くないでしょう。実は王太后陛下がゆくゆくはアンジェリッテを養女にしたいとお考えなので、まずは宮廷に上がっても恥ずかしくない礼儀を身につけさせなければ」
まさかの言葉に、おじさまが口を挟んだ。
「王太后陛下が?一体何故ですか?」
「きっとお寂しいのですよ。女の子を産んでおきたかったと以前からよくおっしゃっていました。アンジェリッテがここにいることはご存知ですので、早く会って色々世話をしたいと首を長くしてお待ちです」
実子の国王陛下がいつでも会える距離にいる上に四人もお孫がおいでなのに、私はそう言おうとして思いとどまった。王太后陛下はお孫たちにあまり懐かれていないのだ。
その理由は、王太后陛下があまり王妃殿下のことをお好きでないためだろう。表面上は一応うまくやっているが、長く王宮で働いていると分かることもある。王太子殿下を始めとしたお子たちは母親である王妃様のことが大好きなので、何となく祖母君とは距離が出来ているのだろうと私は推測している。
おじさまは真剣な声でこう言った。
「公爵閣下、臣下として王太后陛下をお止めするべきです。あの娘を引き取って世話をしたいと思うほどにお寂しいならおいたわしいことですが、そのような王宮内の秩序を乱す計画を国王陛下がお許しになるはずはありませんから。おそらく国王陛下はまだご存じないのですね。逆鱗に触れる前に、早急に奏上すべきかと」
その言葉に私も頷いた。
「アンジェリッテの『本来いるべき場所』がどこなのか私には分かりかねますが、少なくとも王宮でないことは確かです。あのお嬢さんが王弟殿下に認知されていないのなら、この国の規範では王家の一員には数えられません。国王陛下が王妃殿下や重臣たちと話し合い、彼女の今後をお決めになるでしょう」
「いや、それではいけないのです。国王陛下や王妃殿下はアンジェリッテのことを疎ましくお思いになって、冷遇なさるかもしれない。だからこそ王太后陛下と私、そしてエマさんが協力してあの子を守る必要があります。辺境伯閣下にも、ぜひお力を貸していただきたい」
反論するアルマン様に、私はさらに言い返した。
「勝手に私を数に含めるのはおやめくださいませ、私には関係のないことでございます。それに冷遇と言いましても、まさかスラムや娼館に捨て置けとは言われないでしょう。アンジェリッテが静かに落ち着いて暮らせるよう考えてくださると思いますわ。…王家への忠誠心が厚い、アルマン様はさっき私のことをそうおっしゃっていましたね。その通りです、私は王族の方々に忠義を尽くしたいと思っております。だからこそ、アルマン様のお考えには断固反対です。王族の方々の安寧を脅かすつもりなら、確かにアンジェリッテはさぞ疎まれるでしょうね」
「だからこそです。私はあの子を守ってやりたいのです。日陰者として生涯を送らせるなど、あってはならないことです。血筋の尊さで言えば、畏れ多くも国王陛下や王太子殿下たちに次いで高貴なのですから。誰に反対されようが、その血にふさわしい人生にしてやりたいのです」
青い瞳に情熱を宿し、いつになく熱っぽく話すアルマン様に私はドン引きしていた。何故ここまでアンジェリッテに執着しているのだろう。
「アルマン様…どうなさったのですか?落ち着いてください。もちろんあの子にも幸せになる権利があります。ですが非嫡出子が正真正銘の王族と同じように扱われることなどあり得ませんし、あってはならないことです」
「いや、そんなことはない」
「そんなことあります!」
言い争いに発展しかけたところを、おじさまが止めた。
「お話にならないようですので、ひとまず話は終わりにしましょう。…公爵閣下、私が今日どうしても言いたかったことだけお伝えさせてください。…これまでエマが、大変お世話になりました。本人からもお話があったことと思いますが、ふたりの関係はこれで終わりということにさせてください。そして、今日閣下とお話をする中でお願いしたいことができました。あのお嬢さんのことで、金輪際エマを巻き込まないでください。もちろん私のことも」
「辺境伯閣下になら、アンジェリッテがいかに特別で守られるべき存在か、分かっていただけるかと思いましたが…買い被っていたようですね。真に忠実な臣なら、王家の紫を持つあの子に必ずや心を込めて尽くすはずですのに」
おじさまは少し呆れたように首を振った。
「先ほどエマがいみじくも言ったとおり、あの子は王族とは呼べません。…もしや閣下は、あの子が王太后陛下の養女になって十分な身分を得てから、ご自分の妻になさるおつもりなのですか?」
「まさか、あんなに幼い子にそんな気持ちは抱きませんよ」
「百歩譲って今はそうでも、この先はどうでしょうね…。とにかく、これからは私の娘に関わらないでいただきたい。…これにて失礼いたします」
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