【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真

文字の大きさ
51 / 74

51.未来とは今である

しおりを挟む
 「ところで、ユリシーズ伯爵領は今後どうなるのでしょうか?」

 「監査団の報告を聞いた上で国王陛下がお決めになることだから、まだ分からないが…改善の余地無しと判断されれば、まずはユリシーズ伯爵に領地の返還と爵位の返上が求められるだろうね」

 予想していた通りの返答ではあったが、改めてユリシーズ家にとっては本当に危機的状況なのだと私は実感した。国内における全ての土地は元々すべて王家に属しているから、ユリシーズ家が適切に運営できないとなると王家に召し上げられることになる。領地を運営できないような領主は用無しということで、爵位も剥奪されてしまうのだ。

 「やっぱりそうですよね…。こうなる前に注意なり警告なりを受けてきたんでしょうに、どうにもならなかったのでしょうか。今更言っても詮無いことですけれど」

 「まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるよ。君の言う通り、納税額が減少し始めてからは何度も役人が遣わされている。北部連合組合が民からの訴えを受けて貧民への救済措置などもとっているし、ユリシーズたちのことも助けようとしたんだ。それでも本人たちがあんな風だから匙を投げるしかなかったのだろうね」

 何だかもう、ため息すら出ない。

 「…領地が王家に返還されたとして、そのまま王家の直轄領となるわけではないですよね?」

 「そうだね、しかるべき貴族が代わりに治めるだろう。例えば隣接しているガンザー伯爵領に統合されるとかね。あちらの伯爵は有能だし、旧ユリシーズ領の隅っこに平民になった元領主一家を住まわせてやるぐらいの度量の広さもあるからね」

 ガンザー伯爵というのは数年前に退役した元軍人の男性で、「隻腕せきわんのガンザー」の名で平民からも慕われる四十がらみの偉丈夫である。上背は2メートルに迫り、筋肉隆々で、義理堅く礼儀に厳しいことでも知られている。

 だいたい季節ごとに王都にやって来るのだが、伯爵の侍従や宮廷の小姓が彼に叱られて軍隊式の腕立て伏せやスクワットの罰を受けている姿が王宮の中庭や城下へと続く坂道などで見られると、四季の移り変わりを感じると言う人もいる。

 ちなみにガンザー伯爵には切ない恋物語が好きという一面もあり、王妃様の文学サロンの常連で私とも親交がある。人魚姫のオマージュ作品(と呼んで良いのか分からないが、私はそう思うことにしている)である「ケンタウロス姫」という話を披露したことがあるのだが、伯爵がその話をいたく気に入ってくださったのがきっかけだ。

 弓の名手であるケンタウロス姫が恋した狩人の心臓を射貫かずに自ら死を選び、風になって消える場面では感動して涙ぐんでいたピュアハートの持ち主ガンザー伯爵は、広い王宮内の遠目からでも私を見かけるとすぐに来て声をかけてくれる。

 ちなみにこの話は第一王女リリー様を始めとした名だたる方々のお気に入りでもあるので、異世界でも人気を博す巨匠アンデルセンの凄さを思い知らされる。人魚という存在はこの世界の人にとって馴染みがないためかなり改変してしまったが、名作は界渡りしても人々の心を打つという証明だろう。

 話が逸れたが、おじさまの言うとおりガンザー伯爵は領主としても優秀だと聞くし、民を悪いようにはしないだろう。しかし丸投げは気が引ける。実家には全く思い入れの無い私でも土地と民には愛着があったし、肉親がしでかしたことに対して責任も感じていた。

 領地経営に関してずぶの素人である私がユリシーズ伯爵領を自分の手で守れる自信は全くないが、何かしたい。おじさまにそう伝えると、おじさまは少し難しい顔をした。

 「君が本気でそう思うなら私も支援するが…険しい道になるだろう。ここまで傾いた状態から立て直すためには、まずは君が爵位を継いで女伯爵にならなければいけない。代理や補佐でなく、正当な当主として領地を治めるんだ。そうでなければ思い切った改革は出来ない。ユリシーズの連中に余計な口出しや手出しを一切させないためにも、全ての権利を君が握る必要があるんだ。同時に大きな責任が伴うし、君の将来も制約を受けることになる。だから、よく考えてほしい」

 正直なところ、私は怯んだ。おじさまの言うことは至極真っ当だし納得できる話だが、自分が当主になるなんて考えたこともなかったのだ。若輩者で女の私が伯爵位を継ぐというのは並大抵のことではないし、私が想像していた未来とはかけ離れた人生を生きることになる。

 「…はい、じっくり考えてみます」

 「聞きたいことがあれば何でも聞いてくれたら良いし、いつでも相談にのるよ。…もし君が当主になるならユリシーズの連中を完全に追い出さなくてはいけないな。それが一番難航するかもしれない。お荷物どころか悪性腫瘍ガンだからね、受け入れてくれるところはそうそう見つからないだろうが…娘を守るためだ、その時は私が何とかしよう。国王陛下がどういう意向でいらっしゃるのか気になるから、とりあえず明日にでもユリシーズ突撃の件を奏上するよ」

 私は頷いた。遠くで教会の鐘が鳴るのが聞こえる。今日はやけに過ぎ去るのが早く感じる時間だが、いつだって皆に平等に進んでいる。そして遠く感じる未来は、実はきっとすぐそこにあるのだ。未来を形成するのは現在なのだから。

 すこぶるカオスな私の「今」をこねくり回して、一体全体どんな未来が出来上がるのだろう。私には想像もつかなかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

処理中です...