【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真

文字の大きさ
50 / 74

50.愛する人には惜しみない愛を

しおりを挟む
 両親が帰るとすぐ、おじさまは私を連れて応接間から居間へと移った。そして私を肘掛け椅子に座らせ、メイドを呼びんで紅茶を淹れてくれるよう頼んだ。

 「そうだ、クランペットも少し用意してもらっていいかな?友人にジャムをいただいてね」

 おじさまはそう言うと、袋からシンディーお手製のジャムを取り出した。

 「呼んでもいない客の相手で疲れたね。甘いものでも食べてゆっくりしよう」

 おじさまの言葉に、私は頷いた。時計を見ると4時15分だった。ランドルたちにさよならを言ってからまだ2時間しか経っていないことに私は驚いた。こんなに短時間でここまで疲弊することはなかなか無い。

 私とおじさまは程なくして運ばれてきたクランペットにシンディーからもらったジャムをたっぷりのせて、熱い紅茶と一緒にいただいた。

 「ブラックベリーか、嬉しいな。私の好物だ」

 「そうなのですか、知らなかったです」

 「うん、前世から好きなんだ」

 おじさまは普段あまり前世の話をしないのだが、子どもの頃に毎年ベリー摘みやジャムづくりをしていた話を聞かせてくれた。両親の話で暗い気分になっている私の気を紛らわせるためだろう。前世のおじさまはのどかなルイジアナの田舎町に暮らしていたそうだ。時期が来るとお母さんやお兄さんたちと色々な種類のベリーを採り、ジャムをたくさんつくってご近所に配るのが恒例だったらしい。

 「私たち一家はとても近所の人に助けられていたから、母はせめてものお返しにとしょっちゅうお裾分けをしていたよ。我が家の父親は生活費を入れるどころか、母や子どもたちを殴っては金を奪っていくようなろくでなしでね。私が生まれた頃には全然家には帰って来なくなっていた。だからそれなりに大変だったし貧しかったが、周りのおかげで明るく暮らせていた」

 おじさまが弱い立場の人々に優しく、民のことを深く考えているのはその経験があるからなのだろう。おじさまこそ領主の名にふさわしい人だ。権力を振りかざすことも驕り高ぶることもなく、自分のために民を苦しめることなど決してしない。民の幸せがあってこそ豊かな領地が存在し得ると考えているのだ。だからこそ国王陛下から頼りにされ、貴族たちからも尊敬され、民からも慕われている。

 私のことを昔からずっと気にかけて色々良くしてくれたのも、おじさまが前世で父親のせいで苦労したり近所の人に助けられたりした記憶があるからなのかもしれない。きっと放って置けなかったのではないだろうか。私はおじさまの話を聞きながらそんな風に思った。

 シンディーの言った通りジャムは甘さ控えめで、ベリーの爽やかな酸味が生きていて美味しかった。小さい頃に生のブラックベリーを食べたときには種の食感が気になって苦手だったのだが、今はむしろそのカリカリとした歯触りが楽しかった。ふわふわもちもちのクランペットと良い香りの紅茶がジャムの味をさらに引き立てる。

 「私、こうして美味しいものを食べるのが何よりの気分転換になります」

 「分かるよ、私もそうだ」

 おじさまはにっこりしてそう言い、美しい仕草で紅茶を飲んだ。それにしても、私はおじさまのことをあまり知らないのかもしれない。これからおじさまの好物をたくさん知って親孝行をしていきたい。私にとって親と思えるのはおじさまだけだし、今後何があろうとそれは変わらないだろう。

 実の両親が暮らしに困ろうが路頭に迷おうがどうでもいいと思ってしまう私は、薄情なのだろう。でも多分それは向こうも同じなのだ。自分たちが困らない限り私のことは必要ではなく、思い出しもしない。だからそれぞれ、自分の愛する人たちを大切にして生きていけば良い。私にとってそれはおじさまであり、親しい友人たちであり、私を大事にしてくれる王宮の方々だ。そして、今は遠く離れている私の「特別」。強靱な肉体と精神、そして優しく繊細な心を持った愛しい人。

 (会いたいなあ…)

 ここ数日の怒濤の展開が、その気持ちを加速させていた。会わずにはいられないと思うほど。

 「あの、おじさま。領地の問題とアルマンさまのことが解決したら、辺境伯領のお屋敷に行きたいです。私、テオドールに会いたいのです。毎日毎日そう思いますし、昨日より今日の方がもっと会いたい…」

 これまで私は意固地になっていた。行こうと思えば会いに行くことも出来たのに意地を張っていた。誕生日プレゼントのお礼状すら書かなかった。しかし、意地よりも大事なものがある。優先順位を見誤って愛する人を大切にしなければ、私はこの先後悔するだろう。おじさまは私の言葉に、優しく微笑んだ。

 「ああ、ぜひおいで。あの頑固者で偏屈の意気地なしに言いたいことを何でも言って、ついでに叩いたりつねったりしてやるといい。君を泣かせた罰だ、私が許可しよう」

 「そうしてやります。それはもう、酷い目に遭わせてやりますわ」

 私たちは笑った。そして私は、今一番気になることをおじさまに尋ねてみることにした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

処理中です...