【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真

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22.おめかしは誰のため

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  シンディーとのランチからちょうど2週間後の夕方、私は自分の部屋で夜会に行くための支度をしていた。綺麗なAラインが気に入って選んだターコイズ色のドレスと、シンディーがそれに合うよう見繕ってくれたパールのネックレスとイヤリング。ほんのりラメが入ったオフホワイトのハイヒールは、今回のために奮発して購入した。普段あまり高額なものは買わないのでドキドキしてしまったが、きっと婚活には必要な投資である。

 髪は緩めに編み込みをしてふんわりとまとめ、お化粧も濃くはせず柔らかいイメージで仕上げた。これは、ふわふわ~っとした雰囲気を出した方がとっつきやすいオーラが出るのではないだろうかという私の浅知恵によるものであるが、なにしろ恋愛偏差値15ぐらいなので正解なのかよく分からない。前世でも今世でもモテとは無縁の女である私は無難なシルバーの髪留めをつけようと一旦手に取ったが、考え直して初めて自分で買った髪飾りをつけた。

 ブルーとグリーンのグラデーションがドレスの色に合うと思ったからで、別にテオドールとの思い出に浸っていたわけではない。というのは嘘で、私は今日ずっとテオドールのことを考えている。我ながらしつこすぎると思う。

 失恋には新しい恋だという。それを私は信じたいと思う。しかし、私にとってテオドールの存在はあまりに大きすぎた。あの不器用な優しさ、飾らない態度、何にも囚われない自由さ、すべてが懐かしくてたまらない。

 『エマ』

 そう私の名を呼ぶあの低い声を、私の目を覗き込む真っ直ぐな瞳を、思い出さずにはいられない。だが、私はその気持ちに区切りをつけようと思った。

 (そもそも、そんなに良い思い出ばかりでもなかったし。いけないいけない、無駄に美化しちゃってる)

 それは確かな事実であった。テオドールの趣味に付き合うのは楽しかったが、大変なこともすごく多かったのだ。

 やれ珍しいキノコを採りに山奥へ行くから付いてこいだの、川に巨大ウナギがいるから捕まえに行こうだの、甘酸っぱい恋愛イベントからはほど遠かった。もはや採取や狩猟のクエストである。

 一度家族とともに辺境伯家のお茶会に呼ばれたときには、なぜか蜂蜜の収穫を手伝わされたこともある。テオドールが養蜂をしていることは知っていたが自分には関係のないことだと思っていた私は、蜂に刺されるのが怖くて半泣きになりながらも養蜂箱を開けてできるだけ速やかに蜜を回収した。

 (今思うと、よくもまああんなことを。本当にしょうもない男)

 そう思いながらも、テオドールと過ごした時間を思い返すと自然と笑みがこぼれるのを止められなかった。

 『大丈夫だ、エマ。蜂たちはお前を刺したりしねえよ』

 その言葉を信じられたのは、他ならぬテオドールがそう言ったからだ。山で野犬に出くわしたときも、川べりで私が足を滑らせて落ちかけたときも、テオドールは真っ先に私を助けてくれた。自分が危ない目に遭おうと、身を挺して私を守ってくれた。お礼を言うと、何食わぬ顔で当たり前のことだろと言った。

 『俺がお前を誘ったんだから、面倒見るのは当然だ』

 でも考えると、テオドールは意図的に私を家族のところから連れ出してくれていたのだろう。それに採りに行ったポルチーニ茸も、捕まえて食べたウナギも、私の好物だ。蜂蜜もそうだ。テオドールは甘い物をほとんど食べないのに、なぜ養蜂なんか始めたのか不思議だった。私はテオドールにもらった、特別美味しいコムハニーをスコーンに乗せて食べた。テオドールはそれを見て、

 『お前、本当に食うのが好きだな。食ってるときが一番嬉しそうじゃねえか』

 と笑っていた。食べるのが好きなのは本当だが、テオドールがいつも美味しいものを食べさせてくれるから毎回大喜びで食していたのだ。バーベキューをした時には綺麗に焼けたお肉を渡してくれて、自分はちょっと焦げたのを食べていた。焚き火で魚やエビを焼いたときもだ。

 『俺はいつでも食えるからいいんだよ、しょうもない遠慮してないで食えよ』

 淡々と調理しながら、ぶっきらぼうに差し出してきた。なぜあんなに良くしてくれたのだろう。私はこの5年間、それについてしばしば考えた。

 (もしかして、テオドールも私のことを好きだったのでは)

 そう思ってみたり、

 (いやいや、それは思い上がりというものだよね)

 と否定したりを繰り返してきた。色々考え合わせると、やはりテオドールは私を仲の良い友人のひとりとしか思っていなかったように思う。男友達に対してもとても面倒見が良かったし、あれこれ振る舞うのが好きだったからだ。

 それに、万が一テオドールが私のことを好きだったとしてもどうにもならない。テオドールは子どもを持つことを恐れていて、結婚しないと固く決めているようだった。その決意は簡単には揺らがないだろう。私が「温かい家庭を築きたい、子どもが欲しい」という切実な望みを簡単には諦められそうにないのと同じで。

 私はちょっと泣きそうになったが、必死でこらえた。これまでの人生で一番丁寧にほどこした化粧が台無しになってしまう。今日は意地でも泣かない、そう思いながら時計を見た。もうじきシンディーが迎えに来る時間だ。

 私は指先でつまむようにして前髪の毛流れを整え、淡いピンクの口紅を塗り直した。
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