【完結】惨めな最期は二度と御免です!不遇な転生令嬢は、今度こそ幸せな結末を迎えます。

糸掛 理真

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21.離れて気がついたこと

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 翌日私は午後三時からの出仕予定だったので、友人と一緒に王都の中心街でランチをした。友人はシンディーという名で、侯爵家の出身だが伯爵家の次男と大恋愛の末結婚した。私が今一番仲良くしている相手であり、そして私が転生者であると知っている数少ないうちのひとりでもある。

 私たちは新鮮な海鮮料理が食べられるレストランへ行き、美味しいドレッシングがかかったカルパッチョやレモンと塩でいただくオイスターの前菜をテラス席で楽しんだ。午後から仕事じゃなければ白ワインを一杯飲みたいところだ。しかしそんな欲望は一旦頭の隅に追いやり、私はシンディーに折入って頼み事をした。

 「あなたに似合う夜会向きの格好?そりゃ喜んで見繕ってあげるけれど、どういう風の吹き回しなのかしら?」

 友人のシンディーは小首をかしげ、どこか怪しむような表情を浮かべた。斜めに流した淡い茶色の前髪の下で、はしばみ色の目が私を見つめる。

 「夜会や舞踏会なんて行きたがった例しがないのに、一体どうしたの?」

 シンディーの声は心地よいアルトの響きで、見た目もいかにも大人のお姉さんという感じだ。私より1歳年上なだけだが、この色気はどこから醸し出されているのだろうか。生まれつきなのか、それとも人妻特有のものなのか。どちらにしても、やはり恋愛や結婚関係でぜひ頼りたい相手である。相談する上で恥ずかしがっていては話にならないと思い、私は全部話すことにした。

 「その…そろそろ結婚したいと思って。というか子どもが欲しい」

 「これまた突然ね!」

 シンディーは面白そうにころころと笑ったが、すぐに真面目な顔になった。

 「夜会で出会いを求めるつもりなの?リスクがあるわよ。結婚を前提とした真剣な出会いを求めているなら、紹介の方が良いんじゃなくて?私は今ちょっと心当たりがないけれど、どなたか信頼できる方にお願いするとか」

 「そうなんだけど…一対一なんて、緊張しすぎてどうにかなってしまいそうなの。まずは、もう少し気軽な出会いに期待したくて」

 「あぁ…あなた緊張しいだものね。うーん…じゃあ、今度私と一緒に行きましょうよ」

 「ええっ、良いの?嬉しい」

 「良いわよ、私も久しぶりに夜出かけたいし。あなたとならランドルも安心するわ」

 ランドルというのはシンディーのご夫君で、薬剤師をしている。私が王都に来て少し経った頃、エルネストおじさまに同じ転生者ということで紹介してもらったのがランドルだ。以前おじさまから聞いていた、前世は古代エジプトに生きていた男性である。薬学に精通しており、彼の営む薬局は健康に何かしらの問題を抱えた大勢の顧客でいつも賑わっている。
 
 ランドルはシンディーより6歳年上の30歳で、頼りになる人だ。そして、とにかく妻のことを溺愛している。見ていると、ちょっとうらやましくなる。そんな愛され妻のシンディーは、思い出したように私に尋ねた。

 「でも、幼馴染の君は?もう一度会って話さなくて良いの?」

 私の心臓は、持ち主の私がびっくりするほどビクッと跳ねた。テオドールとは、ここに来る前に別れて以来会っていない。おじさまは年に一度か二度は王都に滞在するので会うことができるが、テオドールは決して来ない。都会が苦手で、自然の少ない場所には一日だっていられないのだ。野生動物と同じである。
 
 しかし、テオドールを責めることはできない。そもそも、私だって辺境伯家を訪ねてはいないのだから。おばさまの命日でありテオドールの誕生日でもある5月30日には訪問すると言ったのに、私はここに来て以来一度も行っていない。

 テオドールには会いたい。とても会いたい。だが、どうしても躊躇してしまうのだ。好きな女に長生きしてほしい、そう語ったテオドールの顔を思い出すと何とも言えない苦しい気持ちになる。私は毎年おばさまのためにお花を手配しておじさまに供えていただき、テオドールにはバースデーカードを送るだけだ。手紙の苦手なテオドールからは一度も返事は来ていない。

 「会いたいけど、会わない方が良い気がする」

 「どうして?…あなたやっぱり、その方のことをまだ好きなんじゃないの?」

 私は少し躊躇ったが、やはり正直に答えた。

 「…うん」

 自分でも離れてみて初めて気がついたのだが、私はテオドールを愛している。彼に結婚を申し込んだ時は恋をしているという自覚はなかったのに、おかしなものである。慣れない仕事で失敗して落ち込んだり、たくさんの人と関わる毎日に疲れたり、理由は分からないが無性に寂しくなったり、そんなとき一番に思い出すのはいつもテオドールのことだ。

 「好き。まだ、好きよ」

 「それなら…」

 「だからこそ、会ったら決心が鈍ると思う。テオドールと結婚できないのなら、こんな気持ちは忘れたい」

 「でも、もしかしたらテオドールさんも考えが変わっているかもしれないわよ」

 「もしそうなら…少しでも私との結婚を考えてくれるようになったなら、一度ぐらいは連絡をくれたと思う」

 「まあ、確かにね…」

 私は頷いた。一度も会いにこない、手紙の一通も寄越さない。テオドールが私のことを想ってはいないのは確かだった。
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