うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

53 ほんとうの望み

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「ぼくは、きみを吹いていたい。
 きみじゃなきゃ、だめなんだ。」
なぁんて言われたら、嬉しいですよね! 

代わりのいない、唯一の存在だと、
求めていた相手に言われたんですから。
ふえだって、そう思っていたんです。でも…、

ニノくんが、他のだれよりも自分を選んでくれて、両想いになったと、はっきりわかったというのに、
ふえは、手放しでハッピーになれなかったのです。

「だから、ぼくは、きみにはなれない。」

ニノくんが、こう言ったから。


『これって、なんなの?』
なんと言っていいか、わからない。
でも、勝者の余裕があったふえは、考えてみたのです。

『ぼくの本当の望みは、なに?』

むずかしいことはありません。
ちょっと考えたら、わかることなのです。
ただし、その状況にならないと、考えてみようと思わないのかもしれません。


『そうだ。ぼくは…、
 ニノくんになりたかった。』

 ダカラ、嫌ナンダ。



臨界で止まっていた空間が、再び大きく歪みます。
オークとテンくんは、気を持っていかれそうになり、必死に耐えていました。

「これは、すごいな。
 ランの2ndがいなかったら、森も動物も、まともに影響を受けてしまうんだろ?
 こんなの、いつまで続ければいいんだよ。」
と言って、テンくんが、オークを見ると、

「あ、おれ、もうダメ…。」
オークは、演奏をやめて、バイオリンを構えたまま座りこみました。

「え~!おい、しっかりしてくれよぅ!」
ランは?
と、テンくんが、ランを見ると、
演奏を続けていましたが、空間の歪みに惑わされているようで、苦戦しています。

オルガンの音も、弱くなってきました。
うさぎの楽器やさんがペダルを踏めなくなったのかもしれません。

「これって、まずいんじゃないの?」

銀色トウヒの葉が細かくゆれています。
葉や幹を通る水分が、影響を受けて振動しているのです。
すべての銀色の下葉が、小刻みにキラキラと光ります。
それは、もう満天の星空の下にいるような、美しい光景でした。

ただ、その光は、
だんだん輝きが薄れていきます。

銀色の光が、灰色になっていくのです。


 枯れる!


テンくんは、思いました。
「こうやって、枯れていくんだ。
 このまま、ここにいたら、オレたちもこうなる。…逃げないと。
 はやく、逃げないと!」
 避難が遅れれば、みんなやられてしまう。
 リンだって、ランだって…、
 守らなきゃ!

テンくんは、決断して行動します。
現役のコンサートマスターですから、責任感があるのです。
演奏をやめて音楽堂を出ようと、
オークの手をつかみました。
 先にいく。
 リン、ラン!ごめん!
 


テンくんが、オークを連れて音楽堂を離れようと向いた先から、打楽器の音が聴こえてきました。

振動を打ち消すような、ロール音。

 …スネアドラム?


続いてファンファーレを思わせるトランペットの金管音。



音の通りやすい楽器が、演奏をつないでいるうちに、
わやわやと急ぎ足でやってきたのは、森のオーケストラのメンバーたちでした。

「はやく、はやく!」
「いたぞ、あそこだ!」


バイオリン、ビオラ、
チェロ、バス、
クラリネットにフルート、
オーボエもいるんです。


ホルン、トロンボーン、
それから…、
ああ…指揮の…マエストロ!



「こっち、こっち!」と、先導しているのは、白いうさぎ。

てっきりオルガンの後ろでバテていると思っていた、うさぎの楽器やさんです。
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