うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

52 こがね色の中で

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ランは、楽器やのドアの外で
ニノくんを待っていました。

少し重めのドアの、小さな飾り窓から、
こがね色の光がもれています。

黒いアイアンで作られた飾り窓から、少しのぞくと、
ニノくんは、誰もいない仕事机のそばにたたずんでいました。

ただ、店の中のこがね色の光がまばゆくて、
反射したプリズムの中にあるものが、自分にだけ見えていないのかもしれないな、と、
妙に納得したので、声をかけずに、そっとしておきました。


ずいぶん時間がたってから、ドアが開いたとき、
ニノくんは、もう迷いのない顔をしていました。

ニノくんの目の中に、しっかりとした意思が、見てとれたのです。


「それじゃあ、行こうか。」
ランが言うと、ニノくんは、何も言わずにうなずきました。





 
『どこへ、行っていたの。』
ニノくんが、気がつくと、手元のふえは、ちょっとおこっていました。

演奏は続いています。
『もう、きみはぼくになったはずでしょう?
 ぼくから意識がはなれるなんて、おかしいよ。』

「うん。」
 ニノくんは、少し間をあけて、いいました。

「きっと…、ぼくは、きみになれないんだ。」


『なに、してきたの?
 あの邪魔なふえを吹いてる、あいつと?』
ふえは、ゆらりと不愉快なきもちを現しました。

あっという間に、手に負えないほどに膨らんだ怒りが、
先ほどの歪みを、さらに大きくしていきます。

「まって。」

ニノくんがいいました。

「わかったんだ。

 ぼくは、きみが好き。」


ふえの怒りは、ピタリと勢いを止めて、
ニノくんのことばの続きを待ちました。

「ぼくは、きみに出会わなかったら、
 こんなふうに演奏することはできなかった。
 この喜びを知ることもなかった。

 きみが欲しかったのは、ぼくの方だ。」

ニノくんは、こがね色の中で、うさぎの楽器やさんと話して、
やっとわかったのです。
 
「ずっと、うまくいかないことを、
 きみのせいにしていた。ごめん。」

本当は、わかっていたのに、
言ってはいけないと思っていたのかもしれません。
あの、お披露目コンサートの日から、
自分が許さなかったのかもしれません。

 でも…、

 こがね色の中の、うさぎの楽器やさんが、ふえが好きだって言っていいんだよって、言ってくれたんだ。
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