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第2章 星屑のビキニアーマー
旅路
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翌朝、タケルとクロナは馬車に乗ってレナスを出発した。
ラグラークまでの道のりは決して険しくは無かったが、たまに現れる魔物退治と、夜の急激な寒さに、タケルの心は何度も折れそうになっていた。
「だらしないわ。魔物は全て私が退治しているし、夜だって私と同じ毛布に包まれば良いものを、タケルが頑なに拒んでいるだけなのよ」
「当たり前だろ。同じ毛布で眠るなんて、恥ずかしくてできないよ。僕は子どもじゃないんだぞ。そりゃ、魔物退治については感謝してるけど……。仕方ないじゃないか。一般人なんだから。僕は」
馬車の中は雨風も凌げるようになっている。しかし、小窓などの隙間から冷たい空気が入り込んでくるのだ。魔法で何とかできないものかとタケルは考えたが、それをクロナにお願いするには、あまりにもばつが悪すぎた。
「馬は暴れたり逃げたりしないの?」
「暴れもしないし、逃げもしないわよ。だって、そう言い聞かせてるもの」
馬車は、一頭の馬によって引かれている。馬に鞭を打つ者はいない。その必要が無いからだ。
この世界の馬は、タケルが知っている馬よりも小柄で首が長い。魔物に襲われでもしないかとタケルは心配していたが、正面から襲ってくる魔物の大半は、馬が蹴り飛ばして倒している。
「タケルより勇気があるのよ」
「いちいち発言が刺々しいんだよ。そりゃ僕だって、力さえあれば戦うさ」
「力ならあるじゃない。タケルは私より力があるわ。その自覚が無いだけ」
腕力なら、確かにタケルが上だろう。しかし、魔物が相手となれば、腕力だけでは勝ちようがない。戦闘の知識と経験、そして武器が必要なのだとタケルは思った。
「そうか……。どれも努力次第で、手に入れられるじゃないか」
タケルは馬車から降りて、武器として使えそうな長さの棒を拾ってきた。そして、強化魔法で繰り返し強度を増していく。こうすることで、見た目は木でも鋼鉄の強度の武器が完成する。
「クロナさん。僕に戦いの基本を教えてくれないか」
「棒術なら私の専門外よ。残念だけど……私は剣も槍も使えないの。杖なら使えるけど、それでも良い?」
「もちろんさ。僕は敵との距離の取り方とか、攻撃を避けるときの動きとかを知りたいんだ」
寒空の下、タケルはクロナから戦いの基本を学んだ。最初は足を絡ませ転んでばかりいたタケルだったが、夜が明ける頃にはクロナの動きに追いつくまでに成長していた。
タケルの成長っぷりにクロナは驚いていた。そもそも、筋肉の付き方が根本的に違うのだ。これは、タケルが超人的だからではなく、単にこの世界の人々の筋力が低いためである。
魔物退治にタケルが参加したことで、クロナの疲労は半分以下にまで減った。
魔法力に余裕ができたクロナは、馬車の中でタケルに新しい魔法を次々に教えていた。
「タケルは補助魔法が得意のようね。せっかくだから、高度な魔法も教えておきたいけど」
タケルが覚えた魔法は、主に戦闘を有利にするものが多かった。速度や防御力を一時的に上げる魔法や、敵の目をくらます魔法などが代表的なものだが、それ以外にも、クロナの攻撃魔法の効果を増大させる補助魔法も習得していた。
「タケルはとても器用で一生懸命で、教え甲斐があるわ。タケルの国では、みんなそんなに優秀なの?」
「僕が優秀とは思えないけど、日本人は器用とか、よく外国の人が言ってるのをテレビとかで聞いたりはするよ」
クロナは一瞬呆気にとられた。
「うーん……。タケルの言葉が、時々分からなくなるときがあるわ。ちゃんと私に分かる言葉で喋ってちょうだい」
この時タケルは思った。やはり何か、強い魔法の力などによって、言葉の変換が行われているのではないかと。その変換が追いつかなくなるとき、言葉は本来の響きを取り戻し、発せられるのではないかと──
✴︎ ✴︎ ✴︎
馬車はゆるやかな山道に入って行った。この辺りに魔物が出現するという報告は無かったので、クロナはしばらく仮眠を取ることにした。
クロナが寝息を立てている横で、タケルはビキニアーマーに強化魔法をかけていた。しかし、ビキニアーマーは防御力が全てでは無い。見た目の美しさも重要であることを、タケルは心得ていた。そこで、タケルは覚えたばかりの魔法を試してみることにした。
色彩魔法。つまりは着色である。これはクロナが趣味の一つで覚えた魔法なのだが、比較的簡単にできる魔法なので、タケルにも伝授したのだ。だが、魔法で色を塗るのは紙にクレヨンで色を塗るのとは勝手が違う。頭の中でイメージした色を、そのまま対象物に転写するのが色彩魔法なのだ。
「何色に塗ろうかな……。イメージを転写するなら、何もベタ塗りにする必要もないはずだし。やり方によっちゃ、景色を転写することだってできるはずなんだ。この魔法を使えば、馬車を痛馬車に変えることだって可能だぞ。ま、そんなことをしたら、間違いなくクロナさんに叱られるだろうけど」
タケルはアニメキャラの絵が転写された馬車を想像してみた。しかし、馬車を引いてくれている馬に申し訳なくなってきたので、これ以上考えるのをやめた。
「湖や草原、星空なんかを写してみたらどうかな……。ねぇ、クロナさんならどれが良い?」
眠っているクロナに、タケルは何となく話しかけてみた。当然、その問いにクロナが答えるはずなど無いと思っていたが、クロナは夢見心地に「星空が好き……」とだけ答えた。
ラグラークまでの道のりは決して険しくは無かったが、たまに現れる魔物退治と、夜の急激な寒さに、タケルの心は何度も折れそうになっていた。
「だらしないわ。魔物は全て私が退治しているし、夜だって私と同じ毛布に包まれば良いものを、タケルが頑なに拒んでいるだけなのよ」
「当たり前だろ。同じ毛布で眠るなんて、恥ずかしくてできないよ。僕は子どもじゃないんだぞ。そりゃ、魔物退治については感謝してるけど……。仕方ないじゃないか。一般人なんだから。僕は」
馬車の中は雨風も凌げるようになっている。しかし、小窓などの隙間から冷たい空気が入り込んでくるのだ。魔法で何とかできないものかとタケルは考えたが、それをクロナにお願いするには、あまりにもばつが悪すぎた。
「馬は暴れたり逃げたりしないの?」
「暴れもしないし、逃げもしないわよ。だって、そう言い聞かせてるもの」
馬車は、一頭の馬によって引かれている。馬に鞭を打つ者はいない。その必要が無いからだ。
この世界の馬は、タケルが知っている馬よりも小柄で首が長い。魔物に襲われでもしないかとタケルは心配していたが、正面から襲ってくる魔物の大半は、馬が蹴り飛ばして倒している。
「タケルより勇気があるのよ」
「いちいち発言が刺々しいんだよ。そりゃ僕だって、力さえあれば戦うさ」
「力ならあるじゃない。タケルは私より力があるわ。その自覚が無いだけ」
腕力なら、確かにタケルが上だろう。しかし、魔物が相手となれば、腕力だけでは勝ちようがない。戦闘の知識と経験、そして武器が必要なのだとタケルは思った。
「そうか……。どれも努力次第で、手に入れられるじゃないか」
タケルは馬車から降りて、武器として使えそうな長さの棒を拾ってきた。そして、強化魔法で繰り返し強度を増していく。こうすることで、見た目は木でも鋼鉄の強度の武器が完成する。
「クロナさん。僕に戦いの基本を教えてくれないか」
「棒術なら私の専門外よ。残念だけど……私は剣も槍も使えないの。杖なら使えるけど、それでも良い?」
「もちろんさ。僕は敵との距離の取り方とか、攻撃を避けるときの動きとかを知りたいんだ」
寒空の下、タケルはクロナから戦いの基本を学んだ。最初は足を絡ませ転んでばかりいたタケルだったが、夜が明ける頃にはクロナの動きに追いつくまでに成長していた。
タケルの成長っぷりにクロナは驚いていた。そもそも、筋肉の付き方が根本的に違うのだ。これは、タケルが超人的だからではなく、単にこの世界の人々の筋力が低いためである。
魔物退治にタケルが参加したことで、クロナの疲労は半分以下にまで減った。
魔法力に余裕ができたクロナは、馬車の中でタケルに新しい魔法を次々に教えていた。
「タケルは補助魔法が得意のようね。せっかくだから、高度な魔法も教えておきたいけど」
タケルが覚えた魔法は、主に戦闘を有利にするものが多かった。速度や防御力を一時的に上げる魔法や、敵の目をくらます魔法などが代表的なものだが、それ以外にも、クロナの攻撃魔法の効果を増大させる補助魔法も習得していた。
「タケルはとても器用で一生懸命で、教え甲斐があるわ。タケルの国では、みんなそんなに優秀なの?」
「僕が優秀とは思えないけど、日本人は器用とか、よく外国の人が言ってるのをテレビとかで聞いたりはするよ」
クロナは一瞬呆気にとられた。
「うーん……。タケルの言葉が、時々分からなくなるときがあるわ。ちゃんと私に分かる言葉で喋ってちょうだい」
この時タケルは思った。やはり何か、強い魔法の力などによって、言葉の変換が行われているのではないかと。その変換が追いつかなくなるとき、言葉は本来の響きを取り戻し、発せられるのではないかと──
✴︎ ✴︎ ✴︎
馬車はゆるやかな山道に入って行った。この辺りに魔物が出現するという報告は無かったので、クロナはしばらく仮眠を取ることにした。
クロナが寝息を立てている横で、タケルはビキニアーマーに強化魔法をかけていた。しかし、ビキニアーマーは防御力が全てでは無い。見た目の美しさも重要であることを、タケルは心得ていた。そこで、タケルは覚えたばかりの魔法を試してみることにした。
色彩魔法。つまりは着色である。これはクロナが趣味の一つで覚えた魔法なのだが、比較的簡単にできる魔法なので、タケルにも伝授したのだ。だが、魔法で色を塗るのは紙にクレヨンで色を塗るのとは勝手が違う。頭の中でイメージした色を、そのまま対象物に転写するのが色彩魔法なのだ。
「何色に塗ろうかな……。イメージを転写するなら、何もベタ塗りにする必要もないはずだし。やり方によっちゃ、景色を転写することだってできるはずなんだ。この魔法を使えば、馬車を痛馬車に変えることだって可能だぞ。ま、そんなことをしたら、間違いなくクロナさんに叱られるだろうけど」
タケルはアニメキャラの絵が転写された馬車を想像してみた。しかし、馬車を引いてくれている馬に申し訳なくなってきたので、これ以上考えるのをやめた。
「湖や草原、星空なんかを写してみたらどうかな……。ねぇ、クロナさんならどれが良い?」
眠っているクロナに、タケルは何となく話しかけてみた。当然、その問いにクロナが答えるはずなど無いと思っていたが、クロナは夢見心地に「星空が好き……」とだけ答えた。
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