星屑のビキニアーマー

ぺんらば

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第2章 星屑のビキニアーマー

彼女に呪いがかけられた理由

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 いくつかの山を超え、馬車は今、巨大な湖に沿って走っている。生命の源と呼ばれるこの湖は、レナスとラグラークの国境にもなっているのだ。

「ここから先はラグラーク領よ。明日からまた長い山道に入るから、今日はこの辺りで休みましょう」

 クロナは馬車を降りると裸足になり、湖に向かって歩き始めた。そして服を全て脱ぎ捨て裸になると、足先からゆっくり湖に身体を沈めていった。

 タケルは遠くからその様子を眺めていた。夜になれば気温は急激に下がる。そうなる前に水浴びでもしているだけなのだろうと思っていた。しかし、タケルはクロナの様子がおかしいことに気づいた。まるで苦痛に耐えているような、そんな表情をしているのである。

「クロナさん?」

 タケルはクロナに近づき声をかけた。

「タケルはそれ以上来ない方が良いわ。湖面には、たくさんの精霊たちが飛び回っているから」

「精霊が?」

 悪意に満ちた無数の視線と、せせら笑うような声がタケルの頭に直接響いてくる。

「これは、一体何なんです?」

「精霊たちが食事をしているのよ。タケルの身体を狙っている精霊もいるようね」

「精霊って、僕たちの身体を食べるんですか?」

 魔法を使うには精霊の力が欠かせない。しかし、精霊たちは無償で力を提供しているわけではない。魔法を使う者は、その代償として精霊たちに身体を食われる運命にあるのである。

「食べると言っても血肉を喰らうわけではないの。不純物を食べてくれるだけだから」

「でもさっき、とても痛そうな顔をしてたじゃないか」

「精霊の中には、たまにイタズラ好きな子がいるのよ。さっきは胸をかじられたわ」

 クロナはまた苦痛の表情を浮かべた。

「困ったわ。どうやら、とんでもないイタズラっ子が紛れてるみたい。二度も続けて噛まれるなんて……」

「クロナさん、ちょっと待っててください!」

 タケルは馬車に戻り、ビキニアーマーを抱えて持ってきた。

「これを装備すれば、胸が守られますよ」

「そんなの必要ないわ」

「今これを使わずに、いつ使うって言うんです!」

 タケルはクロナの背後に回ると、その美しい裸体にビキニアーマーを装着し始めた。こういうときのタケルは女性の裸を見ても臆することがない。その手際良さにクロナは圧倒され、なすがままに鎧を身につけた。

「前より強度は増してるし、細かい部分も改良してあるから、動くときの干渉は無くなっているはずだよ」

「そうね……。悪くはないわ。だけど、精霊たちの食事を妨げるのは良くないと思うの」

「乳首をかじられてるんでしょ」

 陽が落ちた後も、クロナは精霊たちに身体を委ねていた。長旅で魔法を使いすぎた分、精霊たちの食事量も多くなるのだ。しかし、鎧で守られているせいか、恥部をかじられることは無くなっていた。

「これでまた、しばらくは魔法を使うことができるわ」

「あのさ。クロナは星空が好きなんだよね?」

「いきなりどうしたの? 星空は好きよ。絵本でしか見たことは無いけど。この真っ暗な空に無数の星が輝くんでしょ。それって素敵よね」

 鈍色の空に星は一つも見えない。だが、かつてはこの世界にもあったのだ。満天の星空が。

「僕の記憶の風景で良ければ……クロナさんに見せてあげられるかも」

「タケルの記憶?」

「あの曇り空に映すことはできなくても、その鎧に転写させるくらいなら」

 タケルは星空をイメージして、ビキニアーマーに転写魔法を放った。その刹那、ビキニアーマーの表面には無数の星が散りばめられ輝き出した。

 クロナは湖面に映る自分の姿を見て目を丸くしている。そこには今まで絵本でしか見ることのなかった星空が見えていたのだ。

「綺麗だわ……」

 タケルは前に一度、夢の中で同じ風景を見ている。あの時スケッチブックに描いた少女がクロナだとしたら、タケルは予知夢を見ていたということになるのだが、時の流れとは必ずしも同じではない。

「魔法の効果はそう長く続かないけど、少しでも喜んでもらえたなら良かったよ」

「ちょっと待って。私の魔法を使えば、この星空をずっと維持できるかもしれない」

 欲望は、ときに人の判断を誤らせる──

「永久魔法。この魔法は古代魔法の一つで、レナスの民にしか使えないの」

 それは、同時に禁忌魔法でもあった──

 永遠を願うことは、魂の理にも逆らう行為であり、その理を破ることは、人であることを捨てる意味でもある。

 クロナがこの魔法の怖さを知らぬはずはなく、全ては若さ故の好奇心がもたらした愚行であった。

 永久魔法をかけられた鎧は、そこに宇宙を保ち続けることが可能になったが、クロナの身体に消えることのない呪いをかける。

 やがて呪いは時空を超えて、一人の少女の身体へ宿すのだ。

 
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