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第6話 閨教育
しおりを挟む「あ、血が出てるよ。怪我したの?」
アミードはアムルの前に片膝をつくと、アムルの人差し指を口にくわえた。
「やっ……」
「治療するだけだよ」
アミードの舌から、治癒の魔力が伝わってくる。
アミードは、アムルと違い、その魔力もけた違いに強かった。
同じ双子なのに、オメガのアムルとは違い、アルファのアミードは剣の腕も、勉学も、魔法もなにをやらせても一流だった。身長だって、オメガと診断されて以降全く伸びていないアミルとは違い、アミードはぐんぐん伸びて、今では頭一つ分も違う。
「ありがとう……」
もうすっかり治った指を、アムルはしげしげと見る。
「刺繍してたんだね。あ、これ、もしかしてマーリクへの贈り物?」
アミードの顔が少し翳る。
「母上に無理やりやらされてるんだ。不器用だから全然すすまなくて…‥」
「俺に任せて。こういうの、実は得意なんだよね!」
アムルから刺繍針を取り上げると、アミードは刺繍を刺し始めた。
「すごい! 器用だね、アミード」
アムルには難しかった細かい部分も、アミードは上手に仕上げていく。
「これ、俺が完成させておくから、出来上がったらマーリクにあげたらいいよ」
「でも……」
「だれも俺がやったなんて思わないって!
それに俺たち双子なんだから、俺がやったって、アミルがやったって同じことでしょ?」
「そうなのかな……」
「そうだって!」
その時、アムルの部屋の扉がノックされた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
家令に連れられて部屋に入ってきたのは、見たこともない男だった。
歳は30過ぎで、くすんだ灰色の髪をした背の高い端正な顔立ちの男。
「アムル様、こちら王宮から派遣された先生です」
家令がアムルに男を引き合わせる。
「バーズと申します。今日はアムル様に特別な講義を受けていただきたく、参上いたしました」
前に進み出た男は、ねっとりとした視線をアムルに向けた。
途端に、アムルの身体は強張る。
「では、先生、よろしくお願いいたします」
家令は一礼すると、バーズを残して退室した。
「あの、先生……」
「バーズとお呼びください。アムル様……」
バーズはあっという間に、アムルの目の前にきた。
「……っ」
「なるほど、噂にたがわぬ美しいオメガですね」
バーズは警戒するアムルを上から下までじろじろと眺める。
「あの……」
「閨教育、という言葉は聞いたことがありますか?」
バーズはアムルを見つめたまま、言った。
「閨、教育……」
アムルの顔が青ざめる。
「貴方様は、将来の王の側室になられる方です。ゆくゆくは、お子を産むことにもなるでしょう。
そのためにも、大変重要な教育です」
バーズはアムルの両肩に手を置いた。
「オメガと言えど、貴方は男性体です。男の身体を受け入れるには、さまざまな準備や心構えが必要となります。また、お子を産むだけでなく、王の心身を癒し、慰めてこそ、真の側室と言えましょう。
そのために私は、閨での手はずを貴方様に手とり足取り教えるお役目を仰せつかったのでございます」
慇懃なものいいだが、その奥底にはアムルの身体を思いのままにしようという邪な考えが見て取れた。
「でも、私は……、書物でそのような知識は得ているつもりで……」
アムルの言葉に、バーズは首を振る。
「ほかの勉学では書物での知識の吸収も役立つことはありましょう。ただ、この閨教育につきましては、必ず実践が必要となります。王太子殿下を貴方様が喜んでお迎えするのは、重要な任務の一つなのですよ。なに、もちろん最後までは致しません。貴方の初めては、王太子殿下のものですからね……。
それに私はベータなので、安心してすべてお任せください。」
舌なめずりするバーズに、アムルは怯える。
「でも……」
「大丈夫。今日は初日です。痛いことは何もしません。今日はお互いのことを知ることから始めましょうか。
では……、アムル様には服を全部脱いでいただきましょう」
「……」
無言でうつむくアムルに、バーズはねっとりとした口調で語りかける。
「こんなことで恥ずかしがっていてはどうするのです? あなたは、側室になるのですよ。
側室になったら、毎夜毎夜、王をあなたの身体に迎え入れることになるのです。
これからは男に裸を見せるよりも、もっと恥ずかしいことにも耐えなければいけないのですよ」
「わかりました……」
顔を上げ、アムルがブラウスのボタンに手をかけたその時、
「ねえ、その閨教育ってやつ、貴方が相手である必要はあるの?」
凛とした声が部屋に響いた。
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