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第7話 純潔
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アムルが振り向くと、さっきまでカーテンの陰に身を潜めていたアミードが姿を現していた。
「アミード!」
「貴方は?」
バーズが眉間にしわを寄せる。
「アミード・サマラス。アムルの双子の弟です。お見知りおきを」
丁重に礼をすると、アミードはアムルをかばうようにバーズの前に立った。
「たしか、アミード様はアルファでいらっしゃいますね? たとえ双子の兄弟といえど、オメガのお兄様の部屋にこうしていらっしゃるのは感心しませんね。兄弟の間でなにか間違いでもあったらどうされるおつもりです?」
バーズの言葉に、アミードは不敵な笑みを浮かべる。
「私とアムルはもともと一心同体、心配など無用です。
さて、どうでしょう? その閨教育の相手、私が務めさせていただくということにしては。
兄の様子を見ていると、どうやら貴方がお相手では大変不満のようだ。
閨教育は、心も身体も解き放ち、心から感じることが基本ですよね。私は、貴方がお相手では、兄も心を開くことができず、王のためにしっかりと学ぶこともできないのではないかと危惧しております」
「わ、私は王命を受けているのですよっ! 公爵家の子息と言えど、なんと、無礼なっ……」
バーズの顔色が変わる。
「私が相手なら、兄も怯えることなく閨教育を実践できましょう。さあ、どうお考えかな?」
アミードは強引にバーズに歩み寄ると、強い瞳でその瞳を見据えた。
「……」
「バーズ殿、どうか、賢明なご判断を! なに、ご心配なく。
王太子のマーリク殿下には私からお話しして許可を得ましょう。
殿下と、アムルと私は幼馴染。マーリク殿下もアムルの閨での教育を、弟である私に任せることができれば、初夜の不安も半減することでしょう」
「……」
しばらく、バーズは沈黙した。そして、
「わかりました。アミード様。貴方様の仰せのとおりに……」
急におとなしくなったバーズは、抑揚のない声で言うと、部屋から出て行ってしまった。
「アミード、どういうことだよ、お前、何かしたんだろ! なんであの先生は……」
バーズがふらふらとアミルの部屋から出ていくと、アミルはアミードに詰め寄った。
「何もしてないよ。アムルも見てただろ。話し合って、わかってもらっただけだよ」
飄々としているアミード。だが、アムルは釈然としなかった。
――アミードに魔法を使っている様子はなかった。でも、あのバーズという男、まるで術にかけられたみたいにおとなしくなってしまった。
「じゃあ、アムル、服を脱いで」
「は?」
アミードの言葉に、アムルは硬直した。
「今の話、聞いてたんだろ? 閨教育の先生は、俺、だよ」
「ふざけるなっ!」
アミードの頬を目指して振り上げた拳を、あっさりとつかまれる。
「アムル、俺は本気だよ。誰かがアムルに実践で閨教育をしなくちゃいけないなら、相手は俺以外にいないよね?」
「アミード、お前、いったい何を考えて……」
「あの男、俺がいなかったらアムルに何をしようとしてたんだ!? くそっ、思い出しても腹が立つ。
アムルに触れていいのは、俺だけなのに!」
独占欲をむき出しにしたアミードにアムルはため息をつく。
「アミード、助けてくれてありがとう。でも閨教育なんて必要ないよ。
今の僕の状況を見たらわかるだろう?
正式にマーリクの側室に内定したのに、マーリクはあれから一度も僕を訪ねてこないし、贈り物も僕からだけ。
一ヶ月前に会ったときだって、たくさん人がいるかなり離れた場所からちらっと見ただけだったし。
しかもその時も、マーリクは僕のことなんてまるで目に入っていない様子だったよ。
もしかして……、マーリクは王家に無理やり、公爵家の僕を側室に決めさせられたんじゃないかな
だからきっと僕が王宮にはいったところで、マーリクが僕を閨の相手に指名するはずがないよ」
自嘲気味に話すアムルに、アミードの瞳が揺れる。
「アムル、きっとマーリクは恥ずかしいんじゃないかな。ほら、今まで俺たちってずっと幼馴染だっただろ。
馬に乗ったり、剣の稽古をしたり……、それが急に側室だ、閨教育だで、ばつが悪くてアムルと顔を合わせづらいだけだと思うよ」
アミードの慰めに、アムルは困ったような笑みを浮かべた。
「それにしたって、僕だって考えられないよ。あのマーリクと僕が……、なんて! キスだって、きっとお互い笑ってできないんじゃ……」
続きの言葉を、アミードの唇に奪われた。
「だめ、アミードっ……」
「俺は、アムルが好きだよ。アムルが一番好き。本当は、アムルを俺の番にしたい……。アムルを王宮になんてやりたくないよ。
アムルを、マーリクの側室になんて、したくないっ……」
触れるだけのキスをすると、アミードはアムルを強く抱きしめた。
「アムル、どこにもいかないで。一生俺のそばにいて……」
「アミード……」
アムルはアミードの背に手をまわす。
「ねえ、お願い。もう少しで輿入れだろ? 本当は理由なんて、なんだっていいんだ。
アムル……、俺……、アムルに触れたい。マーリクがアムルに手を出さないんだったら、その代わりに俺がうんと優しくするから……。
お願い、一度だけでいいんだ。アムル、アムル……、アムルとの思い出だけで、俺は生きていくから……」
「アミード」
顔を上げると、アミードの輝く金の瞳が自分をうつしていた。
「……いいよ」
「え!?」
哀願してきたのは自分の方なのに、許可されるとは思っていなかったのかアミードは驚いた声を出す。
「本当に、いいの? アムル……」
アムルはアミードの鍛え上げられた胸に顔をうずめた。
「どうせ、いつかは誰かとしなきゃいけないんだろ……。だったら、はじめては僕もアミードがいい。アミードなら安心できるし、怖くない。
マーリクとするのは、怖い……」
「アムルっ!」
アミードはアムルを抱きかかえて、寝台へ落とした。
「でも、純潔は守らなきゃいけないから……」
「わかってる。最後までは、しないから……」
アミードの瞳が情欲で濡れていた。
アムルはごくりと唾を飲み込む。
――本当に、欲しかったのはきっと僕の方だ……。
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「貴方は?」
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「たしか、アミード様はアルファでいらっしゃいますね? たとえ双子の兄弟といえど、オメガのお兄様の部屋にこうしていらっしゃるのは感心しませんね。兄弟の間でなにか間違いでもあったらどうされるおつもりです?」
バーズの言葉に、アミードは不敵な笑みを浮かべる。
「私とアムルはもともと一心同体、心配など無用です。
さて、どうでしょう? その閨教育の相手、私が務めさせていただくということにしては。
兄の様子を見ていると、どうやら貴方がお相手では大変不満のようだ。
閨教育は、心も身体も解き放ち、心から感じることが基本ですよね。私は、貴方がお相手では、兄も心を開くことができず、王のためにしっかりと学ぶこともできないのではないかと危惧しております」
「わ、私は王命を受けているのですよっ! 公爵家の子息と言えど、なんと、無礼なっ……」
バーズの顔色が変わる。
「私が相手なら、兄も怯えることなく閨教育を実践できましょう。さあ、どうお考えかな?」
アミードは強引にバーズに歩み寄ると、強い瞳でその瞳を見据えた。
「……」
「バーズ殿、どうか、賢明なご判断を! なに、ご心配なく。
王太子のマーリク殿下には私からお話しして許可を得ましょう。
殿下と、アムルと私は幼馴染。マーリク殿下もアムルの閨での教育を、弟である私に任せることができれば、初夜の不安も半減することでしょう」
「……」
しばらく、バーズは沈黙した。そして、
「わかりました。アミード様。貴方様の仰せのとおりに……」
急におとなしくなったバーズは、抑揚のない声で言うと、部屋から出て行ってしまった。
「アミード、どういうことだよ、お前、何かしたんだろ! なんであの先生は……」
バーズがふらふらとアミルの部屋から出ていくと、アミルはアミードに詰め寄った。
「何もしてないよ。アムルも見てただろ。話し合って、わかってもらっただけだよ」
飄々としているアミード。だが、アムルは釈然としなかった。
――アミードに魔法を使っている様子はなかった。でも、あのバーズという男、まるで術にかけられたみたいにおとなしくなってしまった。
「じゃあ、アムル、服を脱いで」
「は?」
アミードの言葉に、アムルは硬直した。
「今の話、聞いてたんだろ? 閨教育の先生は、俺、だよ」
「ふざけるなっ!」
アミードの頬を目指して振り上げた拳を、あっさりとつかまれる。
「アムル、俺は本気だよ。誰かがアムルに実践で閨教育をしなくちゃいけないなら、相手は俺以外にいないよね?」
「アミード、お前、いったい何を考えて……」
「あの男、俺がいなかったらアムルに何をしようとしてたんだ!? くそっ、思い出しても腹が立つ。
アムルに触れていいのは、俺だけなのに!」
独占欲をむき出しにしたアミードにアムルはため息をつく。
「アミード、助けてくれてありがとう。でも閨教育なんて必要ないよ。
今の僕の状況を見たらわかるだろう?
正式にマーリクの側室に内定したのに、マーリクはあれから一度も僕を訪ねてこないし、贈り物も僕からだけ。
一ヶ月前に会ったときだって、たくさん人がいるかなり離れた場所からちらっと見ただけだったし。
しかもその時も、マーリクは僕のことなんてまるで目に入っていない様子だったよ。
もしかして……、マーリクは王家に無理やり、公爵家の僕を側室に決めさせられたんじゃないかな
だからきっと僕が王宮にはいったところで、マーリクが僕を閨の相手に指名するはずがないよ」
自嘲気味に話すアムルに、アミードの瞳が揺れる。
「アムル、きっとマーリクは恥ずかしいんじゃないかな。ほら、今まで俺たちってずっと幼馴染だっただろ。
馬に乗ったり、剣の稽古をしたり……、それが急に側室だ、閨教育だで、ばつが悪くてアムルと顔を合わせづらいだけだと思うよ」
アミードの慰めに、アムルは困ったような笑みを浮かべた。
「それにしたって、僕だって考えられないよ。あのマーリクと僕が……、なんて! キスだって、きっとお互い笑ってできないんじゃ……」
続きの言葉を、アミードの唇に奪われた。
「だめ、アミードっ……」
「俺は、アムルが好きだよ。アムルが一番好き。本当は、アムルを俺の番にしたい……。アムルを王宮になんてやりたくないよ。
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触れるだけのキスをすると、アミードはアムルを強く抱きしめた。
「アムル、どこにもいかないで。一生俺のそばにいて……」
「アミード……」
アムルはアミードの背に手をまわす。
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アムル……、俺……、アムルに触れたい。マーリクがアムルに手を出さないんだったら、その代わりに俺がうんと優しくするから……。
お願い、一度だけでいいんだ。アムル、アムル……、アムルとの思い出だけで、俺は生きていくから……」
「アミード」
顔を上げると、アミードの輝く金の瞳が自分をうつしていた。
「……いいよ」
「え!?」
哀願してきたのは自分の方なのに、許可されるとは思っていなかったのかアミードは驚いた声を出す。
「本当に、いいの? アムル……」
アムルはアミードの鍛え上げられた胸に顔をうずめた。
「どうせ、いつかは誰かとしなきゃいけないんだろ……。だったら、はじめては僕もアミードがいい。アミードなら安心できるし、怖くない。
マーリクとするのは、怖い……」
「アムルっ!」
アミードはアムルを抱きかかえて、寝台へ落とした。
「でも、純潔は守らなきゃいけないから……」
「わかってる。最後までは、しないから……」
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