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キジマが旅立って二日が経った。
この辺りには珍しく雪が降り続いた翌日、ゆりは庵の外に出て沢へ向かった。
積もった雪は歩けないほどではない。キジマが用意してくれていた雪わらじを履いて外に出てみると、昼過ぎで太陽も出ているにもかかわらず、吐く息は白かった。
何となく、キジマのいない家の中に籠っているのも気づまりで、少し外に出てみようと思ったゆりだったが、沢へ行く道の途中で何か物音がしたような気がしてふと脇道を振り返った。
「……ゆり。やっと、ここまでこれたぁ」
やっとのことで絞るようなしゃがれ声で呼びかけたのは惣四郎だった。
「惣四郎? なぜまたこんなところまで……」
慌ててゆりが駆け寄ると惣四郎のすぐ後ろに男が一人立っていた。
「あんたを迎えに来たんだよ。俺は猟師でこの辺りの山をよく知ってる。道案内に来たんだ」
中肉中背の男はどこか不安そうな顔で周囲の様子を覗いながらゆりの問いに答えた。
「お前の父御がどうもよくねえ。このままだと冬を越えられるかどうか……」
なんとか息を整えながら惣四郎が事情を説明した。
「今じゃねえと、間に合わねえ……。お前に会いたがってるんだ。俺達と一緒に山を下りよう、な。」
「そんな……! でも、私は……」
キジマに黙ってここを離れるわけにはいかない。
困惑するゆりをジッと見ていた猟師が、惣四郎の腕を軽くたたいた。
「慣れん山歩きで疲れただろう。ちょいとそこの沢で水を飲んで休んだほうがいい」
惣四郎に沢に行くよう促すと、猟師はゆりに手招きをして脇道の木の陰に身を寄せた。
「……あんた。この山奥に嫁入りしたとか。婿殿と住んでいるんだってな」
辺りに鋭い視線を投げてから、猟師は声をひそめてゆりに問うた。
「はい。秋にここに来て以来、ずっと一緒に暮らしています」
そう答えたゆりを猟師は憐れむような目でまじまじと見つめた。
「婿殿はどのような男だ? 何をして暮らしを立てている?」
「……私は何も知りません。尋ねたもことありませんし」
頑なに口を閉ざすゆりに猟師は、はああと深いため息をついた。
「婿殿はあんたに優しいかね?」
「……はい。とてもよくしてくれます」
その返事を聞くと猟師の顔はますます暗くなった。
「……あんたも、薄々は気づいているのだろうが」
何者かに聞かれるのを憚ってか、より一層声を落として男は言った。
「婿殿は、人ではないよ……。その男はずっと昔からこの辺りの山を支配している鬼だ」
男の畏れるような態度のわけが、ゆりにはやっと理解できた。
猟師はキジマに話を聞かれることを恐れていたのだ。
この辺りには珍しく雪が降り続いた翌日、ゆりは庵の外に出て沢へ向かった。
積もった雪は歩けないほどではない。キジマが用意してくれていた雪わらじを履いて外に出てみると、昼過ぎで太陽も出ているにもかかわらず、吐く息は白かった。
何となく、キジマのいない家の中に籠っているのも気づまりで、少し外に出てみようと思ったゆりだったが、沢へ行く道の途中で何か物音がしたような気がしてふと脇道を振り返った。
「……ゆり。やっと、ここまでこれたぁ」
やっとのことで絞るようなしゃがれ声で呼びかけたのは惣四郎だった。
「惣四郎? なぜまたこんなところまで……」
慌ててゆりが駆け寄ると惣四郎のすぐ後ろに男が一人立っていた。
「あんたを迎えに来たんだよ。俺は猟師でこの辺りの山をよく知ってる。道案内に来たんだ」
中肉中背の男はどこか不安そうな顔で周囲の様子を覗いながらゆりの問いに答えた。
「お前の父御がどうもよくねえ。このままだと冬を越えられるかどうか……」
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「今じゃねえと、間に合わねえ……。お前に会いたがってるんだ。俺達と一緒に山を下りよう、な。」
「そんな……! でも、私は……」
キジマに黙ってここを離れるわけにはいかない。
困惑するゆりをジッと見ていた猟師が、惣四郎の腕を軽くたたいた。
「慣れん山歩きで疲れただろう。ちょいとそこの沢で水を飲んで休んだほうがいい」
惣四郎に沢に行くよう促すと、猟師はゆりに手招きをして脇道の木の陰に身を寄せた。
「……あんた。この山奥に嫁入りしたとか。婿殿と住んでいるんだってな」
辺りに鋭い視線を投げてから、猟師は声をひそめてゆりに問うた。
「はい。秋にここに来て以来、ずっと一緒に暮らしています」
そう答えたゆりを猟師は憐れむような目でまじまじと見つめた。
「婿殿はどのような男だ? 何をして暮らしを立てている?」
「……私は何も知りません。尋ねたもことありませんし」
頑なに口を閉ざすゆりに猟師は、はああと深いため息をついた。
「婿殿はあんたに優しいかね?」
「……はい。とてもよくしてくれます」
その返事を聞くと猟師の顔はますます暗くなった。
「……あんたも、薄々は気づいているのだろうが」
何者かに聞かれるのを憚ってか、より一層声を落として男は言った。
「婿殿は、人ではないよ……。その男はずっと昔からこの辺りの山を支配している鬼だ」
男の畏れるような態度のわけが、ゆりにはやっと理解できた。
猟師はキジマに話を聞かれることを恐れていたのだ。
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