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「どうした? 何を躊躇っている?」
広い背中をこちらに向けて跪きながら、キジマはゆりを促すように呼びかけた。
「でも……私だって山歩きは慣れています。歩けます」
「険しい道も通る。大事な嫁御を背負うくらい苦でも何でもない」
再び、自らの背におぶさるように言うキジマに対してゆりは断る理由を見つけられなかった。
仕方なく、キジマの背に身体を密着させるようにして隆々とした肩に手を添える。
「……よし、早駆けのときは、首に手を回すのだぞ」
そう言いながら、キジマは背中に身を預けたゆりの尻を両手で支えた。
「……っ! あのっ……」
「? どうした?」
ゆりを振り返ったキジマの表情にはいやらしさのカケラもなかった。
言いたかった一言が、たちまち喉にっつかえて言えなくなってしまう。
「俺がしっかり支えてやるから、安心していろ」
「うう……はい」
山を登るにつれ、紅葉はますます深まっていく。
里からはもうだいぶ離れた頃合いだろう。
鮮やかな色合いに目を奪われながらも、内心では心細くて仕方なかった。
「里が恋しいか? ……俺と一緒にいくのが厭か?」
ゆりの心の内を見抜いたように、キジマが肩越しに振り返って尋ねた。
明るく澄んだ瞳が不安げにゆりを見つめている。
――なぜだろう、どこか……。
寂しそうに見えた。
天候を操り、人にはない力を持っているキジマが。
恐れるものなど何もないかのような、自信に満ちた姿ばかり見せて来た彼が、なぜか。
――不安がっている?
信じられないことだが、確かにゆりにはそう感じられたのだった。
「……いいえ、行くのはイヤではありません。里へ戻れないのも、もう覚悟の上です」
ゆりの答えを聞いて、キジマは安心したように息を吐いた。
「……わかった。ゆり、俺は要らぬ心配をしたようだ」
幾つもの沢を越え、辿り着いたその場所は山の最奥にある庵だった。
一見、質素なたたずまいのそれは、こじんまりとしているようで意外に奥行きがあるようだ。
見れば、庵の周りには土塀が巡らされ、広い庭は野趣を残しつつも桔梗や竜胆、女郎花や撫子が彩りを添え、白いススキが穂を揺らしている。
突如目の前に現れた気品ある美しい山寺のような住まいにゆりは目を瞠っていた。
「ここが、今日からお前の家だ。……俺と、ゆり、お前の……」
ゆりを家の前に残して、ほんの少しの間その場を離れていたキジマが声をかけた。
差し出すその手には摘んだばかりの桔梗の花束が握られていた。
「……ありがとう、あの、これから……どうぞ幾久しく」
紡ごうとした言葉が優しい唇で遮られた。
桔梗の花束から一輪の花が地面にふわりと落ちていく。
しばらくの間二人はじっとそのまま、そこを動かなかった。
広い背中をこちらに向けて跪きながら、キジマはゆりを促すように呼びかけた。
「でも……私だって山歩きは慣れています。歩けます」
「険しい道も通る。大事な嫁御を背負うくらい苦でも何でもない」
再び、自らの背におぶさるように言うキジマに対してゆりは断る理由を見つけられなかった。
仕方なく、キジマの背に身体を密着させるようにして隆々とした肩に手を添える。
「……よし、早駆けのときは、首に手を回すのだぞ」
そう言いながら、キジマは背中に身を預けたゆりの尻を両手で支えた。
「……っ! あのっ……」
「? どうした?」
ゆりを振り返ったキジマの表情にはいやらしさのカケラもなかった。
言いたかった一言が、たちまち喉にっつかえて言えなくなってしまう。
「俺がしっかり支えてやるから、安心していろ」
「うう……はい」
山を登るにつれ、紅葉はますます深まっていく。
里からはもうだいぶ離れた頃合いだろう。
鮮やかな色合いに目を奪われながらも、内心では心細くて仕方なかった。
「里が恋しいか? ……俺と一緒にいくのが厭か?」
ゆりの心の内を見抜いたように、キジマが肩越しに振り返って尋ねた。
明るく澄んだ瞳が不安げにゆりを見つめている。
――なぜだろう、どこか……。
寂しそうに見えた。
天候を操り、人にはない力を持っているキジマが。
恐れるものなど何もないかのような、自信に満ちた姿ばかり見せて来た彼が、なぜか。
――不安がっている?
信じられないことだが、確かにゆりにはそう感じられたのだった。
「……いいえ、行くのはイヤではありません。里へ戻れないのも、もう覚悟の上です」
ゆりの答えを聞いて、キジマは安心したように息を吐いた。
「……わかった。ゆり、俺は要らぬ心配をしたようだ」
幾つもの沢を越え、辿り着いたその場所は山の最奥にある庵だった。
一見、質素なたたずまいのそれは、こじんまりとしているようで意外に奥行きがあるようだ。
見れば、庵の周りには土塀が巡らされ、広い庭は野趣を残しつつも桔梗や竜胆、女郎花や撫子が彩りを添え、白いススキが穂を揺らしている。
突如目の前に現れた気品ある美しい山寺のような住まいにゆりは目を瞠っていた。
「ここが、今日からお前の家だ。……俺と、ゆり、お前の……」
ゆりを家の前に残して、ほんの少しの間その場を離れていたキジマが声をかけた。
差し出すその手には摘んだばかりの桔梗の花束が握られていた。
「……ありがとう、あの、これから……どうぞ幾久しく」
紡ごうとした言葉が優しい唇で遮られた。
桔梗の花束から一輪の花が地面にふわりと落ちていく。
しばらくの間二人はじっとそのまま、そこを動かなかった。
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