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第3章 火宅之境
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しおりを挟む静先輩の衝撃発言と共に、ちょっとしんみり聞き入っちゃったせいで腕のガードが緩んだ隙に蠢き出した手も相まって、せっかくの静先輩の言葉も少しの感動もすっかり引っ込んでしまった。
「ちょっ、・・・・・・ぁ・・・ね、待って・・・。つ、がい、いないって」
「・・・・・・やっぱり弥桜、俺に番いるとか思ってただろ」
「ぅ、ん。・・・・・・いっぱいいると思ってた」
静先輩みたいなかっこいい人に一人も番がいないなんて、考えたこともなかった。
それどころかどこか別宅にそういう家でも持ってるんじゃないかとか勝手に想像してたけど、今思えばなんて失礼なことを考えていたんだろうと思う。
静先輩ははぁと呆れたような深い溜息をつくと、僕ごとゆっくり立ち上がった。
「そろそろ出ようか」
随分と長いこと浸かっていたから頭がぼーっとする。
静先輩に手を引かれるがままに上がると、先に静先輩がさっと拭いてズボンだけ履くのをぼんやり眺めていた。
「ほら、おいで」
「ん・・・・・・」
テキパキと手際よくあっという間に拭かれて、静先輩と同じようにズボンだけ履かされる。
結局それも最後までぼーっとしながら眺めていたら、脱衣所を追い出されてベッドに座らされた。
「お前、少し逆上せてるだろ。ほら」
ずっとぼーっとしてふわふわしたままだったのが逆上せているせいだったなんて全く自分では気づいていないまま、静先輩に渡された水をゆっくり飲み干す。
「あ、ありがとうございます」
「ん。・・・・・・じゃあほら、早く手当てしよ」
何故静先輩が場所を知っているのかは全く分からないが、目の前では準備万端で救急箱を広げて待ち構えていた。
確かにあちこち痣だらけで湿布の必要な傷だらけだから、もうこの際何故かうちの事を知っている静先輩は置いといて早めに手当はしたい。
「あ・・・、じゃあ背中の所、貼って・・・・・・」
まだ半分ぼーっとしたままの意識の中、自分で貼れるとこは自分で、普段苦労してるとこを静先輩に任せることにした。
「・・・・・・」
最初のうちはまだぼーっとしてたのもあって静かなこの空間にもなんとも思ってなかったけど、段々血が巡って意識がはっきりしてくるとどうしても静先輩の僅かな空気感さえも変に勘ぐって勝手に居た堪れなくなってくる。
明らかに多すぎる湿布の数にこんな傷だらけの体を見られて、更にはその裏にある凌辱の跡さえも見透かされてしまうような感覚に陥る。
静先輩にだけは知られたくない。
いやだ、絶対にこんな汚い身体だって知られたら軽蔑される。
静先輩にそんな目で見られたら絶対に耐えられない。
こんな・・・こんな・・・・・・っ
「おい、弥桜!! 何してんだ」
「っ」
いきなりばっと腕を掴まれたかと思ったら、よく見ると少しだけだが腕に血が滲んでいた。
無意識のうちに爪を立てていたらしい。
「・・・・・・ごめん、なさい」
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