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第3章 火宅之境

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この狭い湯船にいったいどうやって大人の男二人で入るんだと思っていたら、静先輩は僕の後ろに回り込むと僕を抱えるようにして足の間に挟んて、がっしりと腰に腕を回してきてしっかり抱きしめられてしまった。
当然静先輩に全身を預ける体勢になるわけで。

「絶対に変なことしないでくださいね!!!」
「んー」
ちゃんと聞いてるんだかなんだか凄く怪しい返事が聞こえるが、手を離す気は無いらしいから全く安心出来ない。

「・・・・・・静先輩はなんでΩ相手に大切だ、なんて言えるんですか。Ωを大事にしようなんて‪α‬聞いたことないです」
静先輩の腕をしっかり防御しながら、半ば独り言のようにずっと気になっていた根本的な所を口にした。
「理由なんて特にないな。・・・・・・強いて言うなら、弥桜だから」
「僕だから?」
「そ。Ωとか‪α‬とか言うんだったら、俺もそこらの連中と大差はない。弥桜に出会うまではそれなりに遊んできたし、Ωなんてって思ってたよ」
静先輩の口から語られる話に、傷付いてる自分がいることに気付かないふりをして続きを待った。

静先輩だってこの大学のαなんだから、人並み以上にたくさん遊んでてたくさん番がいるんだってわかってたはずなんだ。
そんなことに今更傷付いたってどうしようもない。

「でも、弥桜と出会ってからはそんなのどうでも良くなった」

耳元で聞こえていた静先輩の声が少しだけ力強くなって、腰を掴む腕にも力が入った気がした。

「初めて視線を交えて言葉を交わした時、すぐにΩだってわかったよ。でもだからって別段なにかあったわけじゃないし、その時は何も気にしてなかった。でもいつまで経っても気づけばその時話したことばかり考えてて、忘れることが出来なかったんだ。たかがΩ1人に何を気にすることがあるって思って忘れようとしたんだけど、ふと気づけばどこの誰で何してるか、とか考えちゃってて、全然頭から離れてくれない。結局1年もどうすることも出来なくて悶々としてた時に、弥桜と再会して、ああそうか、Ωとか‪α‬とか関係なかったんだって。弥桜だから忘れられなかったんだって思った」

淡々とそれでいて染み込んでくるような響きに、必死に拒絶していた心が崩れそうになってじわりと視界が滲んだ。

何をどうして僕なんかを気に入ってくれたのかは全然わかんないし、理解も納得も出来ないけれど。
それでもこんな僕なんかがいいって言ってくれる人が一人でもいることは、Ωとか以前に一人の人間として少しだけ救われたような気にさせてくれた。

「だから今はもう誰とも遊んでないし、弥桜一筋なわけ。ま、元々派手に遊んでたわけじゃないし、間違っても俺に番なんかいないからな」

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