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第四章:『突然変異!? 聖魔王子VS巨大軟体魔物・ギガントスライム!』

【第22話】

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「おっ、半魔族のローランさんも……リィナちゃんに守られるのをやめて覚悟を決めた感じだね。じゃあ順を追って話そうか、とりあえず2人も座りなよ」
 色々と情報収集済みな事を匂わせつつも真意の読めないおどけた口調のまま部屋に置かれた水差しを手に取ったギルティはコップ3つに清水を注ぐ。
「この前、ハルメン平原で王立兵士団が倒した狂魔化ゴブリンとウルフの骸と魔石が王都に到着し貴重な研究資料としてイノメ王立魔導研究機関に収納されたんだ。
それで王都にある王家公認冒険者集団・クランの関係者も研究機関のヒアリングも兼ねてそれを見学する権利を与えられ、アタシとリーダー、その他数人が行ったわけよ」
「その他数人…… ?」
「ああ、リィナちゃんが抜けた後いろいろあってね……あんたが知っているヤツではない、とだけ言っておこう」
 苦虫を噛み漬したような表情で黙り込んだギルティはコップの水を一気に飲みほして自分で注ぎ足す。
「それで他の奴らはどうだかしらないけど、アタシはいくつもの不審な点に気づいたんだ……今後のために聞いておくかい?」
 ローランとリィナの立場上、今後も討伐成果を隠す可能性は大。
 その時役立つ事があるのであれば聞いておこう。2人は黙ってうなずく。
「まず、あんな死んだ状態でもヤバイ代物相手に殺りあったにしては兵士団の被害が少なすぎる。
 刺し違えて全滅か生存者数人のほぼ壊滅ならとにかく負傷者数人程度の被害で済むわけが無い」
「……」
「それにダメージと武器が完全に違う。兵士団に基本支給される武器は槍であり、それを使いこなす事が兵士団員に求められるのは承知しているだろ?
 だがあの豚のようなゴブリンの全身に見られたのは大型の鈍器で何十発も殴られたようなダメージ痕。
 人狼化したウルフは腹から胸部まで針のような剛毛を削ぎ取るように刈られ、そこを集中的に刃物で刺されて失血死していた。つまり……どう頑張っても兵士団の槍で出来る倒し方じゃないんだよ、あれは」
 そう言いつつリィナのナイフベルトとローランの背中の大剣をチラチラ見るギルティ。
(この人はどうやら声がデカイだけの脳筋ではなさそうだ……論理的な推理には欠けるが戦闘経験値によるカンだけでここまで分かるとは)
 聖魔王子ローランにとってはおばあ様の故郷たる異世界。このギルティが特例なのかもしれないが金クラスの冒険者ともなれば魔界の武人と対等かそれ以上の人間も存在する可能性を知ったローランはざわつく気持ちを鎮める。
「決定打になったのが兵士団よリギルドに提出されたクエスト報告書を読んだ時だったね……2人はあの時、ハルメン平原にゴブリン討伐クエストで居合わせていたそうじゃないか?
 数年前、狂戦士クラン幹部の地位のみならず冒険者の全てを捨てた達人級の短剣使いのリィナちゃんと『滅びし王国の平野』に触らぬ神に崇りなしで放置されていた狂魔化植物魔物ブラッディ・ラフレシアを単騎で倒したと(噂されている)記憶喪失の半魔族冒険者。
 アタシが気づいたのはここまでだな。 逆にリィナちゃんとローランさんから何かある?」
 
 前言撤回。この人は戦闘経験で体得したカンに加え、与えられた情報に基づく論理的思考能力とそれを言語化する高い知能をも有している。
 自身もリィナ先輩も完全に追い詰められていると言う事実を認識したローランは次の最善手を模索しようとする。
「それで、デスさんは……どう言うっているのかしら?」
「それをようやく聞いてくれるのねリィナちゃん!! 見学を終えた後日、クエスト報告書を見たリーダーはアンタが田舎町のギルド事務員をやめて冒険者に戻っている事を知ったら腰を抜かすぐらい驚いちやって!!
『なんでウチの幹部だったヤツが下級銅ランクから冒険者稼業再開してるんだ!! クランリーダーの俺に一声かければ金は無理でも俺の力で銀ランクぐらいまで一瞬で昇格させてやったのに!!』って感じにヤカンみたいに顔を真っ赤にしてものすごい怒声を上げてたよ。
 
 あの顔マジで面白かったわぁ……見せてあげたかったよ!! マジで腹がねじれちまう!!」
「つまり……力づくでも連れ戻せとは言われていないのね?」
 どうやら冒険者クラン、狂戦士のリーダーはデスさんと言うらしい。
 少しでも優位に立とうと腹の読みあいをするリィナ先輩とグラグラ笑うギルティさんを見守りつつローランは脳内にメモする。
「ああ、そうさね。今でもアンタをリィナちゃんなんて呼んじまうアタシがアンタをボコボコの半殺しにしてさらうように連れてくなんて出来るかい? それならもっと適任がいっぱいいるだろ?」
「それもそうね、ギルティお姉ちゃん」
 挑発的な口調でギルティに言い返すリィナ。
「まあ、もうここまで来たら隠す必要性も無いから言っちまうけど…… 2人には冒険者クラン、狂戦士から実カテスト代わりの魔物討伐クエストを受けてもらおうと思っている」
 そう言いつつ、ギルティは部屋の隅に向かい、そこに置かれた鞄からクエスト依頼書を取り出す。

【第23話に続く】
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