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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第77話)】「鬼丸兄妹、未知との遭遇!? 雷鬼VSエジソンボトル」

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 都内S区某所にあるマンション、508号室。週末。
「守屋さんにアラン、この前はありがとうございました!!」
「これは先日のお礼です、守屋様!!」
 スーツ上下にネクタイと言う正装で守屋家を訪れた額に2本の角を生やした赤銅肌な細マッチョ系イケメン魔界人・鬼丸くにお。
 くにおの妹にして魔界王立ルシファー学院中等部指定セーラー服姿の額に1本角を生やした小柄な日焼け肌の女の子・鬼丸きょう子。
『油風呂』と言う決闘で一人の犠牲も出さずに魔界春闘を終える事に成功した魔界最大の建設ゼネコン創業者一族にして第五夫人の子である兄妹は提案者である人間界の会社員女性・守屋美希、通称ミキちゃんと淫魔財閥御曹司のアラン・インマ宅を訪問。
『魔界建設創業者一族より』と言う立派な金箔のし紙つきの贈答用高級最中を差し出す。
「あらまぁ、こんなにいい物を……本当にありがとう!!」
(おそらくこれは鬼丸君のお父様からだろう……まあここで確認するのも無粋だろうし、後でチャットアプリで確認しておけばいいか)
 それを喜んで受け取るミキちゃんを前に空気を読んだアランはにこやかにお茶を4人分出す。
「はいっ!! 今回は私たちだけで参りましたが……お父様やお母さま方、そしてお兄様やお姉さま達も守屋さんとアラン様には大変感謝しております。
 人間界来訪の際にはごあいさつに伺いたいとの事ですのでよろしくお願いいたします!!」
「ああ、あの後親父もアニキ達も80年代劇画漫画『男魂』シリーズにドはまりしちゃってなぁ……俺が人間界で入手した本をみんなで回し読みしているよ!!」
「あら、そうなのね! 私も紹介してよかったわ鬼丸君にきょう子ちゃん!!
 せっかくだから紅白まんじゅう一緒に食べていきましょ!!」
「ありがとうございます、守屋さん!!」
 鬼丸きょう子が喜びの声を上げたその時、ドアベルが鳴る。
「あら、誰かしら……?」
 インターホンの画面越しにこちらをじっと見つめるうさんくさい笑みを浮かべるスーツ姿の男。
 躊躇するミキちゃんの前で男はインターホンを連打しはじめる。
「守屋さん、きょう子にアラン下がっていてくれ……いざとなれば俺が物理行使以外で黙らせる」
 そう言いつつ鬼族の角を隠し、玄関へ向かう鬼丸君。
 奥に隠れたミキちゃん達はその様子をそっと見守る。

「どうもどうも、ワタクシはエジソンボトル普及協会の者でございます!!
 この度、このS区周辺で有害電波の測定調査を行っており特にそれが強かった危険地域にお住まいの皆さま宅に伺っております!!」
 立て板に水でしゃべる男が喋りたてるのを黙って聞く鬼丸君。
「じつはこのマンション周辺で特に強い有害電磁波が確認されており……私共はご居住の皆さまのために我が協会が開発したスペシャルアイテムを特別価格で販売しております!! それがこちら……エジソンボトルでございます!!」
 そう言いつつ男が取り出したのは直径20センチほどの金属缶であり、ラベルが無いそれには『日本エジソンボトル普及協会公認』と言う小さなシールが一枚だけ貼られている。
「いまなら2本セットが300万円の所なんと200万円!! もちろんローン支払いもOKでその場合は……」
「……なあ、色々ききたいんだけどいいかな」
 ハイテンションで一方的にまくしたてる訪問販売員に割入る鬼丸君。
「はい、なんなりとお聞きください!!」
「その有害電波って具体的にどんなもんなのよ?」
「それは私共の独自技術による測定で算出されたものでして……企業秘密だとだけ申し上げましょう。
 それでこのエジソンボトルは部屋の入口とよく使う部屋に……」
「きょう子、お前は何か感じる?」
「いえ、何も……そもそも人間界で人体に影響が出るレベルの有害電波なんてあったら雷鬼のお母さまの血を継ぐ私達が感じられないはずがありませんわ。
 おじさま、御提案は嬉しいんですけど……具体的にはどのくらいの周波数で発信源やその頻度、また一般人間への具体的な影響まで申し上げていただけませんとオカルトでしかありませんわ」
 雷鬼族の女性を親に持つ兄妹はセールスマンの論拠不足を指摘し、徹底論破にかかる。
「おほん、では説明を続けさせていただきます。
 これをこの御宅に置いておく事により、有害電磁波を吸収するのみならず電気を大気中に放出する事で居住者さまの生命エネルギーを増幅することが可能となります!!
 さあ、いますぐこの契約書にサインを!!」
 鬼丸兄妹をこの508号室居住者だと勘違いしているセールスマンはその説明要求をガン無視して説明を締めくくり、すぐさま取り出した購入契約書にサインを要求する。
「……生命エネルギーを増幅? まあ脳のニューロンも電気だし一部の神経伝達システムも電気だからわからん事は無いが、こんな鉄くずじゃ役に立たんよ、おっさん」
「てっ、鉄くずだと!? これは我々が独自技術で……」
 顔を真っ赤にして怒るセールスマンを前に目の前に置かれた金属缶を1個ずつ掴む鬼丸兄妹。
「きょう子、あまり入れすぎるなよ」
「はい、お兄様……」
「おい、あんたら買うなら金を……」
「ふんっ!!」
「えいっ!!」
 雷鬼の血を継ぐ2人が力を入れた瞬間、蒼白い光を帯びてバチバチ放電し始める金属缶。
「ひっ、ひええええ!! うわぁぁぁ!!」
 怪奇現象を前に腰を抜かし、後ずさりし始めるセールスマンはそのままもつれる足で転がるように508号室を飛び出してマンション廊下で悲鳴を上げながら逃げ出していく。

 翌日、平日昼時の株式会社サウザンド
「……っていう事があってね。大変だったのよ」
「そうだったんですね。でも鬼丸君がいてよかったですね!!」
 ミキちゃんは敢えて省いたが、その後鬼丸君がそのセールスマンを鬼ダッシュで追いかけて捕まえ、首根っこを掴んで穏便(笑)に警察署へ連行。
 悪質な売り込みトーク録音データやザル契約書、中身はただの砂だった金属缶と言った証拠の数々と共におまわりさんこいつですとプレゼントしてきたとアランから聞いていた茶摘は鬼丸君だけは敵に回すまい、と言う意思と共にキアラが用意してくれたお弁当を食べるのであった。

【FIN】
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