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番外編ーside セレスティアー
貴方の、すべて
しおりを挟む――「赦しを」後のふたり――
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眠ってしまった貴方を抱き締め続けている。
今までも、焦がれるほど…大好きだった。
常に胸が落ち着かなくて、貴方だけに触れたかった。
これまでも、「愛して」いたと、…そう信じ切っていたのに。
胸の奥が暖かに凪いでいる。
この腕にいるこのひとが、愛おしくて愛おしくて仕方ない。
…私が守っていたい。
…貴方の弱った部分をずっと抱き締めて癒していたい。
…本音を全て包んであげたい。
…私、だけが。
貴女が私にそうしてくれていた様に、私も私のできること全てで、貴方を。
ああ…これが、愛、なのね…。
子ども達を愛しているのとは、少しだけ違う気がするこの「愛」。
(私たち、…いいえ私は、今日初めて貴方の妻として立ったような気さえする)
寝息を立てて私の胸にいる、愛しい男性。
目尻が赤くて、少しだけ痛々しい。
こげ茶の美しい髪を撫でながら目尻へのキスを落とす。
(…この方は、夢見のような、夢で未来を視る能力があったのね…)
私の家の書庫に眠っていた古い文献でも、時代の節目節目で現れたとされていた。
荒唐無稽な話だとしても、私はウィリアム様が嘘をついている様には思えなかった。
―――それに、1年と少し前の私ならば、…きっとウィリアム様が言ったものと同じ道を辿ったのだろう。
貴方の愛のかけらにすら気づかぬまま、自分だけが泥の中で藻掻いているような心地だったのを思い出す。
ウィリアム様の不貞を許可できない自分の狭量さをずっと嘆いて……逃げ出してしまいたいと願ったこともあった。
デイビッドと別れ、冷静に話し合おうと部屋に入ったけれど。
ウィリアム様の「君を、誰にも渡したくなど…」という囁きに、不安な心に火がついてカッとなってしまった。
貴族としては有り得ない問答。
でもそのお陰で、初めて心の底からの本音をぶつけ合えた気がする。
1年と少し前から、突然完璧な夫になってしまった貴方の少しだけ弱い部分が私だけに晒されて…どうしてか、こんなにも…幸せ。
―――目を閉じて、自分も眠りにつこうと思うのに。
…夢見の中の、最低な行いを繰り返しただろう自分が、あんな風にとても素敵に愛されていた事実が
『酷い?どこが?何が?君ほど、僕の人生に彩りをくれるものはないんだよ』
チリチリと胸を焦がす音を立てて。
夢の中の自分に嫉妬するという、どこまでも不毛なことをやってのける。
(我ながら、あまりにも情けないわ…)
ウィリアム様が自身の罪だと仰ったことは、彼の深い愛を知った後では…、不器用さと必死さだ、としか受け取れない。
―――貴方が激しく、手荒く、求める相手は、…私だけがいい。
愚かな妻だと嗤われても。
綺麗な上澄みを掬うような愛だけでは…もう満足できない。
美しい部分も醜い部分も併せた貴方の愛の全てが、――私は欲しいの、ウィリアム様。
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ペロロペ22様
こちらこそ、丁寧なご返信ありがとうございます。
過去編セレスのウィルへの想いは、信頼関係が全く築けていない為、深い愛へと成熟はせず、先に壊れたイメージです。一番頼りたい人からの発言だったので確かにかなりのショックだったと思います。
そして、なるほど。本心でなければ確かに、気を引きたいかまってちゃんですね。
ウィリアムが庭からの帰りに、セレスと会ったのも偶然でした。長い年月を共に過ごしていれば鉢合わせて苦しむ夜も来るだろうと書いたシーンでした。(過去編ウィリアムは、セレスティアに部屋を移す事は許さず、夫の部屋の隣にある夫人の部屋を使わせ続けたという自業自得でもあります)
今後の展開は、未定です。他の視点はよほど書きたいものが出てこない限り追加予定はありません。
(息子たちの恋愛模様も書きたいと考えていますが、書いたとしても別のタイトルでの投稿になると思います。)
丁寧なご感想、そして応援をしていただき、とても嬉しいです。
ペロロペ22様、本当にありがとうございました。
グレース様
毎日の更新を楽しみにしていただき、ありがとうございます(^^)
心躍るご感想を頂けて嬉しいです!
グレース様のご感想が楽しくてずっとニヤニヤと拝読しております…!
私もふたりはまた子を授かりそうだな…と思っています。受け入れてもらったウィリアムはしつこそう(夜が)なので、孫に年の近い子もありえそうです。
まだ頭の中でふわふわしているだけなのですが、もし形に残したくなったら新たな番外編として投稿するかもしれません。
本日で毎日更新が終わってしまいますが、お付き合い頂けて本当に嬉しかったです。
ご感想、本当にありがとうございました!(^^)
ペロロペ22様
始めまして、毎回読みながら心動かして頂けてとても嬉しいです。私こそありがとうございます。
そして、ご質問もありがとうございます。
結論を申し上げますと、過去編のセレスティアは、デイビッドを愛していました。そして、危篤後に虚弱体質となったセレスティアは絶対的な味方であり、生きる支えにしていたデイビッドを亡くし、ショック死の様なかたちで亡くなりました。
過去編でウィリアムが会合に誘うまでは、ウィリアムとセレスティアは両片思いでした。
ウィリアムの母による「浮気を容認しなさい」という言葉が常にセレスティアの恋心にストップをかけ続け、ウィリアムから会合へと誘われたことで恋心にひびが入りました。そして会合から帰って来た際に、ウィリアムへの想いは壊れています。
ウィリアムも、危篤から回復したセレスティアには自分の恋愛感情は打ち明けず、家族として大切に想っているという関係のまま最期を迎えます。
過去編は特にウィリアム視点のみで分かりにくいところが多々あるかと思いますのに、読んで頂けて嬉しいです。
ご感想とご質問、本当にありがとうございました!