【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽

文字の大きさ
35 / 66
死に戻り編

帰れない夜②

しおりを挟む


「いや、だが…」

「お医者様も、もう大丈夫だと…随分前に仰っていました…」



(でも、エステルはもう産まれて…君と触れ合う理由が…)



そう思っているのに、君の期待した瞳を見ていると、自分を律する心が溶けてゆく。


「ウィル…」


濡れた声で、それでも凄く不安気で。


(ああ…可愛い…)


「こんな風に誘ってもらえるなんて、夢にも思わなかった…すごく、嬉しい」
セレスティアをぎゅうと腕に閉じ込めて、顔を見られないようにして、隠しきれない本音を吐きだす。



「辛かったら、すぐに教えて…」



その日は、君も僕と同じくらいにキスをくれ、触れてくれ、見つめ合った。



夜中も止まない豪雨も気にならない程にお互いを貪る。

君も僕を求めてくれている、それがこんなに幸せなのか。



お互い抑えられなかった声は、雨音に消してもらった。


そうして幸せの絶頂の中眠りについた。
―――なのに。







◇◆◇◆





ガタンゴト…ガタン…ガラガラガラ…



(?馬車になんて乗っただろうか…)



≪ああ、どうして、今日が来てしまったのかしら…≫



(セレスティアの声?)



僕は見渡すが、セレスティアの姿はない。その代わりに、隣に座る僕が居た。


(は…!?)




≪…お義母様も、何度も仰っていたし…これが、貴族の結婚の…成れの果てなのね…≫


(成れの果て…?何をそんなに、暗い声で…)



馬車はどんどん進んでいく、この道は…。




窓硝子に写ったセレスティアの憂鬱気な顔も見えた…――。



≪どうして…参加しましょうと言ってしまったの…。でも、もうあの時、貴方を繋ぎとめる方法はないのだと、そう言われた気がして…≫



頭に響くセレスティアの声は、可哀想なほど弱っている。



やがて馬車は到着して、”僕”が降りていき、セレスティアも続く。

”僕”が先に仮面をかけて、もう一つの仮面をこちらに渡してくる。

それを速やかに着けて、歩き出した。


≪…気味の悪い場所…、これが旦那様の望んだものなの…?≫


『君は、大丈夫かい?』

平坦に聞こえる”僕”の声に、本当は泣きそうな癖に気丈な声を出す。

『ええ大丈夫ですわ。』




見覚えのある受付嬢が、案内をし、”僕”と別々の場所へと案内されそうになった時、≪ウィリアム様…!≫と頭の中で響いた。

だが、”僕”は振り返らずに去ってしまう。




しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...