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死に戻り編
帰れない夜②
しおりを挟む「いや、だが…」
「お医者様も、もう大丈夫だと…随分前に仰っていました…」
(でも、エステルはもう産まれて…君と触れ合う理由が…)
そう思っているのに、君の期待した瞳を見ていると、自分を律する心が溶けてゆく。
「ウィル…」
濡れた声で、それでも凄く不安気で。
(ああ…可愛い…)
「こんな風に誘ってもらえるなんて、夢にも思わなかった…すごく、嬉しい」
セレスティアをぎゅうと腕に閉じ込めて、顔を見られないようにして、隠しきれない本音を吐きだす。
「辛かったら、すぐに教えて…」
その日は、君も僕と同じくらいにキスをくれ、触れてくれ、見つめ合った。
夜中も止まない豪雨も気にならない程にお互いを貪る。
君も僕を求めてくれている、それがこんなに幸せなのか。
お互い抑えられなかった声は、雨音に消してもらった。
そうして幸せの絶頂の中眠りについた。
―――なのに。
◇◆◇◆
ガタンゴト…ガタン…ガラガラガラ…
(?馬車になんて乗っただろうか…)
≪ああ、どうして、今日が来てしまったのかしら…≫
(セレスティアの声?)
僕は見渡すが、セレスティアの姿はない。その代わりに、隣に座る僕が居た。
(は…!?)
≪…お義母様も、何度も仰っていたし…これが、貴族の結婚の…成れの果てなのね…≫
(成れの果て…?何をそんなに、暗い声で…)
馬車はどんどん進んでいく、この道は…。
窓硝子に写ったセレスティアの憂鬱気な顔も見えた…――。
≪どうして…参加しましょうと言ってしまったの…。でも、もうあの時、貴方を繋ぎとめる方法はないのだと、そう言われた気がして…≫
頭に響くセレスティアの声は、可哀想なほど弱っている。
やがて馬車は到着して、”僕”が降りていき、セレスティアも続く。
”僕”が先に仮面をかけて、もう一つの仮面をこちらに渡してくる。
それを速やかに着けて、歩き出した。
≪…気味の悪い場所…、これが旦那様の望んだものなの…?≫
『君は、大丈夫かい?』
平坦に聞こえる”僕”の声に、本当は泣きそうな癖に気丈な声を出す。
『ええ大丈夫ですわ。』
見覚えのある受付嬢が、案内をし、”僕”と別々の場所へと案内されそうになった時、≪ウィリアム様…!≫と頭の中で響いた。
だが、”僕”は振り返らずに去ってしまう。
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