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二章〜本番〜

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 保健室に連れていかれて、保健医の野沢に足をさすられる。押されるたびに、飛びあがるような痛みを発した。

「軽い捻挫だ。氷で冷やしておけば治る」

 保健医なのに盲目で、だからサングラスをしていると噂がある怪しい教師だ。しかし、その真相は闇の中。

 ミステリアスな教師であっても、保健医であることに代わりない。相手の捻挫という診断に、ようやく実感がわいてきた。

 開いている窓から生温かい空気と一緒に外で続いている競技の声援が幽かに聴こえてきた。一年生の玉入れが行われている。

 左足首に湿布をはられて、包帯でぐるぐる巻きにされる。氷嚢ひょうのうを受取り自分で患部に押し当てた。今日の競技にはもう出れないだろうなぁと、笑みを浮かべて野沢が言う。

 それに苦笑いを返していると、また新たな患者が保健室に入ってきた。相手がそちらの面倒を見に行っている間、俺はここまで連れてきてくれた大翔に「なぁ」と話しかける。

「お前に頼みがあるんだけど」
「あぁ、紅白対抗リレーの方だろ?大丈夫。補欠はちゃんといるから、そいつに頼んで」
「いや、紅白リレーは出る」
「……はぁ?」
「頼みってのは、紅白リレーの順番を変えてほしいってことなんだけど……駄目か?」
「駄目っていうか……出れるのか?」
「出る、でなきゃいけない理由ができた。大丈夫、必ず勝つから。だから、頼む」

 そういって、頭を下げた。

 大翔が少しだけバツの悪い顔をしたが、少しだけ頭をめぐらした後に「いいぞ」と頷いてくれた。安堵のため息をついて、今度こいつに菓子パン五個くらい買ってやろうと笑顔を向ける。

「それで、順番をどうしたいんだ?」
「渉の後ろにしてくれないか?」
「……えぇぇぇ……いけるのか?」

 力強く頷けば、相手もそれに押される形で分かったよと頷いた。

 次の競技、男子限定の棒倒し、そして一年生リレーが終わればすぐに紅白対抗リレーだ。俺はそれまで保健室でゆっくりしているといって、その場に残った。

 座っているソファーに深く座りなおし、これで渉が許してくれなかったらどうしようと不安に胸が押しつぶされそうになる。ある意味賭けだな。

 左足は、少し動かすだけでも握られたように痛む。だから、痛いのも面倒くさいのも大嫌いなんだよ。それが渉のためにここまで体はっちゃうんだから、好きなんだよ。悪いかよ、好きだよ。

 外から、ひときわ大きな歓声がする。放送で、棒倒しが白組の勝ちだと知らせた。





 紅白対抗リレーの選手は校庭に集まってください。

 その声を聞いて、無理やり足を引きずり校庭に出た。あまり人に悟られないように、普通に歩いている様を演じる。

 大翔が迎えに来てくれたので、相手の腕につかまりながら指定の場所にゆっくり歩く。先に来ていた奴らが、遅いといって俺達を迎えた。渉はそっぽを向いて俺をみていない。

「この紅白リレーで、勝ち負けが決まる……勝つぞ!」

 大翔が点数板を見ながら言った。

 渉のことばかりで、勝敗についてすっかり失念していた。紅白リレーには青柳と司の姿もある。さて、勝てるかどうかの見物になってきた。

 スピーカーから曲が鳴り響き、とうとう最後の種目が争われる。奇数番と偶数番の列にそれぞれ分かれて入場だ。渉の並ぶ偶数番が先に行ったので、奇数番の俺が一番最後に並んだことはバレずに済んだ。

 そして奇数番も入場して指定の位置に着く。

 最初の走者は女子からだ。女子が全員走り終わると途中で男子へとバトンを渡して交代する。
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