18 / 30
二章〜本番〜
七
しおりを挟む
校庭には紅白応援団勢ぞろいで、男子の太い声援、女子の高い声援が入り混じる。
校庭の中心に行く前。入口に並んで入場の合図があるまで待つ。緊張で手の平に人の字を書いていると、旗にもうひとつの色の旗が当てられた。コツンッ、音のしたほうに真剣な眼差しをした笹本がいた。
「石本先輩も、叶えたいことあるんですか?」
あの笹本が自分から話しかけてきたことに、今度は俺が驚く番だった。頷くと、相手は初めて俺に口元をゆるめてみせた。僅かな笑顔だったが、俺にとってはさらに驚くことに変わりない。
「お互い、頑張りましょう……」
「お、おう。あのさ……石本じゃなくて鳴海でいい。前から言おうと思ってたけど」
「僕も笹本とか気持ち悪いんで、司でいいです」
「それじゃ、司。お前、弁当食ったか?」
「僕じゃないやつが、食ってくれました。僕には堤の弁当があったんで」
司がそう答えたと同時に、応援団入場のアナウンスが入った。旗を持った俺と司が、応援団の先頭を駆け抜ける。何回か練習したので、そこらへんは慣れている。
大翔と青柳が叫んだ。
「「いくぞぉぉぉぉっ!!」」
「「おぉぉぉぉっ!!」」
団長二人の声に答えて、俺と司や他の団員たちが叫んだ。そして、旗を高々と掲げると走りだす。
校庭の真ん中まで一緒のルートだが、中心に来た時左右に別れる。俺は左に、司は右に。そして、俺達の後を追って他の団員たちが追いかけて来る。
定位置についたとき、周囲はシンッとしている。扇形の持ち手の部分に大翔が着き、向かい合う白団との矢面に立つ。その一歩退いた右隣に渉、左隣には俺がたっている。そして背後には、他の男子応援団。女子はさらに背後で横一列になって並んでいる。
最初に声を上げるのは、敵側。青柳響也。
「白組、三連覇にかけ!!第三十一代目応援団長、青柳響也が!白組にエールを送る!皆の者、声をはりあげろ!!」
よく通る声は、先導を切る者としてふさわしい。青柳が後ろ手に組んでいた両手を前にもってくると、白い扇を取り出してそれを華麗に振って合図を取る。
背後にある白組の和太鼓がひとつ目の音を叩けば、それに合わせて背後にいた団員達が腕を振る。青柳が右手を上げた。それがきっかけとなって、激しい和太鼓と男子応援団の激しい踊りとなった三三七拍子が始まる。
青柳はまったく緊張していない。むしろ大翔に喧嘩をふっかけるかのように、爽やかに笑っている。女子たちが見惚れてため息をつくのが聴こえてくるようだ。
ドンッと鳴って、足踏みが聴こえる。統制のとれた、本当に美しい舞だ。鶴が舞っている、しかし弱さはない。まさに力強い舞だ。司の赤地の白と書かれた旗が音に合わせて舞う。
男子たちの踊りが終わりに近づき、和太鼓が最後の音を叩く。それを合図に、野郎どもは横に退いて背後にいた女子たちが姿を見せる。紅団がチアガールの格好をしているのとは対照的に、弓道部などが着ている袴姿で踊りを始める。右手にだけ扇を持って、スピーカーから流れてくるヒップホップに腰を振る。
ダンスではない、演武に近い。目が惹かれて、離せない。そのとき、曲が止んで女子たちも動きを止めた。人形のように止まった彼女たちの間をぬって、男子達もそこで人形のように位置について動きを止める。最後の演目で太鼓が一つ轟くと同時に、男女混合の演武が動き出す。
全ての動きに無駄のない。美しい、白団の持つ扇が鶴の翼のようにいったりきたりして、最後に男女混じって扇形になり青柳が先頭に立った。太鼓が止む。そして、彼が叫んだ。
「白組ぃぃぃぃっ!! 優勝ぉぉぉぉっ!!!!」
「「おぉぉぉぉぉぉっ!!」」
ドンッと最後にひと打ちされた太鼓で、周囲から割れるような拍手が湧きおこった。それは紅組からの拍手も混じっている。完璧だ、だがこちらとて負けていない。大翔を見れば、喧嘩を売られて嬉しくて仕方ないといった表情。
俺も、旗を持ち直す。こっちだって、負けてねぇんだよ!
「紅組、精鋭達が告ぐ!白組の三連覇はない!第三十一代目、応援団長星野大翔!!紅組に歓喜の勝利を与えるぞっ!」
猛々しい声が空気を震わせてすぐに、こちらの和太鼓が一音目を発した。赤い扇を持って音頭をとる。太鼓が打ち鳴らされ、他の団員達は赤い手袋をし、それで拳を作って組手を繰り出す。ばしっと決まった組手に、男子達から拍手が起こる。組手にダンスを組み合わせた演武は、太鼓の音とマッチしている。俺も旗を大きく振って、相手に喧嘩を売る。
相手が鶴なら、こっちは牙をむいた龍だ。牙を見せる、相手に食らいつく。「ハッ!」と声をあげて、拳を止めると汗が噴き出してきた。熱いが、体の奥から湧きあがる熱がある。止めることができない。もっと激しく。
男子達が飛び蹴りを最後に後ろに退く。それと入れ替わるように、赤と黄色のボンボンを持ったミニスカの女子たちが下に履いたスパッツを見せつけ、激しいダンスをみせる。こちらの曲は、洋楽のテンポの速い曲。腰が揺れる、足が地を飛ぶ、ボンボンが天を飛んでまた手元に戻ってくる。観衆たちが曲にあわせて手を叩く。
曲が終わると、女子たちが手拍子をしてリズムを取る。太鼓がそれに合わせて激しく鳴りだすと、男子が女子たちに混ざって扇形を作る。洋楽と和太鼓の曲で、最後の男女混合の演武が始まる。いさましく、刃をむいた。
そして最後に大翔の雄叫びで、終わる。
「紅組ぃぃぃぃ!!勝つぞぉぉぉぉぉっ!!!!」
「「おぉぉぉぉぉっ!!!!」」
俺達の演目が止んだとたんに、またも拍手が沸いた。その拍手が止むまでに、皆が息を整える。その間、俺の緊張が高まる。
お互いの演目が終わったら、次は旗手の出番だ。
校庭の中心に行く前。入口に並んで入場の合図があるまで待つ。緊張で手の平に人の字を書いていると、旗にもうひとつの色の旗が当てられた。コツンッ、音のしたほうに真剣な眼差しをした笹本がいた。
「石本先輩も、叶えたいことあるんですか?」
あの笹本が自分から話しかけてきたことに、今度は俺が驚く番だった。頷くと、相手は初めて俺に口元をゆるめてみせた。僅かな笑顔だったが、俺にとってはさらに驚くことに変わりない。
「お互い、頑張りましょう……」
「お、おう。あのさ……石本じゃなくて鳴海でいい。前から言おうと思ってたけど」
「僕も笹本とか気持ち悪いんで、司でいいです」
「それじゃ、司。お前、弁当食ったか?」
「僕じゃないやつが、食ってくれました。僕には堤の弁当があったんで」
司がそう答えたと同時に、応援団入場のアナウンスが入った。旗を持った俺と司が、応援団の先頭を駆け抜ける。何回か練習したので、そこらへんは慣れている。
大翔と青柳が叫んだ。
「「いくぞぉぉぉぉっ!!」」
「「おぉぉぉぉっ!!」」
団長二人の声に答えて、俺と司や他の団員たちが叫んだ。そして、旗を高々と掲げると走りだす。
校庭の真ん中まで一緒のルートだが、中心に来た時左右に別れる。俺は左に、司は右に。そして、俺達の後を追って他の団員たちが追いかけて来る。
定位置についたとき、周囲はシンッとしている。扇形の持ち手の部分に大翔が着き、向かい合う白団との矢面に立つ。その一歩退いた右隣に渉、左隣には俺がたっている。そして背後には、他の男子応援団。女子はさらに背後で横一列になって並んでいる。
最初に声を上げるのは、敵側。青柳響也。
「白組、三連覇にかけ!!第三十一代目応援団長、青柳響也が!白組にエールを送る!皆の者、声をはりあげろ!!」
よく通る声は、先導を切る者としてふさわしい。青柳が後ろ手に組んでいた両手を前にもってくると、白い扇を取り出してそれを華麗に振って合図を取る。
背後にある白組の和太鼓がひとつ目の音を叩けば、それに合わせて背後にいた団員達が腕を振る。青柳が右手を上げた。それがきっかけとなって、激しい和太鼓と男子応援団の激しい踊りとなった三三七拍子が始まる。
青柳はまったく緊張していない。むしろ大翔に喧嘩をふっかけるかのように、爽やかに笑っている。女子たちが見惚れてため息をつくのが聴こえてくるようだ。
ドンッと鳴って、足踏みが聴こえる。統制のとれた、本当に美しい舞だ。鶴が舞っている、しかし弱さはない。まさに力強い舞だ。司の赤地の白と書かれた旗が音に合わせて舞う。
男子たちの踊りが終わりに近づき、和太鼓が最後の音を叩く。それを合図に、野郎どもは横に退いて背後にいた女子たちが姿を見せる。紅団がチアガールの格好をしているのとは対照的に、弓道部などが着ている袴姿で踊りを始める。右手にだけ扇を持って、スピーカーから流れてくるヒップホップに腰を振る。
ダンスではない、演武に近い。目が惹かれて、離せない。そのとき、曲が止んで女子たちも動きを止めた。人形のように止まった彼女たちの間をぬって、男子達もそこで人形のように位置について動きを止める。最後の演目で太鼓が一つ轟くと同時に、男女混合の演武が動き出す。
全ての動きに無駄のない。美しい、白団の持つ扇が鶴の翼のようにいったりきたりして、最後に男女混じって扇形になり青柳が先頭に立った。太鼓が止む。そして、彼が叫んだ。
「白組ぃぃぃぃっ!! 優勝ぉぉぉぉっ!!!!」
「「おぉぉぉぉぉぉっ!!」」
ドンッと最後にひと打ちされた太鼓で、周囲から割れるような拍手が湧きおこった。それは紅組からの拍手も混じっている。完璧だ、だがこちらとて負けていない。大翔を見れば、喧嘩を売られて嬉しくて仕方ないといった表情。
俺も、旗を持ち直す。こっちだって、負けてねぇんだよ!
「紅組、精鋭達が告ぐ!白組の三連覇はない!第三十一代目、応援団長星野大翔!!紅組に歓喜の勝利を与えるぞっ!」
猛々しい声が空気を震わせてすぐに、こちらの和太鼓が一音目を発した。赤い扇を持って音頭をとる。太鼓が打ち鳴らされ、他の団員達は赤い手袋をし、それで拳を作って組手を繰り出す。ばしっと決まった組手に、男子達から拍手が起こる。組手にダンスを組み合わせた演武は、太鼓の音とマッチしている。俺も旗を大きく振って、相手に喧嘩を売る。
相手が鶴なら、こっちは牙をむいた龍だ。牙を見せる、相手に食らいつく。「ハッ!」と声をあげて、拳を止めると汗が噴き出してきた。熱いが、体の奥から湧きあがる熱がある。止めることができない。もっと激しく。
男子達が飛び蹴りを最後に後ろに退く。それと入れ替わるように、赤と黄色のボンボンを持ったミニスカの女子たちが下に履いたスパッツを見せつけ、激しいダンスをみせる。こちらの曲は、洋楽のテンポの速い曲。腰が揺れる、足が地を飛ぶ、ボンボンが天を飛んでまた手元に戻ってくる。観衆たちが曲にあわせて手を叩く。
曲が終わると、女子たちが手拍子をしてリズムを取る。太鼓がそれに合わせて激しく鳴りだすと、男子が女子たちに混ざって扇形を作る。洋楽と和太鼓の曲で、最後の男女混合の演武が始まる。いさましく、刃をむいた。
そして最後に大翔の雄叫びで、終わる。
「紅組ぃぃぃぃ!!勝つぞぉぉぉぉぉっ!!!!」
「「おぉぉぉぉぉっ!!!!」」
俺達の演目が止んだとたんに、またも拍手が沸いた。その拍手が止むまでに、皆が息を整える。その間、俺の緊張が高まる。
お互いの演目が終わったら、次は旗手の出番だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる