底辺地下アイドルの僕がスパダリ様に推されてます!?

皇 いちこ

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#11 胃袋ごと愛して

11-2 胃袋ごと愛して

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「直矢さんが見てくれていると思うと……とても心強かったです」

解散の話が持ち上がって、不安の中でも夢中で駆け抜けたステージ。
薄闇の中で見えた微笑や、拙く揺れるペンライトに、どれだけ励まされたことだろう。無条件で与えられた愛に、紫音は心を動かされていた。

無償でも構わない。
夢を応援するという勇気を貰った分、彼の生活を支えたいと感じたのだ。

「本当に……そんなことで良いのか?」

普段はよく通るバリトンの声が、弱々しく掠れている。紫音はそれさえも愛おしいと思った。

「これ以上の報酬はありません」

握手会の最中、落下した衝撃で時を止めたストップウォッチ。
失われた時間を埋め合わせるように、紫音は直矢の両手を握り締めた。長く、強く。
そこへ、控えめなノックが響いた。

「体調はいかがですか?」

開いたドアから顔を出したのは、トレイを抱えた姉だ。
ナイトテーブルに置かれた湯呑から、漢方の香りが立ち上る。救急車が到着するまで、機敏に応急処置を行ってくれたのが彼女だった。
直矢は彼女の姿を見るなり、驚きの声を上げる。

「貴女は……ペンライトの……!」
「え……!姉とお知り合いだったんですか?」

直矢は二人を見比べ、ますます不可思議そうな表情になった。
正反対の性格を表すように、釣り目気味の姉と垂れ目の弟は似ても似つかない。ヒールを履けば身長をわずかに追い越してしまうため、女王様と下僕という関係に間違われることさえあった。

「そういえば……お返しするのを忘れていました」
「ああ、お気になさらず!あれは差し上げますから」

律儀に起き上がろうとする直矢を、姉はすかさず制止する。
そして、愛弟に向き直ると、こう諭したのだった。

「紫音。直矢さんが元気になるまでしっかりお世話せなよ。ご自宅にも足繫く通って」
「うん……わかっとうよ、お姉ちゃん」

姉弟は団結した。
家族からの鼓舞を受け、紫音は大胆な提案も切り出すことができた。

「今日はもう遅いので、泊っていってください。付きっきりで看病します」

ベッドの隣に敷いた布団と用意したパジャマを、紫音は視線で示した。弟の言葉に姉も力強く頷く。
労働契約――もといハウスキーパー業務はこの瞬間から始まっていた。

「お腹は空いていませんか?お粥を作ってみたんですが……」

水膨れを作りながら完成させた、梅干し入りの粥。階下のキッチンで厳重にスタンバイさせてあった。

「君が……俺のために?」
「はい……!」

疲弊で染まっていた瞳に、一筋の光が溢れ出す。
姉は快復の兆しを喜ぶと、いそいそと立ち上がった。

「明日も仕事が早いので、これでお暇しますね。後はお二人でごゆっくり」

スカートを翻した彼女は、ドアノブに手を掛ける。
すると、扉越しに聞き耳を立てていた人物が部屋に押し入ってきた。

「ゆっくりなんかさせねぇぜ、オッサン!」
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