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第92話

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 あり得ない。
 俺はフードコートを建設したが、それだけでまたリリスの好感度が一気に上がった。

 俺はダンジョンの2階を進みつつリリスを見た。
 リリスは俺の渡したピザ5枚をミルフィーユのように重ね、上の1枚だけはひっくり返す事で食べやすいようにまとめて両手で食べていく。

 それでも手にはソースがべっとりと付いているが炎に強いせいか熱くても気にならないようだ。

 俺は最初ピザを1万枚注文して「はあ?」と言われたが、今では皆リリスの大食いを把握している為か何も言わなくなった。

 敵が出てくるとリリスは急いでピザを飲み込み戦う。

「シルバーオーク!許さない!」

 リリスがドラゴンに変身してシルバーオークを攻撃する。

 リリスは前にシルバーオークにピザを叩き落され、そして食べられた。
 それからリリスはシルバーオークを見つけたら即倒すようになった。

 周りを見渡すと、みんなに疲れの色が見える。

「明日は3連休にする」

 その瞬間リリスが俺に近づいてローブを掴んだ。

「何?」
「バイキング」

「行って来たら?」
「連れてって」

「行って来て良いんだぞ」
「バイキング」

「わ、分かった。今から連れて行こう」

 俺とリリスはバイキングに向かった。



 バイキングの店に入ると店員のお姉さんが笑顔で出迎える。

「いらっしゃいま、せ」

 店員のお姉さんがスピンを決めるように反転して叫ぶ。

「店長!遂に来ちゃいました!」
「んん?どうし、!!!全店員に告げる!Aモード発動!繰り返す!Aモード発動!」

「「「Aモード発動!」」」

 全店員が復唱する。

 厨房からガチャガチャと音がする。

「座ろうか」
「うん」

 店員のお姉さんが笑顔で言った。

「私達は進化してきました。その成果を見せます!」

 

 少し待つとリリスの前に大きいフライパンに山のように入ったパスタが運ばれてくる。
 そしてフライパンごと置かれ、パンが数十個置かれた。
 なるほど、直に食べるスタイルか。
 リリスに盛り付けようの器など不要。
 そう言う事だろう。


 リリスはフライパンから直でパスタを啜り始める。
 だが、リリスの動きが止まり、リリスが咀嚼し始める。

 俺はパスタを見て笑った。
 そうか、パスタにベーコンの大きな塊と大きな野菜を混ぜているのか。
 これにより飲み込む事が出来なくなる。
 そして料理しやすいベーコンの塊にした点も見逃せない。
 更にパスタは細く、早く火が通るよう考えられている。
 パンはハードタイプで噛み応えがあり飲み込みにくく、噛めば噛むほど味が出るタイプか。
 まさに初手としては理想の滑り出しだ。

 リリスはまるで瞑想をするかのように一心不乱に食べ続ける。

「あむ、はむ、あふ、んんん」

 リリスが食べ終わる前に次の品が運ばれてきた。
 ホールケーキをそのままか!
 次はジュースが出てくるが、2リットルくらいの大きな器に入ってきた。
 更に保存の効くクッキーが大量に置かれる。
 そしてカットフルーツも大きな器に入れられて運ばれてきた。

 これあれか、リリスの「さっぱりした物が食べたい」対策だ。
 でも、俺が食べるスペースが無いんですけど?

 次はカレーにごろっと大きい具が入った鍋が運ばれてくる。
 完成したカレーに炒めた大きな具を入れ、即席でリリス対策を完成させたか。

 リリスは立ち上がり、お玉から直でカレーを啜っていく。
 具をもぐもぐして飲み込み、またカレーを口に運び、パンを口に入れてもぐもぐして一緒に飲み込む。

 最初に出てきたパスタのフライパンと入れ替わるように極太タイプのパスタが運ばれてくる。
 平打ちタイプか。
 意地でもリリスに咀嚼させようとしてくる。

  だがリリスは没頭するように食べ続けている。
 リリスの頬は赤く染まり、汗で服が張り付いている。

「あふん、ふー、ふー、あむ」

 大きいステーキがフライパンに乗せられて運ばれてくる。
 もきゅもきゅと口に入れてそれすら平らげようとする。

 お客さんはリリスを見物するように集まってきた。
 これ何?フードファイト?
 一人フードファイト?

 いや、だが見ていて飽きない。
 店員の流れるような動き。
 リリスのフードファイト。
 他のお客さんにバイキングを提供しつつリリスを完封するこの店の店員に尊敬の念が浮かぶ。

 キッチンから大きな音が聞こえる。

 ガチャン!!

 俺はキッチンに向かった。

「あああああ!腕があああ!腕がつった!くそおお!こんな時に!フライパンを振る腕があああ!」
「そんな!エースがここで倒れたら!一気にやられてしまいます!」

「僕にやらせてください!」

 そこに新人と思われる男が名乗りを上げた。

「でも、あなたここに入ってまだ3か月じゃないの!」

 そう言う女性に腕を痛めたエースの男が言った。

「やらせよう。なあに、俺がついている。大丈夫だ!」

 エースの男は苦しさを押し殺し、変な汗を掻きながらそれでも笑顔で言った。
 俺は、ヒールをかけるべきだろうか?
 いや、だが、あの新人のチャンスを潰す事になりかねない。
 
 ギリギリまで見守ろう。
 何かが起きる、そんな予感がした。

 新人の隣でエースの男が汗を掻き左腕を抑えながら指導する。
 巨大オムレツを作っているようだ。
 リリスに普通サイズは通用しない。
 焼け石に水なのだ。

「いいか、油は!あ、少し多いな」
「すみません!!」
「いいんだ、いい。焦らなくていいんだ」


「そう、そこでひっくり返すんだ!」
「はい!」

「ああ!崩れた!巨大オムレツがああ!!」
「すまん、俺が腕を痛めなきゃこうはならなかった!お前のせいじゃねえよ!」
「先輩!おれ、くうう」

 俺は前に出ていた。

「そのオムレツを、そのままリリスに出して欲しい」
「だ、だが失敗したオムレツをお客さんに出すわけにはいかねえぜ!」
「良いんだ!!出してくれ!想いは、伝わってきた。何度も作ってほしい。失敗しても持って来てくれ!!食べさせたいんだ!!無駄にはしたくない!!!」

 エースの男が涙を流す。

「すまねえ!すまねえ!」
「ううう、次は絶対に!絶対に成功させます!!」

「それでいいんだ。オムレツは俺が持って行くよ。おいしい料理をいつもありがとう」

 俺が崩れたオムレツを持って行き、しばらくすると厨房から歓声が聞こえた。
 巨大オムレツに成功したか。
 何度失敗しても良いんだ。

 今、新しい料理人が生まれようとしている。



 しばらくすると、リリスが眠りだした。
 その瞬間店員が歓声の声を上げた。
 お客さんは全員立ち上がり店員に拍手を送る。
 子供も訳が分からないままマネをして拍手をして笑っている。

 若い女性と男性の店員が抱き合いながら泣いていた。
 黒き呑竜は恋のキューピットでもあったようだ。

 あれ?俺は何も食べてない。

 俺はすぐにバイキングを済ませ、リリスをおんぶして帰った。



 その後3日間にわたり黒き呑竜がバイキングに来店する事になる。
 バイキングの店員は3日間にわたる消耗戦を仕掛けられ、店員のレベルは飛躍的に向上した。
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