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第1章
3. Fearful : 俺が見ている現実
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ねぇ、このもじなに?
ん?ああ、これはお前の名前だよ。漢字で書いてあるんだ
かんじ?ふぅん。へんなかたちだね
そうか?多くの人と繋がりを持って幸せに生きてほしい。そんな願いが込められてる名前だ。まぁどうしても俺に似せた名前がいいって母さんが聞かなくてね。未だにちょっと照れくさいんだ
じゃあ、このなまえきらい?
まさか。好きさ。お前に似合ったいい名前だよ。そう思うだろ?
うん!すき!でもこのもじ、むずかしい
はは、漢字はもう少し大きくなったら習うよ。そうしたら自分で書けるようになるさ
ほんとに?
ああ。だから元気に大きく育ってくれよ、累人
5月上旬。
気温が大分上昇し上着のいらない時期になってきた。中学と違ってネクタイとか半袖とか季節ごとの制服の規定はないから楽でいい。
「ねーねー累人君。ゴールデンウィークどこ行った?」
席に着くなり、佐々蔵が食い気味で尋ねてくる。
朝の予鈴前の教室は賑やかで、交わされる話題は大方これだろう。
「行った前提かよ。まぁ何日かは部活だったけど、練習ない日は母方の実家に帰ったりした。電車で1時間くらいの場所で結構近いんだ」
「へぇーいいね。おばあちゃん家ってなんかテンション上がるよね。じゃ両親と里帰りみたいな感じだったんだ」
「いや、父親は単身赴任だから母親と2人で。それに
(父親…………父さんは………)
1人っ子だからなおさらその、祖父母からの孫愛が強いというか」
「あはは、いいことじゃん。でもちょっと意外ー。君って上に兄か姉いそうな感じするのに」
「いそうな感じって何だよ。つか佐々蔵は?兄弟」
「どう?いそうに見える?」
「え、んー……下にいそう。何となく」
「おっ、せーかい。妹がいるんだ、今中1」
「ほんとに当たった。へぇ妹か。かわいい?」
「そりゃもう、我が佐々蔵家自慢の長女ですから。将来すんごい美少女になること間違いなし!だから紹介はもう少し待ってくれないかな。いくら友達の特権でも中学生のうちから交際というのは兄として__」
「待て待て!話を勝手に飛躍させるな!」
勢い込んだ表情で語り出すのを慌てて手を振って遮る。見合いでも組ませようってのか。
「こいつ昔っから妹第一でな。世話好きの性分はそっから来てんだ。交際までいきたいならその前にまずこいつを攻略することだ。ま弟分になります的なアピールしとけば大丈夫だぜ」
机の横に立った伊志森がさらっと助言してくる。お前まで何乗っかってんだ!
「いやいやー、君がいい人だってことは今までで十分分かってるよ累人君。もう兄からの許可は取れたも同然だ。あとは両親と本人の意思を問うてみないとね。ま、時間はたっぷりあるから焦らずに」
「よかったな、第一関門突破だってよ」
いやこれ冗談だよね、冗談なんだよね!
「ほ、本人のいない所で勝手に盛り上がるのは失礼だろ。ほら、もうチャイム鳴るから席着けって」
妙に神妙な顔をしている2人を手を振って追い払う。
ったく、何で朝からこんなハラハラしなきゃならねんだ。
席に着こうと椅子を引いた時、視界の奥の柳とふと目が合った。
すると向こうは小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、すぐ視線を前に戻した。
……あれからこちらに何かしらの反応を示すようになったのはいいけど、尽く嫌味が含まれてそうなやつばっかなんだよな。
今のは何だ、こっちの話聞いてたのか?満更でもなさそうだなニヤケ面、とでも言いたいのか?
ああもう、席隣だったら問い質せるのに。
モヤモヤした気持ちを抱えつつ席に着くと同時に、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。
昼休み。
中庭と聞くとおしゃれな雰囲気をイメージしがちだが、俺だけだろうか、田舎の公立高校ということを踏まえると的外れな想像と言える。
ここにあるのは文字通り、中に設けられた庭。
北棟と南棟の5階建て校舎、その二つを繋ぐ渡り廊下によって四角に囲まれた屋外空間。アスファルトの地面にぽつぽつと木製テーブルとベンチが置かれただけの、何とも無造作な場所である。
そんな場所も休憩時間になれば生徒のランチスペースとして活用される。かく言う俺も今はその1人。
「柳。ちょっと話があるんだが」
「俺にはない。じゃあな」
「待て。開始5秒で立ち去ろうとすんな。末期のコミュ症かお前」
「末期ならそもそも会話しないだろ。じゃあな」
「だから待て。話聞けよ。今の俺とお前のやりとりだって会話って言えないからな。言葉のキャッチボールじゃなくてドッジボールだからなこれ」
佐々蔵と伊志森が売店に行っている間の場所取り役。その最中に偶然1階の渡り廊下を通りかかった柳を中庭のテーブルまで強制連行し、今に至る。
ちなみに現在の柳の不機嫌度は10段階中の7くらい。俺の判断基準では。
こっちだって穏便に済ませたいが、話があると言って任意同行を求めても応じられることはほぼない。
「どっちも同じだろ」
「違うわ。相手に届けようと投げる球とぶつけようと投げる球だぞ。ひのきの棒と鉄の剣くらい差があるわ」
「何だその例え」
「分かりやすいかと思って。ひょっとして柳ってゲームとかあんまやらない?」
「何でゲームの話になる」
「やらないのか。じゃあ、えっと……」
「わざわざ他の例えを考えなくていい。……ったく面倒くせぇ奴」
ぽそっと呟き、仕方ないというように柳はそばのベンチに腰を下ろした。
俺もその隣に座る。
「お、今回は逃げないのか」
「下手に騒がれて周囲の注目を浴びても何だしな」
「別に誰も見てないと思うけど。中庭の端っこのテーブルだし」
「お前の視界は360度あるのか。こんな開けた空間で、誰がどこから見ているか分かったものじゃないだろ。…………俺は周りからすればいない者だってことを忘れるな」
「……そう、なんだろうけど、わざわざ言わなくたって__」
「事実だ。それで、要件は何だ」
「あぁ、うん。…………柳、ちょいちょい前から気になってたんだけどさ、たまに俺に向けてくる皮肉めいた笑みは何?どういう意図があるのかいまいち分かんないから説明を願いたいんだけど」
「…………はぁ?」
「いや、俺に対して態度冷たいのは相変わらずだけど、それはそれで複雑な気分になるというか、怒らせたかなって気になるからさ。要するに、お前の心情が全く読めなくて不安になる。読めた試しないけど」
「…………それはこっちのセリフだ」
「えっ?何?やっぱ怒ってる?」
「さぁな。気になるなら先月下旬の自分の行動を思い返してみろ」
「先月…………もしかして、遠足の時の?」
「もあるが、その前日もな」
「その前日って…………うっ、あ、あれは少し言い方がきつかったって反省してるよ。脅迫めいた感じになってしまったというか」
「言い方以前に言動がおかしいだろ。むしろお前が誰かに脅迫されてあんな凶行に走ったのかと疑う程だった」
「凶行言うな。頼むから忘れてくれ。あの時は気がどうかしてた。あぁー、ボタン一つで記憶消去できたらなー」
「……後悔してるか?俺に関わったことを」
それまで余所に向かってぼそぼそと答えていた柳が、ふとこちらの様子を伺うように目線を向ける。
「後悔?いや、全く。でも何でそんなこと訊くの?」
「……俺には分からない。これでよかったのか。なぜお前はそうやって間髪入れず断言できるのか」
「答えに迷う余地がないからだけど。これでよかったかっていうのはどういう?」
「俺に関わり続ける限り、お前はここでは異端だ。そっちから首を突っ込んできたとはいえ、それを止め切れなかったのも事実だ。……俺のせいで、お前が苦境に立たされることになったら…………」
「要するに、俺と距離を縮めてもいいのか分からないってこと?そんなのもちろん__」
「おまたせーっと。遅くなってごめんねー累人君」
佐々蔵がテーブルにやってきた。パック包装された唐揚げとサンドイッチを手にしている。後ろからは、あんパンとペットボトルのお茶を持った伊志森の姿。
「売店が割と混んでてねー。やっぱり昼休の前に買っておいた方がいいね。伊志はそれだけで足りるの?またフライドポテトあげようか」
「俺は残飯処理係じゃねぇぞ。唐揚げ買う度に付属のしなびたポテト押し付けやがって。いらねぇなら買うな」
「だって唐揚げを食べたいんだもん」
「なら単品をスーパーで買え」
相変わらず賑やかな様子の2人にスペースを空けるため立ち上がり、柳に声をかけようと隣を向いた。
だが、そこにはもう姿はなかった。
「どうかした?累人君」
「あ、いや…………何でもない」
「何、もしかして1人で考え事してたらすごく面白い一発ギャグ思いついたとか?」
「それは断じてない、ていうかやったことないし。それより昼にしようか」
「うん。そうだ、待たせたお詫びにポテト好きなだけあげるよ」
「いらなかったらきっぱり断っていいからな累人」
日陰の下少し冷たいテーブルに弁当箱を広げる。お、昨日の夕飯のハンバーグが入ってる。
箸を進めながら時折周囲に目を向けてみたが、柳の姿は見当たらなかった。
何も黙っていなくなることないのに。
さっきの会話で柳が言っていたことを思い返す。
集団の中で1人異質な者がいれば、周りから異常扱いされる。俺がその対象者になってしまうかもしれないから、本当に関わりを持っていいのか分からない。そう思っているのだろう。
自分自身そこまで考えが及んでいたとは言えない。でもだからといって俺が見えない振りなんてしたら、柳はまた独りになってしまう。それはだめだ。
ああもう、このわけの分からない現象は一体何なんだ。
原因でも分かれば、解決の糸口とかが見えてくるかもしれないのに。
あれこれ考えを巡らす間にも、佐々蔵と伊志森による他愛もない雑談は続く。
2人にも、クラスの誰にも柳について訊いたことはない。もしかしたら俺以外にも見える生徒がいて、その人と協力できたら現状の打開策も考えやすいんじゃないか。そう思う一方で、結局行動に移せないままでいる。
__柳一夜?そんな名前は知らない。
もし、そんな答えがクラスメイトから、目の前の2人から返ってきたら。
それは捉えどころのない恐怖となって、心の中を漂っている。
ん?ああ、これはお前の名前だよ。漢字で書いてあるんだ
かんじ?ふぅん。へんなかたちだね
そうか?多くの人と繋がりを持って幸せに生きてほしい。そんな願いが込められてる名前だ。まぁどうしても俺に似せた名前がいいって母さんが聞かなくてね。未だにちょっと照れくさいんだ
じゃあ、このなまえきらい?
まさか。好きさ。お前に似合ったいい名前だよ。そう思うだろ?
うん!すき!でもこのもじ、むずかしい
はは、漢字はもう少し大きくなったら習うよ。そうしたら自分で書けるようになるさ
ほんとに?
ああ。だから元気に大きく育ってくれよ、累人
5月上旬。
気温が大分上昇し上着のいらない時期になってきた。中学と違ってネクタイとか半袖とか季節ごとの制服の規定はないから楽でいい。
「ねーねー累人君。ゴールデンウィークどこ行った?」
席に着くなり、佐々蔵が食い気味で尋ねてくる。
朝の予鈴前の教室は賑やかで、交わされる話題は大方これだろう。
「行った前提かよ。まぁ何日かは部活だったけど、練習ない日は母方の実家に帰ったりした。電車で1時間くらいの場所で結構近いんだ」
「へぇーいいね。おばあちゃん家ってなんかテンション上がるよね。じゃ両親と里帰りみたいな感じだったんだ」
「いや、父親は単身赴任だから母親と2人で。それに
(父親…………父さんは………)
1人っ子だからなおさらその、祖父母からの孫愛が強いというか」
「あはは、いいことじゃん。でもちょっと意外ー。君って上に兄か姉いそうな感じするのに」
「いそうな感じって何だよ。つか佐々蔵は?兄弟」
「どう?いそうに見える?」
「え、んー……下にいそう。何となく」
「おっ、せーかい。妹がいるんだ、今中1」
「ほんとに当たった。へぇ妹か。かわいい?」
「そりゃもう、我が佐々蔵家自慢の長女ですから。将来すんごい美少女になること間違いなし!だから紹介はもう少し待ってくれないかな。いくら友達の特権でも中学生のうちから交際というのは兄として__」
「待て待て!話を勝手に飛躍させるな!」
勢い込んだ表情で語り出すのを慌てて手を振って遮る。見合いでも組ませようってのか。
「こいつ昔っから妹第一でな。世話好きの性分はそっから来てんだ。交際までいきたいならその前にまずこいつを攻略することだ。ま弟分になります的なアピールしとけば大丈夫だぜ」
机の横に立った伊志森がさらっと助言してくる。お前まで何乗っかってんだ!
「いやいやー、君がいい人だってことは今までで十分分かってるよ累人君。もう兄からの許可は取れたも同然だ。あとは両親と本人の意思を問うてみないとね。ま、時間はたっぷりあるから焦らずに」
「よかったな、第一関門突破だってよ」
いやこれ冗談だよね、冗談なんだよね!
「ほ、本人のいない所で勝手に盛り上がるのは失礼だろ。ほら、もうチャイム鳴るから席着けって」
妙に神妙な顔をしている2人を手を振って追い払う。
ったく、何で朝からこんなハラハラしなきゃならねんだ。
席に着こうと椅子を引いた時、視界の奥の柳とふと目が合った。
すると向こうは小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、すぐ視線を前に戻した。
……あれからこちらに何かしらの反応を示すようになったのはいいけど、尽く嫌味が含まれてそうなやつばっかなんだよな。
今のは何だ、こっちの話聞いてたのか?満更でもなさそうだなニヤケ面、とでも言いたいのか?
ああもう、席隣だったら問い質せるのに。
モヤモヤした気持ちを抱えつつ席に着くと同時に、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。
昼休み。
中庭と聞くとおしゃれな雰囲気をイメージしがちだが、俺だけだろうか、田舎の公立高校ということを踏まえると的外れな想像と言える。
ここにあるのは文字通り、中に設けられた庭。
北棟と南棟の5階建て校舎、その二つを繋ぐ渡り廊下によって四角に囲まれた屋外空間。アスファルトの地面にぽつぽつと木製テーブルとベンチが置かれただけの、何とも無造作な場所である。
そんな場所も休憩時間になれば生徒のランチスペースとして活用される。かく言う俺も今はその1人。
「柳。ちょっと話があるんだが」
「俺にはない。じゃあな」
「待て。開始5秒で立ち去ろうとすんな。末期のコミュ症かお前」
「末期ならそもそも会話しないだろ。じゃあな」
「だから待て。話聞けよ。今の俺とお前のやりとりだって会話って言えないからな。言葉のキャッチボールじゃなくてドッジボールだからなこれ」
佐々蔵と伊志森が売店に行っている間の場所取り役。その最中に偶然1階の渡り廊下を通りかかった柳を中庭のテーブルまで強制連行し、今に至る。
ちなみに現在の柳の不機嫌度は10段階中の7くらい。俺の判断基準では。
こっちだって穏便に済ませたいが、話があると言って任意同行を求めても応じられることはほぼない。
「どっちも同じだろ」
「違うわ。相手に届けようと投げる球とぶつけようと投げる球だぞ。ひのきの棒と鉄の剣くらい差があるわ」
「何だその例え」
「分かりやすいかと思って。ひょっとして柳ってゲームとかあんまやらない?」
「何でゲームの話になる」
「やらないのか。じゃあ、えっと……」
「わざわざ他の例えを考えなくていい。……ったく面倒くせぇ奴」
ぽそっと呟き、仕方ないというように柳はそばのベンチに腰を下ろした。
俺もその隣に座る。
「お、今回は逃げないのか」
「下手に騒がれて周囲の注目を浴びても何だしな」
「別に誰も見てないと思うけど。中庭の端っこのテーブルだし」
「お前の視界は360度あるのか。こんな開けた空間で、誰がどこから見ているか分かったものじゃないだろ。…………俺は周りからすればいない者だってことを忘れるな」
「……そう、なんだろうけど、わざわざ言わなくたって__」
「事実だ。それで、要件は何だ」
「あぁ、うん。…………柳、ちょいちょい前から気になってたんだけどさ、たまに俺に向けてくる皮肉めいた笑みは何?どういう意図があるのかいまいち分かんないから説明を願いたいんだけど」
「…………はぁ?」
「いや、俺に対して態度冷たいのは相変わらずだけど、それはそれで複雑な気分になるというか、怒らせたかなって気になるからさ。要するに、お前の心情が全く読めなくて不安になる。読めた試しないけど」
「…………それはこっちのセリフだ」
「えっ?何?やっぱ怒ってる?」
「さぁな。気になるなら先月下旬の自分の行動を思い返してみろ」
「先月…………もしかして、遠足の時の?」
「もあるが、その前日もな」
「その前日って…………うっ、あ、あれは少し言い方がきつかったって反省してるよ。脅迫めいた感じになってしまったというか」
「言い方以前に言動がおかしいだろ。むしろお前が誰かに脅迫されてあんな凶行に走ったのかと疑う程だった」
「凶行言うな。頼むから忘れてくれ。あの時は気がどうかしてた。あぁー、ボタン一つで記憶消去できたらなー」
「……後悔してるか?俺に関わったことを」
それまで余所に向かってぼそぼそと答えていた柳が、ふとこちらの様子を伺うように目線を向ける。
「後悔?いや、全く。でも何でそんなこと訊くの?」
「……俺には分からない。これでよかったのか。なぜお前はそうやって間髪入れず断言できるのか」
「答えに迷う余地がないからだけど。これでよかったかっていうのはどういう?」
「俺に関わり続ける限り、お前はここでは異端だ。そっちから首を突っ込んできたとはいえ、それを止め切れなかったのも事実だ。……俺のせいで、お前が苦境に立たされることになったら…………」
「要するに、俺と距離を縮めてもいいのか分からないってこと?そんなのもちろん__」
「おまたせーっと。遅くなってごめんねー累人君」
佐々蔵がテーブルにやってきた。パック包装された唐揚げとサンドイッチを手にしている。後ろからは、あんパンとペットボトルのお茶を持った伊志森の姿。
「売店が割と混んでてねー。やっぱり昼休の前に買っておいた方がいいね。伊志はそれだけで足りるの?またフライドポテトあげようか」
「俺は残飯処理係じゃねぇぞ。唐揚げ買う度に付属のしなびたポテト押し付けやがって。いらねぇなら買うな」
「だって唐揚げを食べたいんだもん」
「なら単品をスーパーで買え」
相変わらず賑やかな様子の2人にスペースを空けるため立ち上がり、柳に声をかけようと隣を向いた。
だが、そこにはもう姿はなかった。
「どうかした?累人君」
「あ、いや…………何でもない」
「何、もしかして1人で考え事してたらすごく面白い一発ギャグ思いついたとか?」
「それは断じてない、ていうかやったことないし。それより昼にしようか」
「うん。そうだ、待たせたお詫びにポテト好きなだけあげるよ」
「いらなかったらきっぱり断っていいからな累人」
日陰の下少し冷たいテーブルに弁当箱を広げる。お、昨日の夕飯のハンバーグが入ってる。
箸を進めながら時折周囲に目を向けてみたが、柳の姿は見当たらなかった。
何も黙っていなくなることないのに。
さっきの会話で柳が言っていたことを思い返す。
集団の中で1人異質な者がいれば、周りから異常扱いされる。俺がその対象者になってしまうかもしれないから、本当に関わりを持っていいのか分からない。そう思っているのだろう。
自分自身そこまで考えが及んでいたとは言えない。でもだからといって俺が見えない振りなんてしたら、柳はまた独りになってしまう。それはだめだ。
ああもう、このわけの分からない現象は一体何なんだ。
原因でも分かれば、解決の糸口とかが見えてくるかもしれないのに。
あれこれ考えを巡らす間にも、佐々蔵と伊志森による他愛もない雑談は続く。
2人にも、クラスの誰にも柳について訊いたことはない。もしかしたら俺以外にも見える生徒がいて、その人と協力できたら現状の打開策も考えやすいんじゃないか。そう思う一方で、結局行動に移せないままでいる。
__柳一夜?そんな名前は知らない。
もし、そんな答えがクラスメイトから、目の前の2人から返ってきたら。
それは捉えどころのない恐怖となって、心の中を漂っている。
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