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愛溢れる世界
237:初めての夜会へ
しおりを挟む疲労困憊したあの日、
俺は帰宅後、そのまま夕食も食べず
眠ってしまった。
だからどんな服を母と王妃様が
俺のために作ったのかも
何も知らされなかった。
あまり興味も無かったし。
ただし、翌日、
仕事から帰った義兄に
今後の予定を聞くことができた。
どうやら社交シーズン開始の
最初の夜会に俺はティスと一緒に
出ることになったらしい。
社交シーズンの最初と最後は
王家主催の夜会となるのが
恒例らしく、義兄もルイと一緒に
その夜会には必ず出るのだとか。
なるほど。
それから義兄とルイが
進めてくれている『改革』の話も聞いた。
俺が王妃になった時、
サポートできるようにと
今から父の率いる『相談課』の
仕事の内容や仕組みを
試行錯誤しながら
変えていってくれているらしい。
今後、どうなるのかはまだ未定だが
ティスが王位に就くまでには
王と王妃を支えるための部署になる予定だという。
凄い話だ。
でも、めちゃくちゃ嬉しい。
それに助かる。
あまりの嬉しさに
義兄に抱きついてしまうぐらいには
正直、嬉しかった。
だって俺が王妃なんて
不安しかなかったし。
しかも、この改革には
義兄や父だけでなく、
ルイやティスも関わってくれていて、
将来的にはクリムや
ルシリアンも引き込む予定だと言う。
しかも二人にはすでに
話をしていて了承も得ているらしい。
「しかし、あの義父が
ティス殿下との婚約をこんなに
あっさり了承するとはな」
義兄の言葉に俺も頷くしかない。
でも、あの執務室に父が
怒鳴り込んできた時のティス、
恰好良かったな。
「まぁ、義母のとりなしも
大きな要因だろうが」
その言葉にも俺は大きく頷く。
やはり母は最強だ。
だって、王妃様でさえも
母には強く出れないというか、
王妃様は母の機嫌を損ねないように
けれども、母ともっと
仲良くなりたいという意思を
隠そうともせずに接してくる。
そんな王妃様も最強の父も、
母の手のひらの上で
転がされているように
思えるのは俺の気のせいだろうか。
「とにかく次の夜会が
良くも悪くもアキルティアの
社交界デビューになる。
今まで顔を出さなかった分、
注目されるだろう」
「それは、覚悟してる」
俺は神妙に返事をした。
俺が今まで甘えて来たツケが
来たと思えばその通りだし、
ティスの隣に立つのだから
誰もが俺を値踏みするだろう。
「ちゃんと、俺もルイ殿下も
そばにいて守るから」
その言葉に俺は思わず
じんわりと涙を浮かべてしまった。
よし、大丈夫だ。
ちょッと不安だったけど。
ティスだっているし、
何も怖いことなど無いぜ!
と、俺は拳を握った。
……のだが。
夜会当日、俺は途方に暮れていた。
その日は母も父もタウンハウスに
来ていて、俺は母監修のもと、
着替えをさせられていたのだが。
だってさ。
俺の服、どう見てもドレスなんだ。
いや、正確にはズボンだった。
うん。
でもパンツスーツとか
そう言うのではなくて。
なんと言えばいいのだろうか。
服はあちこちがキラキラひらひらで
レースも沢山ついている。
それはいいんだ、それは。
だがしかし。
シャツの裾が長くて、
しかもドレープが効いている。
そしてズボンもまた
シャツと同じ色合いで
これまたひらひらしつつ
ドレープが着いているので、
ズボンを履いてるのだが、
ぱっと見た感じ、スカートを
履いているように見える。
いや、鏡で見る俺は
どうみてもドレスを着ているようにしか見えない。
しかも化粧されて
アクセサリーまで付けられて。
しかも白銀の布に黄金の糸を
ふんだんに使っているため、
どうみても俺のこの衣装は
ティスを意識している。
……恥ずかしすぎる。
しかも前世の俺の感覚で言えば
どう考えても女装でしかないのに
今の俺の顔や姿はこの女装が
ヤケに似合っているのだ。
なんの冗談だと笑い飛ばすこともできない。
俺の支度をしたサリーは
大満足の表情をしていたし、
母は「あらあら、まぁまぁ」と
嬉しそうだ。
その後、父に仕方なく
着飾った姿を見せると、
何故か「俺の可愛い息子がー」と
泣き出してしまった。
義兄とルイは俺を見て
目を見開いていたが、
ルイに
「似合い過ぎてて
ツッコめない」
と言われて俺も大きく頷いてしまった。
夜会には2台の馬車で行くことになった。
ルイと義兄は婚約しているので
二人は一緒の馬車だ。
そして俺は父と母と一緒に馬車に乗る。
そういや家族3人で馬車に乗るなんて
何年ぶりだろうか。
義兄が公爵家に来る前は
何度かあったかもしれないが、
少なくとも義兄が来てからは
家族で馬車に乗るなど
なかったと思う。
母はずっと病弱で
馬車乗るなんて無理だったから。
そう考えると、感慨深い。
「母様、元気になってよかったです」
俺が隣に座る母にそう言うと、
母は「あなたのおかげよ」と笑った。
そして
「王宮に着いたら
私たちとは別行動になるわ」
大丈夫?と言われる。
そう、俺は王宮に着いたら
ティスの婚約者として
紹介されるのだ。
俺も王家の一員(仮)という
立位置になるので、
公爵家としてではなく、
王家の嫁の立場で
振舞わなければならない。
大丈夫ではないが、
ここは大丈夫と思うしかない。
付け焼刃だが、
義兄とルイに貴族社会のことを
厳しく教えてもらったし、
クリムとルシリアンにも
夜会に出ることを
手紙を出して伝えてある。
俺一人だったら
泣き言を言ったかもしれないが、
俺には協力は助っ人が
沢山いるからな。
大丈夫だ、うん。
俺は母と、そして
不安そうな父に笑顔を見せる。
「大丈夫です。
僕を助けてくれる友人たちが
沢山いますので」
俺の言葉に、父と母は
優しい顔で頷いた。
よし、社交デビューだ。
気を引き締めるぜ。
俺はぐっと拳を握った。
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