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愛溢れる世界
238:社交界は謎からはじまる
しおりを挟む俺たちが王宮に着くと、
高位貴族専用の控室に案内された。
俺は王族枠内で王族専用の
控室にも入れるらしいが
遠慮することにした。
だってルイと義兄は、
公爵家ではなく、
友好国の王子と婚約者なので
別室だし、父と母は公爵家。
そんな中、俺一人
王族専用控室に行くなど
絶対に無理だ。
ティスがいたとしても
陛下と王妃様と4人で
何を話せばいいかわからないし。
俺は初めての夜会で
不安満載だったが、
控室のそばまできたら
義兄がぽん、と俺の頭を撫でた。
どうやら義兄とルイは別室なので
ここでお別れらしい。
寂しく感じたが、
ルイが『まかせとけ』と
指でサインを送って来たので
少し安心する。
入った控室にはお茶の準備もあり
俺は両親と一緒に
ソファーに座った。
母の話では、
王家主催の夜会は
位の低い貴族からフロアに
入場するらしい。
王族は一番最後になる。
恐らく、国賓として
ルイと義兄が入場して、
その後、俺たちが。
最後に陛下たちが入場するだろうと
そんな話を聞いた。
あとこの国では18歳で成人になる。
夜会は16歳から出ることはできるが
フロアでお酒は飲まないこと。
未成年にお酒を進めないことが
王家によって決められており、
それを破ると、かなり大きな
罰を課せられるらしい。
大丈夫、俺は絶対に飲まないし。
「あとあなたは今日は絶対に
注目されると思うわ。
私と旦那様でできるかぎり
引きつけておくようにするけれど
絶対に一人になってはダメよ?」
俺は頷く。
それに母も社交界は久しぶりだ。
俺が社交界デビューをするのを
きっかけに復帰することに
したらしいのだが、
母曰く「お母様はこれでも
社交界の人気者だったのよ」
なのできっと、いや絶対に
母の周囲には人が集まると思う。
あの王妃様を見ていたら
どんな状態になるのかわかる気がする。
俺はその母の威光の陰に隠れて
過ごすことにしよう。
そんなことを考えていると
ようやく俺たちの番になったらしい。
侍従が呼びに来た。
「母様、父様が一言も話さないのですが」
馬車の中でも父は無口だった。
今まではそんなこと無かったので
俺は思わず母に聞く。
「大丈夫。父様も緊張してるだけよ」
緊張!?
父が?
「ふふ、可愛いあなたの
社交界デビューですものね」
母はやんわり笑って俺の背を押す。
「さぁ、行きましょう。
旦那様も」
と母が父の腕に手を伸ばす。
父は我に返ったように
母をエスコートして部屋を出る。
俺はそのやや後ろをついて歩いた。
部屋を出て少し歩くと、
ティスの姿が見える。
俺たちがこの場所を通るのを
待っていてくれたらしい。
ティスは俺の姿を見て
驚いた顔をしたかと思うと、
頬を赤くした。
「あ、アキ、アキルティア、
可愛い、ううん、綺麗、
物凄く、き、れい」
たどたどしく言うティスを見て
俺も嬉しくなる。
「これ、ジャスティス。
挨拶が先であろう」
ティスは扉が開いた部屋の前に立っていて
後ろから陛下が現れた。
俺は慌てて臣下の礼をして、
母も即座に挨拶をするが、
父だけは不満そうな顔をする。
「まだ拗ねてるのか」
陛下は父を見て呆れたような顔をする。
この父を見て、
拗ねてるのかと窘めることができるのは
父と母ぐらいだろう、
その後ろから王妃様が出て来たので
俺は慌てて礼をするが
王妃様は俺の動きを指先で制した。
「いいわ、とっても。
キャンディス様と一緒に選んだ
とっておきの衣装ね」
「ありがとうございます」
俺は丁寧にお礼を言ったが、
王妃様にとっては
俺が似合うということより
母と一緒に選んだ衣装、って
ところに価値があるんだろうけど。
こんなに王妃様に慕われる母って
学生時代はどんな感じだったんだろ。
「アキ」
俺が王妃様を見つめていると
ティスが俺の手を握って来た。
「今日はエスコートさせてくれて
ありがとう。
今日はずっと一緒にいてね」
俺の保護欲を掻き立てる
可愛い顔でティスが言う。
俺はこのティスの可愛さと、
カッコ良さのギャップに参ってしまうのだ。
ティス、わざと俺の前で
可愛いを演出してるんじゃないだろうな。
そんなのあるわけないが、
疑ってしまうぐらい
ティスはたまに俺の前で可愛くなる。
このティスの顔を見ると
俺は何も拒否できない。
前世弟を見ている気分にもなるし、
ティスを守ってやらなくっちゃ、
なんて思ってしまう。
ティスはそんな俺の気持ちに
気が付いていないとは思うが、
可愛い顔をした後は
必ずと言って俺の手を握ったり
腕に触れたり、
スキンシップが強くなる。
俺は恥ずかしくなっても
可愛いティスを拒否できないから
それを受け入れるしかない。
今も、ティスは手を繋いでるのに、
指先で俺の指をなぞったり、
手の平を指で擦ったりしてくる。
無性に恥ずかしい。
「さぁ、行くぞ」
と陛下の声が、
俺の意識をティスから現実に戻した。
「アキ、行こう」
ティスが俺の手を離した。
そして改めてエスコートするように
手を伸ばしてくる。
俺がその手を取ると、
陛下と王妃様がゆっくり歩き出した。
その後ろを父と母が。
そのあとを俺とティスがついて行く。
廊下を進む途中で
義兄とルイも合流した。
フロアに出る前の待機場みたいな場所で
俺たちは一旦止まり、
先にルイと義兄がフロアに出る。
爵位と名前を呼ばれてから
フロアに出るのだが、
義兄の肩書は、
公爵家とルイの婚約者だった。
俺は、まだ、だよな?
ティスの婚約者なんて言われないよな?
いや、言われても構わないが、
心の準備が……。
ウダウダ考えていると、
急に名を呼ばれた。
「……ジャスティス殿下、
ならびに
アッシュフォード公爵家、
アキルティア・アッシュフォード様」
俺は慌てて顔を上げる。
「行こう」
ティスの言葉にうなずき、
俺はフロアに1歩出る。
うわぁ、と声援というか
悲鳴のような男女の声が聞こえたのは
気のせいだろうか。
それと大きな拍手が聞こえる。
なんで拍手?
俺の社交界デビューは
首を傾げることころから始まった。
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