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閑話9

俺の可愛い可愛い息子は天使が過ぎる・2【父SIDE】

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 俺から可愛い息子を奪うのなら、
俺に勝ってからにしろ!

俺は立ち上がり、
そう怒鳴ってやろうとしたが、
陛下に冷静な声で名を呼ばれ
しぶしぶソファーに座り直す。

こんな時、俺は兄が
国王で良かったと思う。

今、もし過去と同じような
戦火に見舞われていたのなら
俺のような人間が国王であっても
何とかなると思う。

だが俺は兄のように
常に冷静に物事を考えるのが苦手だ。

特に愛する者が関わった時は
身体が先に動いてしまう。

王や王妃というのは、
自分や自分の愛する者のためだけに
生きることはできない。

俺はそれができなかった。
だから王家から離れたのだ。

そう言う意味で言えば、
ジャスティス殿下や可愛い息子は
王の素質があると言える。

他者を。
自分とは関係のない弱者までも
守ろうとする心があるのだから。

おそらくスクライド国で
俺が息子と同じことをしても
俺は『救済の天使』とは呼ばれなかっただろう。

俺は行動することはできても
そこに『心』が伴わない。

そういうことは、
口に出さなくても伝わるものだ。

うん。
やはり俺の息子は可愛くて偉大だ。

俺が脳内で可愛い息子のことを
考えて落ち着いたのを
見届けたように、
隣国の王子が笑顔で俺を見た。

「公爵殿、大丈夫です。
きっと勘違いですから」

何が勘違いだ?
俺のところに婿養子になりたいと
願ったのだろう?

俺の口に出さなかった疑問に
すぐに返事が来る。

「私はあなたの義息である
ジェルロイド殿との婚姻を
お許しいただきたい」

そう言ってルティクラウン殿下が
差し出したのは、隣国王家の
蝋印が押された封書だった。

「現国王の署名入りです。
王弟となった私と
この国の公爵家の縁組は
両国の友好の懸け橋になるだろうと」

俺は驚いた。
確かに政略結婚としては
素晴らしいと思う。

なにせ戦後60年。
友好とは言い難い関係しか
してこなかったのだ。

しかも今回は未遂とはいえ、
開戦したかもしれない状況にまで
陥っていた。

疑心暗鬼になるのも仕方が無い。

文官たちの中にも、
本当に信じて良いのかと
いまだに不信感をあらわにする者もいる。

だが王家が絡んだ婚姻を
結ぶことが出来れば、
そういった不信感を拭えるし、
両国の関係はより強固になるだろう。

だが義理とはいえ
ジェルロイドも俺の息子だ。

可愛い息子のために
ジェルロイドの人生を
犠牲にしている自覚はある。

だからこそ、結婚ぐらい
愛する人とさせてやろうと
俺は考えていた。

それにルティクラウン殿下と
ジェルロイドは7歳も
年が離れている。

本人の気持ちも大事だし
この話は断るべきだ。

たとえ隣国の王家が
関わっていたとしても……。

そう思った俺が声を出す前に
ルティクラウン殿下は
にこやかに言う。

「ただ、対外的には
政略結婚ですが、
私たちは愛し合ってますので」

は?
と俺は口を開けたまま
一瞬、動きを止めてしまった。

「そしてもしも、ですが、
あなたの可愛いご子息が
王家に嫁入りしても
大丈夫なように案も用意しています」

にこにこと笑いながら
ルティクラウン殿下は
俺がいる『相談課』を絡めた
改革を離し始めた。

将来この国の王となる
ジャスティス殿下のため。

それ以上にもしも、だが。

もしも可愛い息子が
王妃になった時の場合、
その負担を減らすための
改革案だった。

「俺の可愛い息子は……」
王妃になどならない。

そう言う前に
ルティクラウン殿下は俺を見る。

「もし王妃にならないのなら
改革をしてもそのまま。

あなたの可愛いご子息は、
あなたの元で働くだけですよ」

そうだ!

可愛い息子が『相談課』の仕事を、
俺の後継者として引き継ぐのなら
俺は毎日ずーっと
仕事の間は可愛い息子と一緒だ!

息子が学園を卒業したら
一緒に領地に住んで、
毎日一緒に仕事に行く。

そして帰りも一緒に
愛する妻の元に帰るのだ。

なんて素晴らしい未来だろう。

俺は俄然やる気がでてきた。

そんな俺を陛下は見て
ため息をつく。

「隣国の王家との縁組だ。
ましてや本人たちが
望んでいるのであれば
反対はできん」

「わかりました。
ジェルロイドの意志を
確かめてからになりますが
婚姻を認めましょう」

「それから先ほどの案だが
本当に実施可能だと思うか?」

陛下の問いに
ルティクラウン殿下は
大きく頷いた。

「はい。
すでにこの案は
ジェルロイドにも話をしています。

ジャスティス殿下や
殿下の側近たちも
おそらくは乗る気になるでしょう。

かけがえのない王妃を
迎えいれる為なのですから」

王家の嫁入りの話だけは
俺は反対だ!

そう叫びたかったが。

「無理に王家の嫁にしようなどとは思わない。
だが、本人が望めば、良いだろう?」

陛下が俺に言う。
それに俺は頷くしかできない。

俺の可愛い息子が
本当に望むのなら、
物凄く嫌だが仕方が無い。

もし可愛い息子が望んでいることを
俺が拒否して。

あの可愛い声で
「とーさま嫌い」と
言われてしまうぐらいなら
断腸の思いだが、
婚姻を許すしかない。

俺はもう二度と、
可愛い息子に拒絶されたくないのだ。

いやいや頷くと
陛下は満足そうな顔をした。

いや、だが。
可愛い息子が王妃になると
決まったわけではない。

もし王妃になったら
その時に煩わしいことに
ならないように
先に場を調えておくだけだ。

それに王家に嫁に行かないのなら
可愛い息子と俺は
一緒の職場で一緒に仕事をする日々になる。

そんな素晴らしいことはない!

そうだ。
悪い話ではない。

義息と隣国の王子の婚姻も
政治的には歓迎できる内容だし
本人たちが愛し合っていると
言うのであれば
それで良いだろう。

義息の後の公爵家の後継は
また血筋から優秀な者を
選んでも構わない。

俺が未来を思い描き、
異論はないと判断したのだろう。

「ではこのまま話をすすめるとしよう」
と陛下は言う。

俺もそれに頷いた。

もちろん、可愛い息子が
本当に嫁に行くなど、
この時はつゆほども思っていなかった。

ただ、そう言う未来の
可能性もある。

そう思い判断しただけだった。

だがこの時、もっと考えて
返事をしておけば!

せめてルティクラウン殿下の
相手が可愛い息子であったなら
ずっと可愛い息子は俺のそばに居たのに!

俺がそんな後悔をするのは
ここから数年後のことだった。
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