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終章
195:温泉の館?
しおりを挟む温泉はものすごい広い敷地にあった。
ただ、今は工事中なので使用できるのは
温泉近くの小さな館だけらしい。
ヴィンセントにそう聞かされて
案内された屋敷は、どうみても
小さくはない、かなりの規模の屋敷だった。
本館はまだ工事中で、
案内された屋敷は当面、
来客用の別館になる予定らしい。
ということ、本館ってのは
どんなにデカい屋敷になるのかと
俺は遠い目をしてしまう。
俺たちが滞在している間は
工事も中止しているので静かだし、
お二人を誰も邪魔しませんよ、と
俺たちを迎えてくれたハーディマン侯爵家の
執事が屋敷を案内しながら教えてくれた。
俺たちが案内された屋敷とは別に
使用人たちや工事をする人たちが
使うための家も建てられていて
普段はそこで一定数の人数が
寝泊まりをしていると言う。
何故『普段は』かというと、
俺たちの滞在中は、
屋敷を出入りする人間を制限するために
使用人用の家を使う者は
警備を含めて最低限の人数なんだそうだ。
工事も行わないし、
のんびりお二人でお過ごしください、と
やわらかな声で言われて、
俺は笑顔で礼を言う。
ハーディマン侯爵家の執事さんは
俺が小さなころから知っていて、
今は本家の執事長をしている人だ。
俺の父よりも年上で初老とも
言える人だけれど、
白髪を短く切りそろえた
シャープな顔立ちに、
一見、怖そうに見える鋭い目つきは
いかにも、代々騎士を輩出している
ハーディマン侯爵家ならではの
執事だと思う。
それに子どもの頃、
当時、まだ中等部だったヴィンセントが
「いまだにあいつには勝てない」と
執事さんをこっそり親指で
指していたことがあるので、
きっと強いのは確かだ。
「こちらが滞在用のお部屋でございます」
そう言って扉が開かれ、俺は
「おぉー!」と声を挙げてしまった。
部屋は2階だったのだが、
めちゃくちゃ広い。
俺はテンションが一気に上がり、
ヴィンセントと話をして
頭を下げて部屋を出る執事さんなど
まったく気にせずに、
目につく部屋の扉をすべて開けた。
奥の扉は寝室と繋がっていた。
広い部屋だったが、
「ここはベット部屋か?」というぐらい
物凄く大きなベットが
部屋の真ん中に置いてあった。
ベット以外の家具といえば
小さなベットサイドにあるテーブルぐらいだ。
最初の部屋は、ソファーやテーブルなど
普通の家具しかなかったが、
寝室と反対の部屋を開けてみると
今度は……衣装部屋?
少し狭い部屋に、クローゼットが
沢山あって、大きな姿見がある。
床には裸足で歩けるように
ふかふかの絨毯が敷いてあるので
もし義母にファッションショーを
命じられるとしたら
この部屋ではないかと俺は
密かに震えた。
それから、ベットルームと大きな
ガラス戸があるテラスとの間に
また扉があって、
それを開けると、今度はバスルームだった。
すげぇ!
大興奮していると、
ヴィンセントが呆れたようにやってきて
この風呂の湯も、温泉のお湯を使っているのだと
教えてくれた。
「こっち、おいで」
そう言われてヴィンセントに
手を引かれてテラスに行くと、
前世的に言うと2畳分ぐらいの
広いテラスの先に、
庭に下りることができる階段があった。
階段は素足で歩けるように、
もしくは室内用の靴で歩けるように
水をはじく素材の布が敷いてある。
ヴィンセントに手を引かれるまま
布地の上を歩いて下におりると
そこは庭だった。
しかも、絶対にプライベート空間だ。
だって。
ずーっと布は庭の先に続いているが、
布の両側は垣根があって、
どこからも入れないし、
誰にも見られないようになっている。
そのまままっすぐに垣根の道を
布を踏みつつ進んで行くと……
「露天風呂だ!」
俺は小躍りしたくなった。
露天風呂がある!
しかも、脱衣所っぽい場所の横には
休憩所みたいな感じで
魔石で作った小型冷蔵庫みたいな
ものが置いてあり、
中には冷たい飲み物が保管されていたのだ。
これはもしかしなくても、
一日中、露天風呂を楽しめるってことでは!?
「……イクス!
なぜいきなり服を脱ぐ!?」
「え?
ダメだった?」
目の前に露天風呂があるんだから
服を脱ぐのは当たり前だろう。
「……落ち着け。
いきなり、ズボンを脱ぐな」
「シャツからの方が良かった?」
今着ているシャツはボタンが小さいから
脱ぎにくいのだ。
「そうじゃない。
バトラーがまずお茶を準備すると
言っていただろう」
そうだったっけ。
バトラーってあの執事さんのことだよな。
何も聞いてなかった。
ヴィンセントは頬を赤くして
俺を叱りながら俺が床に落とした
ズボンを引き上げてボタンを留めてくる。
「温泉は後だ」
「はーい」
仕方がない。
俺は大人だからな。
聞き分けはいいのだ。
でもお茶を飲んだら
絶対に露天風呂だ!
風呂では泳いだらダメらしいが、
プライベート風呂ならいいだろう、
うん。
言いに決まってる。
うひゃー、
テンション上がってきたぜ。
俺はわくわくしすぎて
ヴィンセントの何か言いたげな顔にも、
執事さんの、温かい瞳の意味も
まったく気が付くことが出来ず。
その後のお茶菓子で出て来た
チョコレートケーキをほくほく顔で
堪能してしまった。
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