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終章
177:調査
しおりを挟むカミサマは俺の考えが
まとまるのを待っていたかのように
『行ってくれるな』という。
どこに?
『この世界の魔力はまだ不安定だ。
他の世界と繋がり、
干渉を受けるのは良くないが、
もう少し続ける必要がある』
ほんと、人の話を聞かないカミサマだ。
と思ったら、ちらり、と睨まれた。
きっと俺の考えていることなんて
筒抜けなんだろうな。
だからカミサマは言葉にしなくても
俺と会話をしている状態に
なっているんだろう。
でも俺は言葉にしてもらわないと
何も理解できないんだが。
と、頭の中で思ったら、
カミサマは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
ほらやっぱり。
俺の考えてることは筒抜けだった。
『この世界とあの世界では
時間が流れる早さが違う。
こちらで……人間たちが言う
何年も過ぎた、という時間が過ぎても
あちらの世界ではわずかな時間にしか過ぎない。
だからこそ、あの世界の強大な想像力を
この世界の魔力に変換することにしたのだ。
たとえあの世界で、
一時だけの興奮状態で
生み出された想像力であったとしても
こちらの世界では、何年も利用できる
力になるからだ』
なるほど。
推しの対象が1年ぐらいで
変わることもあるかもしれない。
でも前世の世界では1年の推し活でも
こちらの世界では、時間の流れが
遅いから、何年もの間、
その1年で培った腐妄想を
ちびちび使えるわけか。
『だが、それにもかかわらず
あちらの世界から届く力が
どんどん弱くなってきている』
深刻な声に俺は言葉を
失ったままカミサマを見上げる。
「その原因はわかってるの?」
まさか俺のバカ妹に何かあったとか……。
『それを調べて来いと言っている』
カミサマは俺をバカにしたように言う。
言ってないし。
いや、聞いてないぞ。
文句を言おうと思ったが、
それ以上に気になる言葉が
聞こえた気がする。
「調べるて来いってどこに?」
『決まっている。
供給元だ』
え!?
と思った瞬間、
カミサマが右手を上げた。
『供給が安定したら
呼び戻してやる。
……励め』
「え、ちょ、待っ……!」
俺は慌てて声を出し、
大きく手を挙げた。
待てって!
と叫んだのに。
また俺の視界は真っ暗になる。
そして今度はめまいがしてきた。
頭がぐらぐらして、
片頭痛みたいにちょっと
頭の片側が痛くなって。
立っていられなくなって
思わず膝をついたとき。
俺の身体はぐらり、と
床に倒れた。
……ハズだった。
床に倒れたと思ったが、
俺の身体を支えたのは
クッションだった。
とりあえず倒れたけれど
怪我はしなくて済んだようだ。
うまく体が動かなくて
すぐに目を開けることが
できないのだが、
すぐそばで耳を割くような
赤ん坊の泣き声が聞こえる。
俺は必死で体を動かした。
指が何とか動き、
目も開いた。
「ん?」
目を開けると、
見慣れた場所だった。
なんたって、前世で俺が
住んでいたマンションだ。
テレビと小さいソファーがある
リビングで、俺が生きていたころと
全く変わっていない。
だが。
リビングとキッチンの
間から、物凄い鳴き声が聞こえる。
俺が視線を向けると
ベビーベットが置いてあり、
ぎゃんぎゃん泣いてる赤ちゃんがいた。
どういうことだ?
俺は慌ててベビーベットに近づくと
赤ちゃんを抱き上げた。
「よしよし、どうした?
おまえ、どこの子だ?」
バカ妹が誰かの子どもを
預かったのだろうか。
それで放置?
いや、ダメだろう。
どうなってんだ。
俺は泣き続ける赤ちゃんの
身体を揺さぶり、
おしりをトントンと叩く。
すると赤ちゃんは
落ち着いてきたのか
泣き止んだかと思うと
うとうと眠りに入っていく。
いったい何がどうなってんだ。
俺はキッチンに足を向ける。
「おい!」
するとキッチンの椅子に
座ったバカ妹の姿が見えた。
だがテーブルにうつぶせになり、
どうみても正常な様子ではない。
「大丈夫か!?
救急車呼ぶか?」
赤ん坊を抱っこしたまま
俺がバカ妹の肩に触れると
俺の記憶よりも年を重ねた
妹の顔が見えた。
目の下に黒いクマがあり、
よく見ると随分と痩せたような気がする。
「……イクスさま?
なんで?
また夢……?」
ぼんやりとバカ妹は呟き、
「夢?!
ダメ、寝ちゃった。
あの子は……」
視線を彷徨わせて
俺の腕の中の赤ちゃんを見る。
「あぁ、良かった。
寝てるのね」
と呟き、そして赤ん坊を
見ていた目が俺を見る。
「……お兄ちゃん?」
「おぉ、久しぶり。
というか、大丈夫か?
これ、お前の子か?」
おそるおそる聞くと、
バカ妹は目にいっぱい涙をためて
俺にしがみついて来た。
「おい、落ち着け。
とりあえず、この子を下ろすぞ」
俺は赤ちゃんをベビーベットに
そっと下ろす。
ゆっくり下ろしたので
目を覚ますこともなく
赤ちゃんは目を閉じたままだ。
やれやれ。
改めて前世妹を見ると、
可愛く幼い顔立ちだった妹は
すっかり大人の女性になっていた。
俺にとっては2年前に妹は
結婚したばかりなのだが、
こちらの世界ではもう何年も
経っているのだろう。
「うぇぇ、お兄ちゃん、
お兄ちゃん、お兄ちゃんっ」
俺が前世妹に向き直ると、
妹は全力で抱きついてくる。
かなり力が強かったが
大丈夫だ。
俺も随分と成長したし
受け止めることはできた。
かなり痛かったけど。
「いったいどうしたんだ?」
俺は妹を受け止め、
そのままソファーに座らせる。
隣に座り、頭をなでてやると
「お兄ちゃんだ」と妹はまたなく。
一体どういうことだ?
まさかシングルマザーだとか言わないよな。
俺は予想外の前世妹の姿に
どう声をかけていいのか
まったくわからなかった。
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