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溺愛と結婚と
149:閨の授業
しおりを挟む俺は1冊の本を手に
秘密基地から元の部屋に戻った。
もちろん、ヴィンセントも一緒だ。
手にした本は、コピーができる
魔術が書いてある本だ。
俺たちがクローゼットから出て
後ろを振り返ると、
クローゼットはただの
クローゼットに戻っている。
ヴィンセントはまた驚いていた。
「僕もね、よくわかんないけど、
あの秘密基地に行きたい!って
思ったら、行けるようになったんだ」
理由はわからないから、
それ以上の説明のしようがない。
だがヴィンセントはその言葉だけで
納得してくれたようだ。
時間を確認すると、
秘密基地にかなりの時間、
籠っていたように思うのだが、
あまり時間は経っていなかった。
あの秘密基地は、この世界と
流れる時間が違うのかもしれない。
やはりこの世界とは
切り離された空間なんだな。
俺は「疲れたー」と
古書をテーブルの上に置き、
ソファーに座ると、
ヴィンセントはすぐに侍女を呼び、
俺のためにお茶とおやつを準備してくれる。
俺はありがたくそれを
食べることにした。
脳が疲れた時は糖分を摂取するに限る。
俺は大きなパウンドケーキに
クリームを乗せてかぶりつく。
と、向かいに座っている
ヴィンセントの優しい瞳に気が付いた。
いつもの瞳なのに、
さっきの指南書のせいだろうか。
やけに意識してしまう。
俺も、ヴィンセントと
あんなこと……するんだよな?
だって、もう結婚したわけだし。
でも、俺、この世界の性知識って
ほんとに皆無なんだよな。
今までそんなこと、
気にしたこともなかった。
というか、今更だけど、
この体、もう16歳なのに、
そういう欲求が全くないのだ。
前世で16歳と言えば高校生だぞ。
高校生と言えば、
女子に興味を持ったり
キスしたいとか、
彼女を作りたいとか
そういう話題ばかりしている
好奇心と性欲の塊のような
時期だった……はず。
俺はバイトに忙しかったから
そういうのはなかったけれど。
でもそんな俺でさえ、
身体が成長していく中で、
溜まった精液を吐き出すこともあった。
家には妹がいたし、
恋人なんていなかったから
たまに、こっそり自慰を
するぐらいだったけれど。
その頃の俺よりも
今の俺の身体は若いし、
ストレスはないし、
もっと色々反応してもおかしくはない。
……よな?
俺の身体の成長だけが
ゆっくりなのか、
それともこの世界では
性欲とかそういうものは
存在しないのか?
よく考えたら
ヴィンセントからも
そういう欲を感じさせる瞳で
俺、見られたこと無いし。
もしかしてヴィンセントも
性欲ないとか?
ということは、
この世界では結婚してから
性欲も生まれるってこと?
結婚してから性欲が生まれて
それでどうやって子どもを
作るのか、みたいな授業があって。
それから子供を作り始めるのか。
凄い世界だな。
でも、それだと浮気とか不倫とか、
できちゃった婚とかはないのか。
それはそれで合理的で
良い……のか?
よくわからん。
よくわからんが、
その理論で考えたとしても
俺はヴィンセントとすでに
結婚しているんだから
そういうことを学ぶ時期に
なってるってことだよな。
学んでいるうちに
性欲とか出てくるのか?
うーむ。
これはヴィンセントに
確認した方が良いよな。
俺がちらちらと
ヴィンセントを見ながら
パウンドケーキを食べていると
それに気が付いたのか
ヴィンセントがお茶を飲む手を
止めて俺を見た。
ティーカップを持ったまま
「どうした?」と聞かれ
俺は思ったままのことばを口にする。
今更ヴィンセント相手に
隠し事をするつもりはなかったし、
こういったことは早めに
伝えておいた方が良いと思ったのだ。
だってさ。
俺もヴィンセントもそういうことは
初心者で知識ゼロだ。
一緒に進んでいくしかないだろう?
もっと言うと、俺は前世の知識がある。
経験は残念ながらゼロだが、
知識はあるのだから
ヴィンセントよりも大人と
いえるのではないだろうか。
それに俺、そういうことを
するとしたら、やっぱり
ヴィンセントとがいい。
前世の友人たちの中にも
慣れている女性の先輩と
遊びの延長で体を重ねたとか
あと腐れない関係で
愉しめばいいとか
そんなことを言っている奴がいたが
俺はそうは思えなかった。
慣れてるとか、そんなのは関係なくて。
やっぱり触れ合うのなら
好きな人に触れたいし、
触れられたい。
それどころか、
俺以外のやつと
ヴィンセントが触れあうなんて
絶対に嫌だと思う。
「僕は触れあうなら
ヴィー兄様がいい。
今夜一緒に、沢山触れあいたい」
俺の言葉を聞き、
ヴィンセントは目を見開いた。
指の力が抜けたのか、
持っていたカップが斜めになり、
紅茶がテーブルの上の
ソーサーに降り注ぐ。
「ヴィー兄様!
お茶、お茶!」
俺は慌てて立ち上がり、
ヴィンセントの手を掴んで
カップを取り上げたが
ヴィンセントは固まったように動かない。
どうしたんだ?
言い方が悪かったのか?
そういや俺は頭の中で色々考えて
その結論だけを伝えてしまった。
ちゃんと過程を継げないとダメだったか。
俺はカップをテーブルの上手に置き
ヴィンセントに向き直る。
「えっとね。
さっきの本を見て……」
「見たのか!?」
食いつくように言われて
俺は、ちょっとだけ見えた、と
何故か言い訳の様に言ってしまう。
「そ、それでね。
結婚したから、義務とかじゃなくて
僕はヴィー兄様に沢山触れたいし
触れられたいって思ったんだ。
好きだから、ヴィー兄様に
触れたいんだ。
ヴィー兄様が別の人を
触れるのも嫌って思って……
あれ、これって嫉妬……かな?」
俺が嫉妬!?
そんなの感じたこと無かったけど
俺、嫉妬してるんだ。
いや、そうじゃなくて。
「だからね。
僕は子どもの作り方とか
わかんないけど、
ヴィー兄様とだったら
一緒に学びたいって思ったんだ。
ヴィー兄様もまだそういうの
学んでないんでしょう?
だから一緒。
一緒に学んで、沢山、試してみよう」
俺はこの世界にもちゃんと
そういう教育はあると思う。
時期が来たら学べるはずだ。
その為の教科書だってあるはずなのだ。
俺はその教科書をヴィンセントと
一緒に見ながら学ぶつもりでいた。
どんな家庭教師が来るのかわからないけれど
見知らぬ家庭教師に教えられるのは
やはり気恥ずかしい。
まさか実地するようなことは
無いとは思うけれど、
たとえ、練習でも
ヴィンセント以外の人に俺は
触れたいとも思わないし
触れられたくないんだ。
そう言ったことを俺は一生懸命
ヴィンセントに伝えた。
一緒に学ぶことは
恥ずかしくないんだよ、って言いたくて。
逆に俺よりも年上だからって、
ヴィンセントが俺よりも先に
そういうことを学んだら
きっと俺はヤキモチを焼くと思うって。
俺は一生懸命伝えているのに
俺が伝えるほどヴィンセントは
見開いていた目で俺を捉え、
身体を震わせた。
「ヴィー兄様?」
俺がどうしたのかと
首を傾げた途端、
ヴィンセントは立ち上がり
いきなり俺を抱き上げた。
え?
どういうこと?
驚く俺をヴィンセントは
あっと言う間にベットに連れて行くと
俺を片手で抱き上げたまま
ベットのシーツを掴む。
何が何だかわからないうちに
俺はシーツを頭からかぶせられて
ベットに寝かされた。
「え? ヴィー兄様?!」
俺は頭からシーツをかぶった状態なので
状況がよくわからない。
何も見えないし。
なのにヴィンセントは
俺をシーツの上から強く抱きしめて来たのだ。
「もう……勘弁してくれ」
なぜか焦ったような声が聞こえる。
勘弁してくれ?
俺が一緒に学ぼうと言ったことが
良くなかったのか?
恥ずかしかったのだろうか。
俺は前世の保健体育のような
授業を想像していたのだが違うのか?
よくわからん。
わからんが、ここで暴れるのは
悪手のような気がして、
俺はヴィンセントが望むまま
じっと抱きしめられることにした。
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