【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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溺愛と結婚と

150:閨の授業【ヴィンセントSIDE】

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 俺は正直、疲れていた。
イクスに決して見られてはならない
閨の本を見せてしまったからだ。

肉体的疲労ではなく
精神的疲労が激しい。

何故俺はあの本を手に取ってしまったのか。

後悔しかないが、それでも
あの本の中身に関して
イクスが興味を示さなかったことは僥倖だ。

とにかく俺はあの本のことは
忘れて、イクスを守ることに
力を注ぐことにしよう。

部屋に戻るときに、
イクスは1冊の本を大事そうに
持っていたので、何かしら
今の状態の打開策を
得たのかもしれない。

イクスが「疲れたー」と
ソファーに座ったので、
俺はすぐにベルを鳴らし、
侍女にお茶と菓子を準備するように告げる。

さすが王宮の侍女だ。

俺がベルを鳴らすとすぐにやってきて
お茶の準備を整えてくれた。

茶菓子はイクスの好きな
クリームがたっぷり乗った
パウンドケーキだった。

こういった気配りは
公爵殿の采配か
陛下の指示だろう。

イクスはよほど嬉しかったのか
クリームをたっぷり付けて
パウンドケーキを口いっぱい
ほおばっている。

微笑ましい思いで
俺がイクスを見ていると、
何故かちらちらとイクスが
俺を伺うように見始めた。

何か気になることがあったのだろうか。

俺は「どうした?」と
できるだけさり気なく、
イクスを心配している様子を
見せないように聞いた。

紅茶のカップを持ち、
イクスの疑問や不安など
俺がすべて、気負うことなく
軽く解決してやると
そう言った意味合いも込めて
余裕の表情を浮かべる。

もっとも耳だけは真剣に
イクスの声を拾うつもりで
意識を集中させる。

「僕は触れあうなら
ヴィー兄様がいい。
今夜一緒に、沢山触れあいたい」

イクスは何といった!?

願望が強すぎて、
俺の耳がおかしくなったのだろうか。

俺はイクスを凝視してしまった。

今夜?
触れあう?

俺と、イクスが?

俺は混乱して、
紅茶のカップを傾けて
しまっていることにも
気が付かなかった。

俺がお茶をこぼしていることに
気が付いたイクスが

「ヴィー兄様!
お茶、お茶!」

と叫んだが、
俺は衝撃が大きすぎて
指一本、動きそうにない。

そんな俺の指から
イクスがカップを取り上げて、
あのね、と可愛い声が
耳に入って来た。

「えっとね。
さっきの本を見て……」

なんだと!?

「見たのか!?」

あの本の内容を見てしまったのか?
何が書かれていたのか、
内容に気が付いたと言うのか?

俺が声を荒げてしまったからか
イクスは、えっと、と
早口で言う。

「結婚したから、
義務とかじゃなくて
僕はヴィー兄様に沢山触れたいし
触れられたいって思ったんだ」

義務?
あの本の内容を
結婚したら義務ですることが
書かれていると思ったのか。

本を見たのは一瞬だったし、
ちゃんと文は読めなかったんだな。

俺がほっとしている間にも
イクスは言葉を続ける。

「好きだから、ヴィー兄様に
触れたいんだ。

ヴィー兄様が別の人を
触れるのも嫌って思って……

あれ、これって嫉妬……かな?」

嫉妬!?
イクスが嫉妬?

いや、違う、そこではない。
今、イクスは俺が好きだから
俺に触れたいと言っていた。

幻聴か?
そんな都合の良い現実が
あっていいのか?

もう俺の心は乱れまくっている。

そんな俺をイクスはどんどん
追い詰めた。

「だからね。
僕は子どもの作り方とか
わかんないけど、
ヴィー兄様とだったら
一緒に学びたいって思ったんだ。

ヴィー兄様もまだそういうの
学んでないんでしょう?

だから一緒。
一緒に学んで、沢山、試してみよう」

何故俺が閨の授業を受けていないと
思ったのかはわからない。

イクスは自分が知らないから
俺も知らないと思ったのかもしれないが。

だが。
一緒に学ぶ?

イクスと、俺が?
閨の授業を?

それで触れあったり……?

俺は、ガーッと体が熱くなる。

分かってる。
イクスが何も理解してないことは。

だが。
だが!

「ヴィー兄様?」

首を傾げて可愛い顔で。
俺を見つめるイクスに
俺の理性は擦り切れた。

俺は立ち上がり、
イクスを抱き上げる。

このままだと、
むちゃくちゃに抱きつぶしてしまう。

イクスをどこかに隠したい。

俺の欲望に満ちた瞳から
守らねば!

だが、だからと言って
イクスを俺のそばから
離す選択肢はなく……

俺はイクスをベットに
連れて行くとシーツを掴んで
小さな体を包み込んだ。

イクスが苦しくないように。
だが、俺の視線の中に
可愛い顔が入らないように。

驚いたような声が
シーツの中から聞こえるが
それさえも俺を煽っているかのように聞こえる。

俺はシーツの上から
イクスを抱きしめた。

イクスが気が付かないように
腕の力を強めながら
シーツの上からイクスの
髪に口づける。

シーツの上からでも、
小さな体も、やわらかな髪も、
触れるだけで、ありありと
思い描くことができる。

うつ伏せになって
戸惑うイクスの顔すら
すぐに思い出せそうだ。

そして、きょとんとした
可愛い瞳で俺を見つめ
「ヴィー兄様、どうしたの?」
と呟くのだ。

それを想像しただけで
俺は体が熱くなり、
イクスを強く抱きしめたくなる。

こんな醜い欲望に満ちた顔を
イクスには見られたくない。

だが。
だが、イクスを抱きしめたい。
触れたい。
そして……イクスが言ってくれたように
俺も、イクスになら触れられたい。

「もう……勘弁してくれ」

残酷すぎるだろう?
イクスが望んでくれているのに、
俺も望んでいるのに、
それができないなんて。

わかってる。
わかってるんだ。

イクスを責めることではない。

イクスが閨に関して
何も知らないことは
仕方がないことだ。

そしてイクスが俺に望んでくれたことが
俺が望むことと……触れたいと言う
言葉は同じであったとしても
意味が全く違うと言うことも。

理解している。
……しているのに。

俺はただただ自分の想いが
苦しくて。

イクスを抱きしめることしか
できなかった。



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