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高等部とイケメンハーレム
98:魔女の呪い
しおりを挟む俺との話が終わると
エリオットは俺の返事を
陛下に持って行くと言って
席を立った。
そのタイミングで、
ヴィンセントはアキレスを見た。
少し俺と庭園を散歩するから
先に馬車に戻るようにと告げると、
アキレスはヴィンセントに礼をして
俺を見てから、庭園を後にした。
「うまくいっているようだな」
「アキレスのこと?
うん、そうかな」
ちょっと変なスイッチを入れてしまったが、
まぁ、上手くいっている……のか?
俺はヴィンセントと手を繋ぎ、
近くの花を見るために足を踏み出す。
「イクスが説教する姿、
俺も見たかった」
ヴィンセントが言うので
俺は思わず吹き出す。
「そんなの見てどうすんの?
あの第二王子……レオナルド殿下は
あまりにも酷かったから、
つい言いたくなっただけ」
俺の言葉にヴィンセントも笑う。
「イクスは優しいからな。
あの殿下の周囲の人たちが
苦しむかもしれないと思って
忠告したのだろう?」
そう言われて、俺は素直に頷く。
だってさ。
権力を持った者が
好き勝手に動いたら、
その分だけ周囲の人間が
巻き添えになってしまう。
しかもレオナルドは王族だ。
下手をすれば死人がでてもおかしくはない。
そういうことに気が付いて欲しいと
俺は思ったのだ。
そうでなければ、王族の資格など無いと
俺は本気で思ってるから。
「イクスの言葉は、ちゃんと
あの王子に届いていたようだぞ」
「そう?
それなら良かった」
俺は笑って足を止めた。
つられたように
俺をエスコートしていた
ヴィンセントも立ち止まる。
「どうした?」
「あそこに、ジュが」
俺はすぐそばにある真赤な、
大輪の花を指さした。
前世で見た牡丹みたいな大きな花に、
何故かジュが顔を突っ込んでいる。
ジュは羽を使って
ミツバチが蜜を舐めるように、
顔を花に突っ込んでいた。
そっと近づいう見ると、
うにゃん、うまい、うにゃん、と
小さな声が聞こえてくる。
俺とヴィンセントは顔を見合わせて笑った。
何故かジュの身体のサイズは
出会った時ぐらい、小さくなっている。
数日前に見た時は
普通の猫ぐらいはあったのに。
「ジュ」
俺が声を掛けると
ジュは驚いたように
羽を何度もはばたかせて俺を見た。
「今日は王宮を散歩してるの?」
しばらく帰ってこなかったと思ったら、
意外と近所にいたらしい。
ジュは俺とヴィンセントを見て
ぱたぱたと飛び、
俺の肩に乗った。
ジュの定位置だ。
俺は指でジュの背中を撫でてやる
「どうしたの?
物凄く小さくなってるけど。
何か力を使わなければ
ならないこととかあった?」
ジュは体内の『力』を使うと
身体が小さく縮むらしい。
と、気が付いたのは
ジュが小さくなると俺の魔力で
作った水を飲みたがったからだ。
さすがに俺の前世妹の妄想も
常にジュやこの世界に
降り注いでいるわけではないらしい。
まぁ、あいつも仕事があるだろうし、
寝ている間は妄想もないだろうしな。
しかし、ジュがこんなに小さくなった姿は
久しぶりに見る。
なんだか可哀そうに思えて
俺はジュに触れている指先に
魔力を込めた。
ジュが好きな『樹』と『光』の魔力だ。
いつも『水』の魔力の水を
飲ませてあげるのだが、
今日は特別。
ジュは疲れているみたいだし、
こんなに小さくなってるんだから
ほっとけない。
と、思ったのが不味かったのだと思う。
俺の『力』にジュが反応した。
小さい耳がぴくぴく動く。
「イクス!」
焦ったような声がして
ヴィンセントに腕を掴まれた。
俺は驚いて、
肩にいたジュを両手で掴む。
と。
視界が急にぐらりと揺れて、
俺はジュと一緒にヴィンセントに
強く抱き込まれた。
視界が真っ暗になり、
そしてすぐに明るくなる。
おそるおそる目を開けると、
そこは……前世の俺の部屋だった。
「ジュ!」
俺は焦る。
何せ今はヴィンセントと一緒だ。
ジュは俺の腕の中で
にゃ、にゃ、と首を振っている。
こんなつもりではなかったと
言っているのだろうか。
「ここは、どこだ?」
俺を抱き込んだまま
ヴィンセントが呟くように言う。
が。
「きゃーっ!」
と物凄い歓喜の声が耳を割く。
咄嗟にヴィンセントは俺を片手で抱き、
もう片手で剣に手を伸ばす。
が。
大丈夫だ。
声の主はもうわかっている。
「ヴィー兄様、大丈夫。
ここは安全だから、
剣はいらないんだ」
俺はヴィンセントの手を
剣から引きはがした。
だがヴィンセントは
警戒マックスな状態で
部屋を見回している。
「ヴィー兄様、本当に大丈夫。
安全は保障するから」
「何故そう言い切れる?」
「だってここ。
僕の前世の世界で、
ここは僕の部屋だから」
はぁ?と言わんばかりに
ヴィンセントの目と口が開いた。
「ジュの力かな?
ジュはそのつもりはなかったようだから
力が暴走したのかもしれない」
というか、俺が前触れもなく
『光」と『樹』の力を
ジュに与えたからじゃないよな?
冷たい汗がでそうになるが
まぁ、戻ることはできるだろうから
問題はそこではない。
ここは前世の俺の部屋。
そしてさっきの奇声は
俺の前世妹の声。
つまり、前世妹は、
俺のすぐそばに居るのだ。
考えられるのは
この部屋の隣にある
前世妹の自室か、
それともリビングか。
俺はジュを肩に乗せ、
ヴィンセントの手を引いて
部屋を出た。
狭いマンションだ。
数歩歩いただけで
リビングで前世妹の
気配がするのがわかる。
「あぁ、イクス様~。
尊い、尊い」
俺がこの世界に居た時に
よく聞いた妹が俺を拝む声がする。
「任せてください、イクス様。
私が必ず、イクス様を
イケメンの愛の海に沈めてさしあげます~」
うへへへ、と魔女のような
笑い声が聞こえて来た。
しかも、呪いのような言葉まで聞こえる。
ヴィンセントはひたすら
困惑しっぱなしだし、
ジュと言えば、俺の肩の上で
まるくなっている。
怒らないから、
そろそろ現状把握してくれ。
俺は指先でジュの頭を撫でてから
ヴィンセントに動かないようにと
手で合図をして。
そっとリビングを覗き込んだ。
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