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高等部とイケメンハーレム

97:鬼畜な俺

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 王家の庭で俺は菓子を食べつつ、
何故か俺を絶賛するアキレスの
俺を褒め称える言葉を聞いていた。

何故こうなったんだろうか。

なんか、おかしい。

俺が遠い目をしながら
パウンドケーキパを食べていると
ようやくヴィンセントがやって来た。

立ったままお茶を飲んでいたアキレスは
すぐに俺から離れてヴィンセントに
礼をする。

「ヴィー兄様」

俺も立ち上がって
ヴィンセントを迎えた。

ヴィンセントの後ろには
エリオットと侍女がいて、
侍女は俺とアキレスが使った食器を
あっという間に片づけて
新しいお茶を淹れてくれた。

ヴィンセントたちが来たので
アキレスは俺たちから
少し離れた場所に移動する。

準備されたお茶のセットは3つだけだ。

俺とヴィンセントとエリオット。

まぁ、仕方ないか。

「待たせたな」
と言いつつ俺の髪を撫でる
ヴィンセントに俺は大丈夫、と言う。

「婚約発表をした途端、
ヴィンセントがこんなに甘く
変化するなんて想像もしてなかったよ」

とエリオットは言うが
ヴィンセントは
なに一つ変わってない。

首を傾げる俺の前で
ヴィンセントは軽くエリオットを
殴る真似をする。

「はいはい。
もう乱暴だな」

エリオットは笑って
俺の前に座った。

ヴィンセントは俺の隣に座る。

「イクス君が保護してくれた
あの王子様なんだけどね」

エリオットはお茶に手を付けることなく
言葉を続ける。

話を聞くと、第二王子は
かなりやらかしていた。

元々、あの王子は
年が近い妹をかなり
可愛がっていたらしい。

そんな可愛い妹が
いきなり別の国の公爵家に
嫁ぐことが決まったのだ。

第二王子はそこで考えた。

本当に可愛い妹が住むに
値する国なのか。

公爵家と言っても
嫁いでも不自由しない家なのか。

それを自ら探ることにしよう、と。

そこで自分の侍従や
乳兄弟たちを使って、
王子と言う身分を隠して
この国の学校に通うことにした。

もちろん、学校には俺がいるからだ。

幸い俺は同じ年だし、
やみくもにこの国に来て
公爵家のことを調べるよりも
俺と友人になり、
話を聞き出した方が良いと判断したらしい。

そして第二王子は身分を隠してやって来た。

ただし、学園に入学する際には
さすがに身元詐称はできないので
第二王子だということは伝えたが、
身元の保証人は乳兄弟の家にしてもらい、
この国の学校に通うことは
隣国の王家には内緒にしていたらしい。

………頭が痛い。

ツッコミどころが多すぎて、
再びあの王子に説教したくなる。

ただ、幸いなのは、
あの王子がこの国に来るだろうと
予測されていたことだった。

可愛がっている妹が
他国に嫁ぐから心配だと
普段からことあるごとに
言っていたらしい。

そして第二王子が姿を消した時、
隣国の王家は即座にこの国に
使者を送った。

万が一、第二王子が来たら
保護して欲しいという
申し出だったらしい。

なるほど。
全然隠れても無かったし、
家出にもなってなかったってことか。

それでな、とヴィンセントが
俺を見る。

「隣国の王家には使いを出したから
もう心配はない。

だがあの王子殿下の意向もあり、
隣国の王家が許すのであれば
このまま、学校に通うことになると思う」

「このまま?
それでいいの?」

黙って出て来たんだろ?
自国に戻って迷惑をかけた面々に謝罪したら?

俺がそう思ったことがわかったのだろう。
ヴィンセントが苦笑して
また俺の髪を撫でた。

「それがね。
どうやら隣国でも、
あの王子殿下の思考と行動力は
持て余し気味だったらしくてね」

エリオットがヴィンセントの
言葉を引き継いだ。

「もし本当にこの国に来たら、
あの王子を滞在させて
視野を広げることに協力して欲しいと、
隣国の王家からは前もって
頼まれていたらしいんだよ」

えーっ。
めちゃくちゃ迷惑だな。

自分の子どもぐらい
自分のところでなんとかしろよ。

「その上、イクス。
おまえ、あの王子殿下を
地面に這いつくばらせて
怒鳴り散らしたんだって?」

ヴィンセントの言葉に俺は目を剥く。

「そんなのしてないよ!
座らせたのは汚れないように
芝生の上だったし、
声だって荒げてないもん。

ちゃんと、理論的に
時系列で並べて、
あの王子の行動がどのような
結果になるのかを予測して
説明しただけだよ!」

這いつくばらせてって、
どんな鬼畜だよ!

俺が思わず立ち上がって言うと、
少し離れたアキレスが
祈るような姿で俺を見ているのが
目に入って来た。

やめろ。
前世妹みたいに俺を拝むのは。

俺の視線の先にアキレスが
いることに気が付いて、
ヴィンセントがアキレスに発言を許す。

するとアキレスは俺が馬車で
どれほど果敢に、理論で
あの第二王子をやりこめたのか。

あの王子殿下がどれほど泣いて
許しを請うても、新たな予想未来を
いくつも話して、王子の心をへし折ったのか。

手ぶり身振で、それこそ
俺がどれほど鬼畜な所業をしたのかを
嬉々とした様子で語り出した。

やめろ。
俺の好感度がダダ下がりだ。

ヴィンセントに嫌われたらどうしてくれる?!

「そうか。
イクスは可愛いだけでなく
頭の良いんだな」

ヴィンセントが優しく俺の頭を撫でた。

よし。
イクスバカなヴィンセントには
何故か良いエピソードとして
聞こえたらしい。

若干、アキレスの言葉で
顔が引きつっていたエリオットが、
ヴィンセントの言葉を聞いて
ものすごく、引いていた様子を見せたが。

「え、えっと。
それでな」

エリオットは椅子まで後ろに引き、
俺とヴィンセントから
距離を置いて口を開いた。

「そうやって、あの第二王子に
意見を言って、なおかつ
反省させることができたイクス君に
あの第二王子の世話役をお願いしたいって
陛下から言われたんだけど」

できる?
とエリオット絵に聞かれて
俺は、顔をしかめた。

絶対に、嫌。

という顔をしたことに
エリオットは気が付いたのだろう。

だがエリオットは
俺を宥めることはしなかった。

その代わりにヴィンセントに
顔を向ける。

「イクス君は嫌そうな顔だけど、
こういう時は、婚約者の出番だよね?」

なるほど。
ヴィンセントに俺を説得しろと
言っているのか。

「俺も嫌だ」

だが、ヴィンセントは俺を説得する気が無いらしい。

「いや、だからぁ」

エリオットは呆れたような顔をする。

「自分以外の人間が
イクス君のそばにいるのが
気に入らないのはわかるが、
一応、彼は王子様だから。

そして将来、君の義理の弟になるんだろ?

ちょっとは心を広く、歩み寄れよ」

その言葉は、俺にも響いた。

あの第二王子の周囲の迷惑を
顧みない行動にはむかついたが、
あの王子は俺の未来の義兄だ。

むしろ俺のそばで、
あの考え方を矯正していく方が
今後のためになるかもしれない。

「わかりました。
未来の義兄のためです。

は不問にすると
約束していただけるのなら
引き受けます」

俺の言葉の何がダメだったのか、
エリオットは、うん、そうだね。
聞いてみるよ。と
何故か乾いた言葉で小さく言った。




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