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章間<…if>
23:攫われる?
しおりを挟む私は両手いっぱいのプレゼントを持って
屋台の広場を後にした。
芸を見せてもらった私の方が
お礼をしないとダメなハズなのに、
何故か芸を披露してくれた人たちが
私にお礼を言って、
何かおまけをくれるのだ。
謎だったけれど、
それを追求できるほど
私はコミュニケーション能力が高くはない。
こういったとき、
すべて笑顔で受け入れた方が
人間関係は楽に進むことを
私は元の世界での経験から学んでいる。
丁寧に笑顔でお礼を言い、
私はすべてをありがたく
いただくことにした。
椅子を貸してくれたお兄さんは
私のプレゼントの山を見かねて
大きな布を貸してくれた。
私はそれを風呂敷のように使って
プレゼントを一つにまとめる。
屋台のお兄さんは明日もここに
いるというので、また明日、
この布を返しに来ると約束をした。
大通りに戻り、
宿に向かって歩いていると
「ユウ様」と名前を呼ばれる。
振り返ると、
馬車が一台止まっていて、
どう見ても、昨日、
クリスさんの屋敷にいた執事さんが
立っていた。
「お迎えに上がりました」
「迎え?」
「はい。我が主からユウ様を
お迎えに行くようにと」
カーティスに何かあったのかな。
でも、カーティスは
クリスさんのところには
来て欲しくなさそうな様子だったんだよね。
どうしよう。
執事さんについて行ってもいいのかな。
「カーティスが朝から
クリスさんのところに
行っていると思うのですが」
「はい。
カーティス様はすでに別の場所に
移動しております」
「え?移動?」
この街から出たの?
こんなとき、
携帯電話とかあれば
いいのに、って思ってしまう。
カーティスが私を置いて
どこかにいくわけがないから、
宿で待っていれば、
絶対に迎えに来てくれると思う。
そう執事さんに言ったけれど
「主からユウ様をお連れするようにと
命じられましたので」
と言うばかりだ。
カーティスとクリスさんは
まったく別で動いているのだろうか。
それともカーティスが迎えに
来れないから執事さんが
来てくれたのだろうか。
執事さんは、カーティスが私を
呼んでいるのか、それとも
クリスさんの判断なのか
そういったことはわからないらしい。
もしクリスさんが単独で
私を誘っているのであれば、
行くのをためらってしまう。
クリスさんは私を嫌っているようだったし、
私が行くことで、カーティスに
心配をかけると思う。
それに宿に戻って来たカーティスと
入れ違いになる可能性もあるし。
私は迷ったけれど、
荷物があるので、一度宿に
帰りたいと執事さんに言ってみた。
それでカーティスが戻ってきていたら
一緒にクリスさんのところに
行けばいいし、
会えなかったら、すれ違わないように
宿に伝言を残しておこう。
執事さんはうやうやしく
私を馬車に誘導し、
宿の部屋まで付いてきた。
荷物は執事さんが運んでくれた。
純粋な親切だとは思うけれど
元の世界では立派な大人だった私は、
「私が逃げ出さないようにしてるのでは?」
と内心、疑ってしまった。
状況はわからないけれど、
この街は…というか、
クリスさんは要注意だ。
何せ、女神ちゃんに敵意を
持っている人なのだから。
そんなことを考えているからか
クリスさんだけでなく
執事さんも、行動すべてが
怪しく見えてしまう。
元の世界では、
拒絶されることも、
理不尽な攻撃を受けることも。
存在を無視されることだって
普通に会った。
施設の子だからと
蔑まれたことだってある。
だから誰かの悪意には
慣れていたつもりだったけれど、
私はこの世界に来て、
随分と、愛されることに
慣れてしまったのだと思った。
だって、
ほんの少し敵意を感じる執事さんとの
やりとりだけで、
私はもう疲れている。
大人の対応ができず、
無表情で「主の命令です」としか
言わない執事さんが嫌になっている。
もう関わりたくないって思って、
私はこの世界に来てから、
クリスさんや執事さんから
初めて『敵意や悪意』をぶつけられたことに
気が付いた。
以前なら、こういうことがあっても
すべて笑顔を張り付けて
流していたのに。
私はため息を吐いて気を取り直した。
ウダウダ考えても仕方がない。
荷物をテーブルの上に置いてもらい、
私は宿の人に、迎えの人が馬車で
来てくれたので行ってくる、
カーティスが帰ってきたら
その旨を伝えて欲しいとお願いした。
クリスさんの名前は
出さなかったけど、
この街で私に馬車の迎えを
出すような人はクリスさんしかいない。
私は執事さんに言われるがまま
また馬車に乗った。
御者はちゃんといたので
執事さんと一緒に馬車に乗る。
向かい合わせに座ったけれど、
執事さんは黙って
私と目線を合わさないように
しているみたいだった。
馬車はクリスさんの屋敷に
向かっていると思っていたけど、
窓を見ていると、そうではなさそうだ。
大通りを抜け、細い道を馬車は走っている。
ほんの少し、不安になる。
もし何かあったら、
私の『器』にある力を
すべて使ってでも、逃げだそう。
なんたって、巨大な魔獣さえ
私は倒したことがあるのだ。
そう思えば大丈夫。
……たぶん。
私の力が人間にも通用すれば、だが。
だんだん日が暮れ、
馬車が走る道には木々が溢れだした。
雑木林……森?
こんなところに何があるんだろうと
不安になってきた。
もしかして、よくある小説みたいに
人気のないところで
いきなり殺されるとか…ないよね?
不安になってきて、
窓の外をもう一度見ようとしたとき
馬車が止まった。
馬車のドアがノックされ
御者がドアを開けてくれる。
先に執事さんが馬車を下り、
その後、私も下りた。
目の前には、古びた屋敷があった。
「どうぞ、こちらに」
執事さんに言われ、
屋敷へと入る。
屋敷は古びていたし、
庭も玄関から見る限り
あまり手入れはされていない様子だった。
屋敷の中はあかりが灯り
それなりに明るかったけれど、
どことなく、暗い感じがした。
空気が重いと言えばいいのか、
息苦しさも感じる。
屋敷は玄関に入って目の前に
大きな階段があった。
けれど、階段の手すりには
埃が着いているが見える。
階段の横を通り、
案内された部屋は
大きな応接室のような部屋だった。
大きなソファーとテーブル。
あと、飾り棚があって、それを見ると
高級そうなお酒の瓶が並んでいる。
飾り棚の横には、中世の鎧みたいなのが置いてあって、
壁には大きな額縁の絵が飾られていた。
よくわかんないけど、
元の世界の成金趣味と言われる家って
こんな家かも、って思った。
執事さんに言われソファーに座る。
少ししたら執事さんがお茶を持って来てくれた。
飲んでも大丈夫だよね?
毒じゃなよね?
って思っていたら、
部屋にクリスさんが入って来た。
立ち上がって挨拶をしようとしたら
気にしなくていい、と
手で合図される。
クリスさんは私の前に座ると
すぐに執事さんがクリスさんの前にも
お茶を置いた。
別に怪んでるわけじゃないけど、
なんとなくクリスさんがお茶を飲むのを
見てから、自分のお茶を飲んでしまった。
「……警戒しているようだね」
と、クリスさんが言う。
そうです、と
言いたいけど、言えない。
でも違います、とも言えなくて。
曖昧に笑って見せると、
クリスさんは、少しだけ微笑した。
「いきなり君を殺したりはしない、
そこは安心してくれていい」
「……そうですか、良かった」
うん。良かった。
「私が…君に良い感情を持っていないことは
もう気が付いているようだね。
私の過去は?」
「昨夜、カーティスから聞きました。
そのカーティスは、朝からあなたの所に
行っている筈なのですが」
「ああ。来たよ。
それでね、少しお願いごとをしたんだ。
戻ってくるのに時間がかかるだろうから
それまで君には私に付き合ってもらおうと思ってね」
クリスさんは、お茶を飲むと、
ふーっと息を吐いた。
深くソファーに座り、
私を見つめてくる。
「さて。
女神の愛し子さん?
君とは、腹を割って話がしたい。
もちろん、君を殺したいわけではない。
私は君も、被害者だと思っているからね」
被害者…?
「えっと…」
何を言えばいいかわからない。
というか、クリスさんが
何を言っているのかわからない。
「答えられない?
大丈夫、人払いはしているし、
ここでの会話は誰にも知られない。
正直に話してくれればいい」
「正直に?」
……何を?
首を傾げる私に、クリスさんは
なるほど、口が固いようだね。
なんて言う。
いやいや、口なんか固くないです。
でも何を言えばいいのか
ホントにわかんないんですーっ。
って素直に口から言える人間なら、
元の世界で友達も作れたし、
もっと人間関係を楽しく構築できたと思う。
口ごもる私に、
クリスさんは笑顔を消すと
「私は誤魔化しやウソは嫌いだからね」
なんて言う。
誤魔化しもなにも、
ウソなんてついてないし、
そもそも、何の話をしてるのかさえ
わからない。
ここで「何の話ですか?」って
聞いたら「とぼけるな」とか
言われるパターンかな?
でも、今、それ以外に
言える言葉はないんだよね、私。
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