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章間<…if>
22:不穏
しおりを挟む散々、カーティスに抱かれた翌日。
私はベットから起きることができずにいた。
カーティスは朝からクリスさんのところに
行くと出かけている。
一応、大通りだけなら
外出してもいいと言われているし、
買い物ができるようにと、
お金も渡された。
けれど、遊びに行きたいと
言う気持ちにはなれない。
身体が辛いというわけではない。
ただ…
物凄く恥ずかしくて、
精神的なダメージが半端ないのだ。
明け方までカーティスに抱かれた。
正直、眠いのもあるけれど、
目が覚めたら、カーティスの腕の中で
私は手に張型を握っていたのだ。
……叫ばなかった私を褒めて欲しい。
もちろん、それで何をしたかも覚えているし、
恥ずかしくてカーティスの顔も見れない。
カーティスはそんな私も可愛いと
笑ってくれたけど、
こういうのは、可愛いとは言わない。
ふしだらとか、ヴァレリアン風に言うと
エロいとか。
とにかく、成人向けの言葉になるはずだ。
語彙が無いので、
どう言えばいいのかわからないけど。
私はカーティスが出かけてから
しばらくの間ベットに潜って
一人で身もだえていたけれど、
いつまでもこうしているわけにはいかない。
部屋には一人なわけだし、
頑張って起きよう。
私はベットから起き上がり
湯を浴びることにした。
身体がベトつくようなことは
無いけれど、気分的に
お風呂に入りたい。
私はゆっくり湯を堪能し、
身体も髪も洗って
昼ごろまでのんびりと過ごした。
この世界にはドライヤーは
無いので、髪が渇くまでは
適当に放置だ。
私は元の世界でも、ドライヤーは
使ったことが無かった。
そもそも、
電気代がもったいないから
ドライヤーなんて持っていなかったのだ。
髪が渇くのを待って、
私は服を着替える。
簡素な旅人用の服だ。
上から大きめのフードをかぶり、
カーティスがテーブルに
置いておいてくれた
財布をポケットに入れる。
鞄は持たない。
何かあった時、私は武器が使えないし、
両手が使える方が良いと思うからだ。
私はこの世界では
自分で買い物をしたことが無いし、
一人で街に出るのも初めてだ。
そう考えると、
わくわくしてくる。
ちゃんとお金を払ったりできるだろうか。
物価とか、相場とか。
そういうのもまったくわからないんだよね。
宿を出て、私はまずは
お昼ごはんを食べることにした。
どのお店にしようかな。
やっぱり屋台がいいかな。
でも、昨日みたいに
お肉が固かったりすると
一人では食べることができないので
無難なものがいいよね。
あまり宿から離れない方がいいだろう。
と、うろうろしてみたけれど。
私はどのお店にも入れなかった。
だって、今まで一人で飲食店に
入ったことなどないのだもの。
緊張するし、なんか恥ずかしい。
この世界では「ぼっち」という
概念はないし、一人で食事をすることが
恥ずかしいことではないと、
一応は理解している。
でも、無理だ。
一人でお店に入って
しかもご飯を食べるなんて
できそうにない。
こうなったら屋台か?
屋台しかないか?
昨日カーティスと一緒に来た
大通りに面した広場に来た。
屋台が沢山でている。
広場には沢山の人たちが
思い思いに屋台で購入したものを
食べていた。
ベンチに座る人、歩きながら食べる人。
一人の人も沢山いる。
私はほっとして、屋台を端から見て回った。
柔らかそうな素材で、
私が食べれそうなもの。
ふと、視線を感じて振り返ると、
昨日、私に指人形劇を披露してくれた
お兄さんがいた。
しかも、屋台で食べ物を売っている。
私が近づくと、お兄さんは
「いらっしゃい」と笑顔で声を掛けてくれた。
どうやら、ケバブサンド…みたいなのを
売っているようだ。
これなら食べれるかな?
「1つ下さい」
「あいよ!
昨日、俺の芸を喜んで見てくれたから
おまけしとくよ」
ってお兄さんはケバブサンドと
何かのお肉を焼いたものを
手渡してくれた。
固いお肉だったらどうしよう、
と思ったけれど、せっかくなので
ありがたくいただいてしまう。
「今日も昼時が終わったら
練習するんだけど、
見てくれるかい?」
ってお兄さんに聞かれて、
私は頷いた。
「えっと、でも…」
私は周囲を見回した。
この屋台の屋根は大きく、
少し下がると影で
日差しを遮ることができそうだ。
「この後ろで、
食べさせてもらってもいいですか?」
「あぁ、いいぜ。
そうだ。この椅子を使ってくれ」
お兄さんは自分の休憩用の椅子だと言って
茶色く古びた木の椅子を出してくれた。
「ありがとうございます」
私は椅子に座る。
お兄さんはとってもいい人で、
食べるのに必要だろうと、
果実水までおごってくれた。
嬉しくて、一生懸命食べたけど、
やっぱりお肉が、固い。
「ははは。
ぼーずの小さな口じゃ、
食べにくいか」
お兄さんは、そんな私を見て笑う。
ぼーず、だって。
そうだよね。
女神の愛し子とか言われたり
私のことを好きだと言って
甘やかしてくれるホゴシャーズが
いなかったら、
私はただの子どもで
『ぼーず』と呼ばれるような存在なんだ。
いいな、そういうの。
お兄さんは、私が持っていた肉を
小さく切ってくれた。
「ほら。気を付けて食いな」
「ありがとうございます」
ちょっと固いけど、
甘辛くて、美味しい。
ケバブサンドのお肉は薄く切ってあって
野菜とお肉でボリューム満点だった。
ただ、パンがやっぱり固くて…
強いて言えば、
フランスパンみたいな感じだった。
すぐにお腹がいっぱいになりそう。
もぎゅもぎゅと食べていると、
あっという間に時間が経ってしまい、
私が食べ終わる頃には
屋台も店じまいの時間になっていた。
「ぼーずは丁寧に食うなぁ」
お兄さんは呆れたように言う。
時間がかかり過ぎたか。
でも、固いんだもん。
屋台は一旦閉めて、
また夕方から再開するらしい。
今から見てくれるか?と聞かれたので
私は果実水を飲みながら
お兄さんの指人形劇を見せてもらった。
昨日の題材は女神ちゃんの話…だと思う。
女神ちゃんが神々しい、慈愛にあふれる
神様として描かれていたので、
そんなわけない、とツッコミどころが満載で
物凄く面白かった。
今日見せて貰ったのは
元の世界で言う漫才みたいな感じだった。
指人形を使っているから
コントになるのかな?
この世界の基本的なことが
わかっていないので、
題材的に理解して笑うところと、
そうじゃないけれど
笑ってしまうところに分かれてしまった。
……って、結局は
笑っているんだけど。
お兄さんは芸達者で、指人形で笑うと
言うよりも、お兄さんの表情や仕草が大げさで
表現力があると言えばいいのだろうか。
とにかくつい、笑ってしまう。
あと単純なギャグのようなものも
間に挟まるので、なんかわからないけど
笑ってしまう。
最後はなんで笑ってるのか
わからなくなるほど笑って、
とうとう椅子から落ちてしまった。
そのことが、おかしくて、
また笑う。
「いやー、
そんなに喜んでもらえたら
自信が出るな」
なんてお兄さんは
照れたように頬を指で掻く。
「面白かったですよ」
もう、めちゃくちゃ。
私は息を整えながら言うと、
あの、と横から声を掛けられた。
「良かったら…わしのも見てもらいたんじゃが…」
年配のおじさんに声を掛けられ
私は頷いた。
お兄さんの好意で椅子を借りたまま
おじさんの芸を見せてもらう。
おじさんの芸もすごかった。
一輪車に乗りながら
ジャグリング…と言えばいいのか、
とにかく、りんごとナイフを
くるくると回しながらいつの間にか
リンゴの皮をむき、
なんと!一輪車に乗ったまま
その皮をむいたリンゴをかじったのだ。
私は大はしゃぎだった。
すると、あちこちから人が集まってきて
「見て欲しい」と言われてしまう。
私はすることもなかったので、
そのままいろんな芸を見せてもらった。
楽しくて仕方がない。
どこが良かった?とか
どこがおもしろかった?
なんて聞かれたので、
思ったことをそのまま伝える。
お世辞なんか考えなくても
全部楽しいし、面白いし、
この街に来るまで、
こんなにも、はしゃいだことは一度もない。
皆にそう言うと、
ものすごく喜んでもらえた。
みんなの笑顔が嬉しくなる。
が。
ふと『器』から力が抜ける気がした。
けれど<闇>の魔素があるわけでもなく
魔獣や魔物の気配もない。
気のせいだろうか。
違和感はなかったけれど、
なんだろう。
私は嫌な予感がした。
こういう予感って、当たるんだよね。
早めに宿に戻って
カーティスを待った方がいいかな。
私はそんなことを考えながら、
何故か、集まってくれた人たちから
「お礼」と称したお菓子や
おもちゃや食べ物を両手いっぱい貰っていた。
……何故?
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