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世界の崩壊
82:女神と愛し子【2】
しおりを挟む私は女神ちゃんが落ち着くのを待って、
その小さな体を抱き上げた。
私がヴァレリアンたちにしてもらっていたように。
抱き上げて、クルっと回った。
『おぉ!』
って女神ちゃんが嬉しそうな声を出した。
『すごいぞ!
悠子、もっとやってくれ』
きゃっきゃと喜ぶ女神ちゃんの体を
くるくる回して、
私は真っ白い床に座った。
この世界は、床も壁も白い。
床に座った後は、
私は女神ちゃんの体を膝に座らせる。
「楽しいでしょう?」
って聞くと、
女神ちゃんは嬉しそうな顔をした。
「ねぇ、女神ちゃん。
私もね、元の世界では
こんなこと、してもらったことないのよ」
私は、ゆっくりと
女神ちゃんに言葉を紡ぐ。
「私は…女神ちゃんの世界に来て、
色んな<愛>を知ることができたの。
私は<愛>なんて…知らなかったから、
最初は女神ちゃんの言ってることが
骨董無形に感じたんだけどね」
なんて笑って見せて。
女神ちゃんの髪を撫でた。
「でもね。
最初に会った金聖騎士団の皆は…
とっても優しかったのよ?」
私は、彼らの話をする。
「団長のヴァレリアンはね、
恰好良くて、皆に指示出すところは
貫禄もあるし、お父さんみたいだ、って
最初に思ったの。
ほら、私には家族がいないから、
お父さんとか、お母さんとか
そういうのに憧れてたし。
それにね。
最初に私と会って
目線をあわせてくれたのも
ヴァレリアンだった。
抱っこしてくれたり、
肩車をしてくれたり。
さっきやったみたいに、
抱っこして、くるくる回ってくれたの。
言葉が通じないときから、
ずっと守ってくれてたのよ」
うん。
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「カーティスはね。
お母さんだって、思った。
だってね、ものすごく過保護なの。
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手を繋いだり、お風呂も…
抱っこもそうだったけど、
お膝に乗せてくれたり。
すっごく優しくて、
すぐに大好きになっちゃったの」
あとで王子さまって聞いて、
ビックリしたもんね。
「スタンリーはね。
とっても怖い顔で、眼鏡をかけてるし、
言葉もきつい感じだったけど…
でもね、眼鏡の奥にはとっても
優しい光があるの。
私に言葉を教えてくれた時も
間違っても、わからなくても
一生懸命、丁寧に教えてくれたの。
最初はね、お兄さんってこんな感じかな、
って思ったのよ。
あとね、きつい言葉を言ってしまった時、
物凄い後悔したような瞳になるの。
それにね、私が嫌な顔をしたら、
戸惑うような、困ったような瞳になるのよ。
でも顔は…表情はあまり変わらなくて、
目の奥だけが、物凄く表情豊かで笑ちゃう。
そんなところがね、可愛いの」
スタンリーに、可愛い、なんて言ったら
どうなるかわからないけどね。
「あとね、ほんとのお兄ちゃんが
できたんだよ。バーナードお兄ちゃん。
バーナードはね。
優しいし、甘えさせてくれるけど、
沢山のことを教えてくれる。
抱っこもしてくれるし、
お膝にも乗せてくれる。
でも、間違ったことをしたら
きちんと、なんでダメなのか、
教えてくれるの。
怒ったり叱ったりしなくて、
私がちゃんと、何故ダメなのか
理解するまで、教えてくれる。
言いたくないことを無理には聞いてこないけど、
話したら…最後まで、ちゃんと聞いてくれるの。
良いとか悪いとかじゃなくて。
私がどうしたいのかを、
ちゃんと考えることができるように
手助けしてくれるのよ」
すごいでしょ?
施設でバーナードみたいな
お兄ちゃんがいたら、
私は絶対、寂しいとか思わなかったと
断言できる。
「あとね、エルヴィンはね、
可愛いの。子犬みたい。
いつも一緒にいるケインも
子犬なの。
でも、エルヴィンは可愛い子犬だけど
ケインは…自分を律することを学んだ子犬…かな。
二人とも可愛いし、
ずーっと抱きしめて、頭を撫でたいぐらいなの。
でもね。
でも…二人とも、聖騎士なの。
可愛いと思ってたのは私だけで、
二人とも凄く強くて…。
魔獣に襲われた村を
命がけで守ったんだよ?
たった二人なのに、逃げなかったの。
自分たちが逃げたら、
村の人たちが全滅するから。
命を懸けて、守ったんだよ。
凄いと思わない?」
私は…女神ちゃんの頭を
撫でながら、皆の良いところを
沢山、しゃべった。
「女神ちゃんの<試練>で生まれた
あの大きな魔獣もね。
あれは私の力でないと
倒せないって、まだ知らないときだったけど。
あれと対峙したとき、
私は、絶対に死ぬって思った。
たぶん、皆もそう思ったと思う。
でも、金聖騎士団の皆はね、
逃げなかったの。
全員…私を助けるためだけに
動いてくれたのよ。
死ぬかもしれないのに。
それは私が『女神の愛し子』だからじゃなくて、
私のことを『仲間』だって思ってくれてたから。
大事な存在だって、思ってくれてたからなの。
これも、すごいよね?」
私は女神ちゃんの顔を覗き込んだ。
「ねぇ、女神ちゃん。
以前、言ったよね?
女神ちゃんは世界を創ったかも
しれないけれど、女神ちゃんが
創った世界は生きてるんだって。
女神ちゃんから手が離れたら、
多くの生きているものが、
それぞれの意志で動き始めるの。
もちろん、人間たちも。
女神ちゃんにとっては
この世界はただの箱庭かもしれない。
でも、この世界で生きている人たちは
感情を持って生きてるの。
女神ちゃんの思う通りにはいかないものよ」
私は笑って、女神ちゃんの
頬を両手で包んだ。
「私はね、女神ちゃんの世界、
好きよ。だって私に<愛>を
教えてくれたもの。
もちろん、女神ちゃんも大好き。
女神ちゃんがこの世界に
連れてきてくれなかったら、
私はずっと寂しい人生だった。
だから……
ずっとお礼を言いたかったの。
この世界を創ってくれて
ありがとう、って」
女神ちゃんがの目に、
また涙が浮かんだ。
「わしは……世界を創って
良かったのか?
わしが人間たちを創ったのは
間違いじゃなかったのか?」
「当たり前よ。
女神ちゃんが人間たちを…
皆を創ってくれたから
今私は、幸せなんだから」
そう告げると、
女神ちゃんの目から
またぼたぼたと涙が落ちた。
「教えてよ、女神ちゃん。
まだ…あるんでしょ?
世界を救う方法が。
<闇の魔素>の増幅が早いのは
確かに…困ることだけど。
でもきっと、大丈夫だよ。
ヴァレリアンたちが何とかしてくれる。
だから今は、世界に充満している
<闇の魔素>と魔獣たちを
どうにかしよう?
私も手伝うから。
一緒に、もう少しだけ、頑張ろう?
もし、どうしても無理だったら…
何ができるか、一緒に考えよう。
この世界の崩壊を止めるために。
何でも話をして?
一緒に考えたら、きっとうまくいくから。
どうしても私と女神ちゃんだけで
無理だったら、皆にも聞いてみようよ。
沢山の人の意見を聞いたら、
無理だって思っていたことでも、
できるようになるかもしれない。
一人で考えるより、
沢山の人と一緒に考えて、
助け合ったら、なんだってできるようになるの。
人間は…そうやって、
いつも助けあって生きてるんだよ。
ね?
女神ちゃんも…一緒に頑張ろう?
私の【器】の<愛>だけじゃ
やっぱり足りない?」
女神ちゃんは首を振った。
『そなたの身体には…
かなり負担をかけることになる。
そなたは【器】じゃから…』
「いいわよ。大丈夫。
それに…私にはもう帰る場所はないし
身体も命も、好きに使って?
それでみんなの世界が守れるなら
安い物よ」
『いいのか?』
「もちろん。
だって私は…私を大好きって
言ってくれた人たちを守りたいし、
私が大好きな人たちの幸せを
守りたいと思うもの」
私は笑った。
本心だ。
元の世界で勇くんが幸せなら、
私はもう、あの世界にはもどらない。
そして…
みんなを守れるなら。
みんなが幸せになるなら、
それでいい、って思う。
私がみんなのところに戻れなくても。
『わかった。
ならば……そなたの【器】を
そなたが得た<愛>を、
すべて使わせてもらうぞ!』
女神ちゃんが私の膝から立ち上がった。
そして片手を高々と上げ…
瞬間、まぶしいほどの光が
真っ白い世界に満ちた。
私は…まぶしさに目を閉じて。
………そのまま
意識を失ってしまった。
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