神様ゲーム ~殺すのは貴方です~

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第5話 第一回戦・2

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「プロフィール当て……ゲーム……?」
 
 慧一は、ごくりと息をのむ。
 ゲームの名前をそのまま受け取るのであれば、提示されるプロフィールが誰のものかを当てるゲームと予想できる。
 問題は、誰のプロフィールを当てるかだ。
 同級生のプロフィールと、歴史上の人物のプロフィールを当てるのでは、求められる知識が違いすぎる。
 
「いえーっす! じゃあ、ルール説明をするよー!」
 
 すかい君は慧一を指差して、バチンとウインクをした。
 
「今から男子の皆に、女子のプロフィールが書かれた二十枚の紙を配ります! 紙にはプロフィールが三つ書かれているので、三つを読んで、紙に書かれているプロフィールが誰のものか、男子の皆には答えてもらいます! そしてー、正解した男子と、正解したプロフィールの女子は、ゲームクリア! 先着十組が、見事生還となりまーす! 制限時間は一時間!」
 
 すかい君は、京平が決めたルールをすらすらと話していく。
 京平からすれば、何度も考えて決めた、聞き飽きたルール。
 しかし、他の生徒たちにとっては、初めて聞くルール。
 当然、神が抱いた疑問を、人間も抱く。
 
「ちょっ!? それじゃあ、私たちは男子が選んでくれるのを待つしかないってこと!?」
 
 まして、当事者ではない神と違い、当事者である生徒たちにとっては文字通り死活問題。
 大山愛が立ち上がり、抗議の声を上げる。
 女子にとっては、ただただ自分の命を、ただただ同じクラスにいるだけの男子に預けろと言う事なのだから。
 
「はいっ! そうですよ?」
 
 が、すかい君は、何一つ気にしていない笑顔で頷いた。
 すかい君にとっては、誰がどう死ぬかなどどうでもいい。
 すかい君は、ただの司会。
 神が創った、人間の感情を持たないマスコット。
 
「……っ!?」
 
 すかい君のそんな態度を見て、何を言ったところでルールは変えられないと察した愛は、悔しそうな表情で席に着く。
 
「はい! では、デモンストレーションをしてみましょう!」
 
 すかい君がパチンと指を鳴らすと、四十人全員の机の前に一枚の紙が現れた。
 ある生徒は手に取り、ある生徒は恐る恐る覗き込む。
 神には四行の言葉が書かれている。
 
 一.年齢『ゼロ歳』
 二.特技『デスゲームの司会進行』
 三.犬派か猫派か『犬派』
 名前(    )
 
「はーい! 男子の皆は、一、二、三のプロフィールを見て、誰のプロフィールかわかったら、名前のところに名前を書いてくださいねー! 当たってたら、ゲームクリアとなります! ちなみに、このプロフィールはすかい君のものです! 犬派なんですねー! 可愛いですねー!」
 
 誰も、すかい君の言葉に相槌を打つ者などいなかった。
 ただ、こんな紙切れ一枚で己の死が左右されてしまうと思えば、言葉を発する余裕がなかった。
 心境は、人それぞれ。
 この程度ならクリアできるかもしれないと考える者に、女子のプロフィールなんてわからないと考える者。
 
「ちなみに、名前を間違えた場合は、どうなるんだ?」
 
 慧一が挙手して、質問する。
 誰もが知りたく、しかし答えを聞くのが恐ろしく、口にできなかった質問。
 すかい君は、慧一の席の前にとことこと移動し、顔を近づけた。
 
「もちろん死ぬよ」
 
 笑顔で発せられたすかい君の言葉は、慧一にとって想像通りで、残酷な言葉だった。
 
「だろうな」
 
 慧一は汗を一滴流し、ぎこちなく微笑んで見せる。
 精いっぱいの強がりだ。
 
「あ、そうそう! 男子はプロフィールの紙を女子に見せるのは禁止ですからね? カンニングなんてつまんないですし! 女子も、言葉を発しちゃ駄目ですからね? カンニングなんてつまんないですし! 皆、正々堂々と戦いましょう!」
 
 すかい君は教室の中央でくるくると踊った後、教卓へと戻った。
 
「……頼むよ男子」
 
 女子にできるのは、祈ることだけ。
 男子にできるのは、書くことだけ。
 すかい君は教卓の上から、手をパンと叩いた。
 
「はい! それでは、ルール説明も終わったので、さっそくゲームを始めましょう!」
 
 椅子から青いベルトが伸びで、生徒たちが椅子に固定される。
 女子は、背もたれから青い手拭いも伸びて、口を塞がれる。
 そして、二十人の男子の机に、鉛筆がコトンと落ちる。
 消しゴムはない。
 否、間違えたら死ぬだけなので、消しゴムはいらない。
 
 さらに、二十人の男子の机に、二十枚の紙がどさりと落ちる。
 
「では、次のすかい君の合図で、紙を裏返して解答を始めてください! フライングは駄目ですよ?」
 
 男子たちが鉛筆を手に持つ。
 手に滲む汗が、鉛筆をしっとりと濡らす。
 次の瞬間には、デスゲームが始まってしまうのだ。
 誰も冷静ではいられない。
 
 唯一冷静だったのは、ルールを知っていた京平ただ一人。
 俺ならできると、鉛筆を力強く握る。
 
 他の男子は皆、一枚目を見て、誰のプロフィールか考えることから始まる。
 が、京平だけは、二十枚のプロフィールに目を通し、萌音のプロフィールを探すことから始まる。
 萌音の名前を書くということに焦点を当てれば、他の男子たちよりもはるかに有利である。
 さらに言えば、一枚目が萌音のプロフィールであったとしても、京平は誰よりも早く萌音のプロフィールだと見抜く自信があった。
 誰よりも早く、書ける自信があった。
 
 萌音だけは絶対に助けるという決意が、京平の神経を研ぎ澄ませた。
 
 京平がちらりと顔を上げると、口を塞がれた萌音と目が合った。
 助けてと、萌音の表情は物語っていた。
 任せろと、京平は目で合図した。
 
 生きる。
 生きる。
 生きる。
 教室の中は、一つの感情が渦巻いていた。
 
「それではいきますねー! よーい……始めっ!」
 
 すかい君の合図とともに、二十人の男子たちは、一斉に紙を裏返した。
 
 一枚目。
 
 
 
 
 
 
 一.名前『西月萌音』
 二.特技『編み物』
 三.将来の夢『保育士』
 名前(    )
 
 
 
 
 
 
「…………は?」
 
 京平は、固まった。
 プロフィールを見て名前を当てるゲームにおいて、プロフィールの項目に名前が存在するなど、思いもよらなかったからだ。
 ルールを知っているからこそ、目の前のゲーム内容と京平の頭の中にあったゲーム内容のすり合わせに時間がかかった。
 
 敗因は、ルールを知っていたこと。
 
「ぶひいいいっ!」
 
 では、勝因は何かというと、無知であったことだ。
 自分は女子と話さないから誰のプロフィールもわからないという劣等感が、プロフィールの一番目を名前の欄に書けばゲームクリアできるという事実を見て、考えるよりも先に手を動かさせたこと。
 
「しまった!?」
 
 一瞬遅れて京平が鉛筆を紙の上に走らせても、もう遅い。
 たった四文字の漢字を書く速度に、個人差はほとんどない。
 であれば、勝敗を分けるのは、誰が一番最初に書き始めたかでしかない。
 
「正解。豚山茂雄、西月萌音。ゲームクリア」
 
 豚山茂雄を拘束していたベルトがはずれる。
 萌音を拘束していたベルトと手ぬぐいがはずれる。
 茂雄は鉛筆を落として立ち上がり、ボロボロと泣きながら、天井に向かって思いっきり叫んだ。
 
「……勝った! 生き残ったああああああ!! ぶひいいいいい!!」
 
 茂雄の机に置かれていた二十枚の紙と、他の十九人の机に置かれていた萌音のプロフィールが書かれた紙が発火し、一秒後に焼失した。
 周囲の紙にも机にも、焦げ跡一つ残していない。
 ゲームクリアした人間のプロフィールが書かれた紙はなくなるのだと、全員が理解した。
 
 ――で、ルールは本当にこれでいいんだな?
 
 京平の頭の中に、ルールを決めた時の神の言葉が思い出される。
 神の言葉に『プロフィールの項目に条件がないが、項目に名前が出てもいいんだな?』という意味が含まれていたのだと、京平は今さらに気づいた。
 
 気付いたところで手遅れ。
 ゲームは、始まってしまったのだ。
 
 京平の脳が警報を鳴らす。
 京平は、ルールを考えたというアドバンテージを失った。
 萌音の事なら誰よりも詳しいというアドバンテージを失った。
 
 現時点で、萌音を生かすという、京平の望みの一つは叶った。
 現時点で、京平が生きるという、京平の望みはまだ叶っていない。
 
 なお、京平が死ねば東京都の高校生は全滅する。
 萌音は死ぬ。
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