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プロローグ
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勇者の研ぎ澄まされた斬撃は、敵の腹部に命中した。徐々に顔を見せ始めた朝焼けに反射した伝説の剣は、まるで雷光のように閃く。
「うぐっ!」とかぼちゃ頭の小人は声を漏らす。致命的な一撃を受けたかぼちゃは痛みに耐えきれず、胃袋から昇ってきた血反吐をぶちまけ、その場に頽頽れた。
「なぁ、もう終わりか?」
ガチャガチャと鎧の重苦しい音を響かせ、銀髪の少年はかぼちゃ頭の許へと歩み寄る。
「早く立てよ。歯応えのない」
騎士然とした佇まいの少年は、地に突っ伏す小さきモノを見下ろした。その瞳には侮蔑だけではなく、忌避、嫌悪、憎悪などの負の感情を滲ませている。
最後のダンジョンの最後の敵。こいつを倒せば世界の平和は取り戻せる。しかし――
「聞いて呆れるぜ。ラスボスの強さはこんなもんじゃないだろ? これじゃそこらにいるスライムの方が幾分かマシだ」
勇者が見え透いた煽りをするも、かぼちゃ頭は肩で息をしながらじっと見つめてくるだけだった。
勇者は憤懣やるかたない気持ちでいっぱいだった。
あれだけ苦労して敵を倒し、着々とレベリングしたにもかかわらず、〆の相手がインド独立の父よろしく非暴力の姿勢を貫き、されるがままに攻撃を受け続けるのだ。
何故何もしないのか。何故無抵抗なうえに、恨み辛みも吐かないのか。
勇者には、このモノの考えが理解できない。
「そろそろ終わりにしろよ、いい子ちゃんぶんのはさ。それともなんだ? あいつらがお前を助けてくれるのを信じて何もしないのか? 無理だな。俺様の結界は誰も破れやしないさ」
銀髪の強者は、自分とラスボスを囲う赤黒い半円ドームの外を見やる。
ドームの外では、鈍色の機械でできた二足歩行の鳥と、愁いを帯びた壮年の男が、魔法や銃撃で必死にドームを壊そうと試みている。だが、彼らの徒労は空しく、結界はビクともしない。
「ゲホッ……! そ、そんなんじゃ……ない」
異形頭の初めての言葉の抵抗に、勇者は目を見開く。そして、かぼちゃ頭は口許から流れ出る赤い滴を拭い、ニコリと微笑んだ。
「おれはただ――君と、友達になりたい。それだけだ」
異形頭は命乞いをするわけでもなく、ただハッキリとそう言った。
意表を突いた答えに、勇者は一瞬理解できず固まってしまう。やがて脳の処理が追い付くと、腹の底から笑いが込み上げてきた。
「……くっ、くくくく……あっはっはっはははははははは!!! この期に及んでそれかよ! あっはっははははははははははは!!!」
銀髪の少年は涙が出るほどに嘲笑を浴びせた。
馬鹿だ。こいつは生粋の大馬鹿野郎だ。世界の為という大義名分で自分を殺しにかかってきた奴に対しても、友人になりたいとほざくのだから。
「はぁ~あ……くっだらねぇな、最後の最後まで」
先程まで笑っていた勇者の顔は、スンッと能面顔に戻る。
「まさか、お前みたいなのが俺の半身、残念だよ本当に……」
幕引きだと言わんばかりに、勇者は右手に持つ伝説の剣を、ゆらりと上に掲げた。
数秒後には首と胴が泣き別れる――そんな状況になっても、かぼちゃ頭の小人は口角を上げ、透き通った瞳で勇者を見つめてくる。
ラスボスの変わらぬ無垢な姿に、救世主は小さく舌打ちをした。
「――じゃあな、兄弟」
刹那、勇者は無感情に剣を振り下ろした。
獰猛な肉食獣を連想させる歪んだ口角と、底なし沼が如く暗く濁りきった瞳は、『世界を救う者』とは思えぬほどに禍々しかった。
「うぐっ!」とかぼちゃ頭の小人は声を漏らす。致命的な一撃を受けたかぼちゃは痛みに耐えきれず、胃袋から昇ってきた血反吐をぶちまけ、その場に頽頽れた。
「なぁ、もう終わりか?」
ガチャガチャと鎧の重苦しい音を響かせ、銀髪の少年はかぼちゃ頭の許へと歩み寄る。
「早く立てよ。歯応えのない」
騎士然とした佇まいの少年は、地に突っ伏す小さきモノを見下ろした。その瞳には侮蔑だけではなく、忌避、嫌悪、憎悪などの負の感情を滲ませている。
最後のダンジョンの最後の敵。こいつを倒せば世界の平和は取り戻せる。しかし――
「聞いて呆れるぜ。ラスボスの強さはこんなもんじゃないだろ? これじゃそこらにいるスライムの方が幾分かマシだ」
勇者が見え透いた煽りをするも、かぼちゃ頭は肩で息をしながらじっと見つめてくるだけだった。
勇者は憤懣やるかたない気持ちでいっぱいだった。
あれだけ苦労して敵を倒し、着々とレベリングしたにもかかわらず、〆の相手がインド独立の父よろしく非暴力の姿勢を貫き、されるがままに攻撃を受け続けるのだ。
何故何もしないのか。何故無抵抗なうえに、恨み辛みも吐かないのか。
勇者には、このモノの考えが理解できない。
「そろそろ終わりにしろよ、いい子ちゃんぶんのはさ。それともなんだ? あいつらがお前を助けてくれるのを信じて何もしないのか? 無理だな。俺様の結界は誰も破れやしないさ」
銀髪の強者は、自分とラスボスを囲う赤黒い半円ドームの外を見やる。
ドームの外では、鈍色の機械でできた二足歩行の鳥と、愁いを帯びた壮年の男が、魔法や銃撃で必死にドームを壊そうと試みている。だが、彼らの徒労は空しく、結界はビクともしない。
「ゲホッ……! そ、そんなんじゃ……ない」
異形頭の初めての言葉の抵抗に、勇者は目を見開く。そして、かぼちゃ頭は口許から流れ出る赤い滴を拭い、ニコリと微笑んだ。
「おれはただ――君と、友達になりたい。それだけだ」
異形頭は命乞いをするわけでもなく、ただハッキリとそう言った。
意表を突いた答えに、勇者は一瞬理解できず固まってしまう。やがて脳の処理が追い付くと、腹の底から笑いが込み上げてきた。
「……くっ、くくくく……あっはっはっはははははははは!!! この期に及んでそれかよ! あっはっははははははははははは!!!」
銀髪の少年は涙が出るほどに嘲笑を浴びせた。
馬鹿だ。こいつは生粋の大馬鹿野郎だ。世界の為という大義名分で自分を殺しにかかってきた奴に対しても、友人になりたいとほざくのだから。
「はぁ~あ……くっだらねぇな、最後の最後まで」
先程まで笑っていた勇者の顔は、スンッと能面顔に戻る。
「まさか、お前みたいなのが俺の半身、残念だよ本当に……」
幕引きだと言わんばかりに、勇者は右手に持つ伝説の剣を、ゆらりと上に掲げた。
数秒後には首と胴が泣き別れる――そんな状況になっても、かぼちゃ頭の小人は口角を上げ、透き通った瞳で勇者を見つめてくる。
ラスボスの変わらぬ無垢な姿に、救世主は小さく舌打ちをした。
「――じゃあな、兄弟」
刹那、勇者は無感情に剣を振り下ろした。
獰猛な肉食獣を連想させる歪んだ口角と、底なし沼が如く暗く濁りきった瞳は、『世界を救う者』とは思えぬほどに禍々しかった。
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