病名:ピエロ。

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二度と叶う事の無い世界。

5. 君と出会えたころと違う私。

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激しい痛みで、私は意識を失った。
それから、何時間経ったのだろうか。

私は、夢を見ている。
先輩との辛く切ない思い出。
そして、あの人が告白した声。
それと共に流れていく、先輩の歌声。
先輩ってかっこいいな。
だから、負けたのが許せない。
私の方が、先輩を幸せにしてあげられた。

悔しい。

過去に戻れるんだったら、戻りたい。戻れるもんなら戻りたい。
そうしたら、私は三秒で先輩に告白するだろう。
でも、今は現実を見なければいけない。

イタイ。
撃たれたところが、痛みで感覚が無い。
それは、いい事なのだろうか。
とにかく、激痛だ。

そんなことを思いながら、目を開く。
目の前は、先程までいた事務所ではなく。
機械は壊れ、金属が錆びれている工場。
私は、工場の床で寝ていた。

「起きましたか」

「あなた誰ですか」

意識もしっかりしていたのでスグさま答える。
「私は、白斗です」

「白斗?」

あー嫌だ。また、先輩の事を思い出してしまった。
本当に今日はついていないな。

でも、私は意識を誰かも分からない男に集中させる。
している理由は分からない。

そもそも、私は何をしているのだろうか。
ただ、この汚い工場の床で寝ていただけなのだろうか。

私的には、もう寝飽きた。
いや、寝すぎた。
でも、今は寝るのが一番幸せかもしれない。

「で、私をどうするつもりですか?」

私の声に迫力が無い。
弱弱しい声だ。言葉に芯が無い。

「そんなことは、どうでもいいのです。あなた、悩んでいますよね」

心がハンマーで打たれたかのように気持ちが変わる。
何故だろいう、この人になら全て話してもいい気がした。
気が狂って自殺したあの男の薬が原因だろうか。
いや、違う。これは、私の本能がそう感じている。

「はい。私、悩んでいることがあります」

あー言っちゃった。
私の個人情報バレバレになるじゃん。
そんなことどうでもいいや。
でも、ずっと思っていたことはちゃんと言おう。

「悩んでいることはあるんですが、その前に聞いてもいいですか?」

「なんですか?」

「さっき、血だらけになって倒れていた男は、知り合いですか?」

「えー。知り合いです。彼は、私の友人です」

衝撃だった。
友人だというのに彼は笑っている。
おかしい。

「友人が自殺したのに何故笑えるんですか?」

「いえ、彼は半分人間で半分人間じゃないんですよ」

「それはそう意味ですか?」

この人、普通にいい人だ。
この人も、何か悩んでいる気がする。

「ええ。彼は、薬物にハマってしまったんです。あなたを、誘拐したのも薬の効果が切れてイライラしてたからでしょう……」

彼の声は、何故か笑い終えが混じっている。

「やっぱり、笑うんですね。あなたは。ですけど、なんであなたは私を撃ったんですか?」

「それは、ですね。私も、彼と同じ薬物中毒者だからですよ!」

彼は、声を工場中に響き渡らせ主張する。
あの男の言動や行動を見た私には何の抵抗もなかった。

彼は、目が少し冷めたのかズボンに入っていた薬を手に取り水で飲む。
それが、精神を安定させ、効果が切れると不安定にさせる薬なのだろう。

「すみません。取り乱して………。あの時、何故だか体があなたの事を捕まえろと言ったんです。この薬は、そういう薬」

「それは、つまり?」

「詳しく言うと、人生の歩み方を教えてくれるという薬。一回服用したらやめられなくなります。俺は、彼に進めれて遊び半分で飲んでしまって、今は見ての通りです」

何となく、薬についてよくわかった気がする。

「名はなんていうんですか?」
「名は、「ピエロ」。意味は、人生を支えて人を笑わせるという事らしいです」

あの男が、言っていた「ピエロになった」という言葉は、どういう意味なのだろうか。
人を笑わせられた。という事なのだろうか。
私には、よく分からない。

「これで、私の話は終わりです。あなたの悩みを教えてください」

彼は、またポケットから薬を飲む。
耐性がついて頻繁に飲まないといけないのだろう。
気の毒なものだ。
そして、私は先輩との話を彼に話した。

聞いた彼は、「大変だったね。でも、後悔したから今は強いんじゃない?」と優しく笑いながら言ってくれた。
この人の好感が持てた。

「で、思ったんだけど復讐したいとは思わないの?」

彼が、急に顔色を変えた。
怖い。また、薬が切れたのだろうか。

「いえ、全く?」

「なんで、しないの?した方がいいじゃん。だって、悔しかったんだよね。そしたら、しなよ。絶対に」

復讐なんて言葉は私の頭には無かった。
でも、この人が言うならしてみてもいいかもしれない。

私は、「するんだったら何をするんですか?」と聞いた。

「それはね。俺と同じ名前の白斗っていう男を困らせるんだよ」

「どうやって?」

「その女を誘拐するんだよ」

「それって、犯罪ですよね」

「あー。そうだよ。当たり前じゃん。でも、悔しいんでしょ」

「そうですよね。じゃあ、やってみます」

私何言ってんだろう。本当に今日は、おかしい。
私の言動も行動も。
あの男と同じくらいおかしい。
それから、私は彼と作戦を立てた。
私は、鈴と先輩が今日会っていることを耳にしていたため知っていた。
いや、耳にしたというよりあの人のTwitterに載ってあった。
そのため、誘拐するのはあの人が帰る時。という事が決まり。私が、あの人をおびき寄せ、彼が運転する車に乗らせる。
そのまま、この工場に来る。

「それで、先輩の家は何処なの?」

「先輩に何をするんですか⁉」

「だって、先輩はきっと救いに来るはずでしょ。だったら、足止めしないと」

「そうですよね……」

何の言い返しも出来ない。
私がしてると言ったら、先輩はどんな気持ちになるのだろうか。
どうせなんも思わないんだろうな。

「誰が、足止めするんですか?」

「俺の仲間に強い奴が三人いるからそいつに頼む」

「そうですか。分かりました。よろしくお願いします」

そういった私は、準備へと移した。
彼は、銃を私に撃ったことを反省して応急手当てをしてくれた。

「よし、行くぞ」

……………

街灯に照らされる高速道路。
私達の車は、時速百キロで進む。

「乗り心地は、どう?」

「全く悪くないです」

「それならよかった。もっとスピード出せればいいんだけど、警察に捕まると面倒だからごめんねこれくらいしか出せなくて」

「いえ、大丈夫です」

案外、東京から離れていたらしく工場を出てから一時間は経つだろう。

「あとどれくらいで着きます?」

「もうすぐだよ。もう、首都高入ってるし」

「教えてくれてありがとうございます。薬は、飲まなくていいんですか?」

「あーすっかり忘れてたよ。そろそろ、飲まないといけないからバックから出してくれる?」

「分かりました」

男の人のカバンを触るのは初めてだ。
カバンの中は、綺麗に整頓してあり、簡単に見つかった。

「これでいいですか?」

私は、丁寧に水と薬を渡す。

「ありがとね」

彼は、片手でハンドルを握り、もう一方の片手でペットボトルを開けて薬を飲む。

「ところで、銃は何処に?」

「銃は、俺の腰回りに掛けてある。それがどうした?」

「いえ、何処にあるのかなと思いまして」

「あっ。そうだ。いくら、彼女に怒っても殺さないようにね」

「そんなことは、分かっています」

「そろそろ、着くよ」

首都高速を降り、先輩の家に向かう。
ここから、先輩の家まで数分だからもうすぐだ。

それから、数分後――。

「着いたよ」

「ありがとうございます」

私は、頭を少し下げ感謝を伝える。

「まだ、中にいる」

「はい。中にきっといると思います」

「じゃあ、作戦の確認をしようか」

作戦をもう一度穴が無いかを確かめる。
カクニンが丁度終わった時だった。

「あれじゃない?」

鈴と一緒に先輩の家を出る先輩を見つける。
どうやら、見送りらしい。

「どうせ、駅だよね。駅まで先回りしようか」

「分かりました。じゃあ、よろしくお願いします」

車を発進させ、先輩と鈴の前を通り駅に先回りする。
すれ違った時に見たが、先輩は楽しそうだった。
本当に、こんなことしてもいいんだろうか。
悩む。

でも、私は決断したからと手を強く握り弱い気持ちを追い払う。

………………

「来たみたいだよ」

「そろそろ、行きます」

「頑張ってね」

「ありがとうございます」

私は、車を降りて先輩を追いつける。

(私って、恥ずかしい生き物なのかもな)

先輩は、改札であの人と別れる。

(今がチャンスだ)

私は、ICカードで改札を通り鈴に声を掛ける。

「こんにちは、鈴さん」

工場にいる時には、芯が無かったが今は、しっかりと芯がある。
今の私は緊張していない。きっと、私はウキウキしている。

「えっ?」

「私です。明星 彩奈です」

「彩奈って。高校の?」

「はい。今日は、あなたに話すことがあるため来ました。とりあえず、改札でませんか?」

私は、上目遣いで誘惑させる。

「う……うん。わかった」

「ありがとうございます」

私達は、改札を降り駅から近い喫茶店に入る。
私は、コーヒーを注文する。鈴は、ミルクココアだ。

「で、話って。何?」

「先輩の事についてです」

「白斗先輩の事?でも、あの勝負は私が勝ったんだよね。いまさら、話すことなんて」

「そうです、私は負けました。でも、まだ諦めません」

強い目で訴える。
絶対に負けない。今度こそは。

「彩奈ちゃんって根強いんだね。正直、ウザいよ」

ムカつく。今にでも、殺したい。
でも、そんな気持ちを抑えようとコーヒーを一口飲む。

「ウザくて結構です。女ですから。ウザくないと主張するあなたには負けますが」

「そうだねー。私、彩奈ちゃんより女だから。理想高い人間だから」

「あなた、友達いますか?」

「いるよ。彩奈ちゃんよりも多いと思うよ」

「仮面ですか………。気持ち悪いですね。そんな汚らわしい心で、白斗先輩に近づかないでください」

「白斗先輩は、別だよ~。だって、白斗先輩ってカッコいいじゃん」

今度は、鈴がコーヒーを飲む。
このコーヒーが切れる前までには決着を着ける。

「そうですか。あなたの裏心が丸見えですね。汚いですね」

「そうだよ。私って、汚いもん。もちろん、顔じゃないけどね」

「面白い事を言ってくれますね。私は、あなたの顔が汚いと思いますが」

「言われると傷つくな~。でも、私が汚かったら彩奈なんて牛乳雑巾以下だよ~それくらい汚いよ」

「そうですか。そう思ってればいいじゃないですか」


「フフフ。押しに弱いんだね~そんなところ、全く変わっていないねー」
鈴は、またコーヒーを一口。

「私、トイレに行きたくなっちゃった。トイレに行ってくるね。怖くて、逃げるとかルール違反だからね」

鈴は席を離れて、トイレに行く。
その隙に私は、睡眠薬を入れる。
あとは、じっと待っているだけ。
会話も順調だ。
このまま、やり過ごそう。

「ごめんね~。いっぱい、出ちゃった」

「やっぱり汚いですね。あり得ないです」

「そう?w」

鈴は、コーヒーを口にする。
会話がその途端止まる。

「ごめん。私、眠くなっちゃった」

「ここで、寝ていいですよ。私が起こしますので」

「そう。ありがと」

鈴は、テーブルに倒れこみぐっすりと眠る。
これが、先輩を誘惑してると思うと腹が立つ。

私は、会計を済ませ鈴を車まで運ぶ。

「おっ!作戦成功だね。お疲れ」

「ありがとうございます。では、工場に行きますか」

私達は、車を発進させて工場へと向かった。普通の車を装いたかったので、縄で縛ると言ったことはしていない。

「薬ってどれくらい聞きますか?」

「飲んだ量にもよるけど。大体、四時間くらい」

「そうですか。ありがとうございます」

「帰ったら、顔がバレないように「ピエロ」の面をかぶってね~」

「分かりました」

鈴を乗せた車は、高速道路に入っていった。

………………

「着いたよ」

「お疲れ様です」

「じゃあ、その子を持って縄で縛って工場にある椅子に座らせといて」

「分かりました」

私は、鈴を持ち上げ車から降り、縄で縛る。
手、足を縛り終えると工場の椅子に鈴を座らせる。
スマホも没収して、準備は満タン。

「どう。終わった」

「今ちょうど」

「じゃあ、起こそうか」

「はい」

私は、体を揺すって鈴を起こす。

「ふぇ?」

私は、スマホの通話ボタンを押して先輩との電話をスタートさせる。
スグに状況が分かったのか、先輩に電話で必死に伝える。
私は、手で、5、4、3、2、1と数え。0で電話を切った。
電話を切った後、私は鈴を置いて工場の裏に行った。

「私を置いていかないで」

(これは、私の復讐だよ)

悔し涙を流しながら私は、歩いた。



≪終≫
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