病名:ピエロ。

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二度と叶う事の無い世界。

4. Mystery Place

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ここは、何処だろう。
暗闇で、何も見えないので部屋かどうかも分からないが、椅子に座ったまま、縄で体が縛られ、身動きが取れない。

「起きたか。睡眠不足はとれましたか?ウホホホホホホホ」

駅前でぶつかった大柄の男の声に似ているが、不気味で恐怖が体中を走るような笑い声は何なのだろうか。

「明かり付けますか?ウホホホホホホ」

「明かり付けてください」

「了解しました。ウホホホホホホホ」

明かりが付き周りが見えるようになるが、目がぼんやりとしている。
何だろうか。この感覚……。

「我は、あなたの指示に従う」

何言ってんだ私。
口が勝手に動く。喋り方もいつもの私とは違う。
身体も縄のせいで動かない。
これじゃあ、まるで人形じゃないか……。

「おっと、薬の効果が出ましたか~!!!!我が誇る力作の薬の効果が!!!!!!!ウホホホホホホホホホホホ」

壁に頭突きをして脳を刺激しているのが、音で何となくだが判断が付く。
こいつ、精神がイッテいる。正常な人間じゃない。
いや、相手の事を考えている場合じゃない。
それに気づいた私は、状況を整理する。
脱出方法なんていうレベルが高い事はする気もない。それ以前に、したら殺される。

「何考えてるんですか?まさか、状況整理なんてクダラナイ事考えてませんよね?」

近い。目がぼんやりとして、顔すら見えないが相手の吐息が罹るほど顔が近くなっているのは、分かる。

「そんなことしたら、大事な時間が無くってしまいますよ」

「はい。わかりました」

もう、どうすることも出来ない。
もう少し、時間が経ってから色々なことを考えよう…。
今は、疲れた。

「では、ここの部屋は少し肌寒いですし暖かい部屋へ移動してお話をしましょうかウホホホホホ」

不気味な笑い声と共に私は首を捕まれ、強制的に部屋をだることになった。

………………

(ここ広いな)

悠長な思いになる。
何故なら、目のぼやけはとれ、縛られた縄は全て解かれたため、今は身動きが自由に出来るからだ。今は、事務所みたいな場所にゆったりと座っている。

しかし、薬の効果(?)はまだ続いている。

「どうでしょ。広いでしょ。ウホホホホ」

さっきから「ウホホ」言っている奴の顔は、ニヤリと笑ったピエロの面によって隠されているが、ここまでの大柄な男はなかなかいない。
やはり、駅前でぶつかった大柄の男だというのは、間違えないんだろう。

「では、服を脱いでもらいましょうか。ウホホホホ」

傷だらけの両手で私の服に汚く触れる。
普通なら抵抗するが、下手に抵抗しても殺される危険が高まるだけだ。
何もしないで、様子見しよう。
ところでだが、性行為をするのがコイツの目的だろうか。
その割に、目がイヤらしくない。

「早く、早く、早く、早く、早く、見せろ、見せろ、みせろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

男が、私の服を無理やり引っ張る。
幸い、服が二層構造だったため一層部分しか破れていない。
だが、男は、周りにある家具を蹴ったり、自分の頭を床にぶつけたりと様子がおかしい。

気が狂ってる……)

その時、私の手が勝手に洋服を脱ごうとする。

(何やって)

「わたしの、めいれいがつたわったぞーーーーーーウワーーーーーーウホホホホホホホホホホホ。やったーーーーーーーーどうだ!これで、やってやった俺は、しんかする!うわーーーーーーーぴえろだ。わたしはぴえろになった。うわーーーーーーーーーーーこれで、だれもがわらうぞ!!!!!やったぞーーーーーーーーーーじんせいのかちぐみだ!これでーーーーーーーーうわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。おんなのはじだ。おんなのはじだ。あのやつ、ふざけんなよ。ふざけんなよふざけんなよ。ウホホホホホ。うわーーーーーーーーーーーーーーー」

部屋の窓ガラスに頭を打ちながら男は意味不明な言葉を放つ。

窓ガラスは、全て割れ、最終的に男は、外に落ちた。

それから、しばらく経っても声が聞えなかったので恐る恐る割れた窓ガラスから除くと男は、血だらけして倒れていた。

男が発狂している間、私は薬の効果によって全裸になってしまった。
今は、薬の効果が薄くなっているため、ある程度の事は普段と変わらなく出来るようになった。
そのため、一時全裸状態になってしまったが、服を着ている。

「やっと、いなくなってくれた」

腰が抜け、その場で座る。

「安心できないよな。早くここをでないと」

腰が抜けているが、最後の力を振り絞って外に出る。

外を出ると、右側に階段があった。
たが、外も暗くなっているため踏み間違えないように気を付けなければならない。
というか、ここが何処なのかも分からない。
スマホで確認したいところだが、ジーンズを履いたとき男に盗られたのか、落としたのか分からないが無くなっていた。
階段に足を踏み入れようとした時だった。

「何、逃げようとしてるんですか?死にたいんですか?」

顔に傷を負った何処にでも居そうな男が二人。
と、さっきのような大柄の男が一人。合計三人が階段の下にいる。
武器は、何も持ってない。
ここまで、来た。抵抗できるか?
いや、しなくちゃ後悔する。

「逃げようなんて、そんなこと思ってませんよ」

「いや、逃げようとしてるだろ」

顔に傷を負った二人が、階段を上る。

「いけ!!!」

ほんの少しだけ助走をつけ、男達に向かって飛び降りる。
この階段は、男二人が通れるような幅は無い。
そのため、一人が下に落ちればもう一人も階段から落ちる。
嬉しい事に、男二人は体制を崩し階段から落ちる。
そして、それを避けようとした男は階段の出口から離れた。

(このまま、逃げれる!)

上手い事、着地をして全速力で建物の裏手の方向に逃げる。

「ここが、何処か分からないけど、とりあえず逃げよう」

建物の裏に行くと、男が倒れていた。それを、見ながら建物から離れていく。
だが――。
上手くは、行かなかった。

「逃げれると思うなよ」

ハンドガンを握った男が私の後ろ追う。
男は、立ち止まりハンドガンを構える。

「死ね!」

銃声と共に弾が発射される。
発射された弾は、私の足に当たる。

「イッ!」

何も言えない程の激痛。

「殺すことは、出来なかったか」

「殺さないのか?」

「残りの弾をお前を殺すには勿体無い」

「そうか……」


激痛に耐えられなくなった私は、静かに眠った。


≪終≫


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