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しおりを挟む和やかだった室内の空気が、突如としてピリっと張り詰めた空気に変わる。
嬉しそうに笑っていたシヴァラの表情から笑みが消え去り、クリスタの姿を視界に映し、不可解そうに眉根を寄せている。
──この者も、他人の魔力を視ることが出来るのか。
ギルフィードは自分の部下と同じように人の魔力を視覚で感知することが出来るシヴァラに驚き、感心する。
シヴァラの問いかけにクリスタは情けなく笑みを浮かべると、口を開いた。
「──そうね。シヴァラには詳細の説明をしていなかったわ……マルゲルタには手紙で報告していたけれど、貴方は事情を知らないものね」
説明するわ、とクリスタがゆっくりと、だが的確に現状の説明をしていく。
時折ギルフィードやマルゲルタに視線を向け、二人もクリスタの説明に加わりながらシヴァラにこの国で起きていることを説明していった。
◇
どれだけの時間が過ぎただろうか。
この部屋にやって来た時に用意された紅茶がすっかり冷めてしまった頃、クリスタの説明が一段落し、そのタイミングでクリスタはお茶の替えを使用人に告げた。
「──なんで……どうしてそんなことが起きているんだ……」
使用人が部屋から退出した後、シヴァラがぽつり、と言葉を零す。
自分の前髪をくしゃり、と握り潰し、指の隙間から何処か迷うような、躊躇うような感情が浮かんだ瞳を覗かせている。
シヴァラが躊躇うような態度を見せることが珍しく、クリスタが戸惑っているとシヴァラが口を開いた。
「……クリスタ。二人きりで話したいことがある……」
「──え」
シヴァラの突然の申し出に、戸惑ったクリスタはついついギルフィードに視線を向けてしまった。
昔馴染みで、同じ人物を師と仰ぎ人となりは分かっている。
シヴァラがクリスタに何かすることはほぼありえない。それは充分分かってはいるが、ギルフィードは緩く首を横に振り、そしてシヴァラの言葉にギルフィードが答えた。
「申し訳ないが、クリスタ様と二人きりには出来ない。二人が昔からの知り合いで、危険はないと分かってはいるが……」
「……っ、それは、そうだよな……。悪い。逆の立場だったら俺もアンタと同じ返答をしてる……」
シヴァラは落ち着いた様子で乾いた笑いを零す。
そして「だが」と続けた。
「クリスタに話そうと思った内容は、うちの国に関する機密情報だ。悪いが、北大陸の王族に聞かれる訳にはいかない」
「……機密情報ですって? ラティアスの国が、クリスタの現状に関わっているということ?」
シヴァラの言葉に、マルゲルタがぎろり、と視線を鋭くして睨みつける。
ギルフィードと、マルゲルタ。
両者は互いにクリスタを大切に思っている。
二人のクリスタに対する態度、視線や口調をじっと観察していたシヴァラはそのことをしっかり理解している。
この場に集まる人間は、皆クリスタを大切に思っている。
だが、自分の国、ラティアスの機密情報をマルゲルタに知られるのは時期尚早。
シヴァラはそう判断した。
「それに、王族だったらこの場にはギルフィード王子もいるわ。私が駄目で、何故彼は良いのよ?」
納得がいかない、というような態度のマルゲルタにシヴァラは困ったように眉を下げ、ちらりとクリスタとギルフィードに視線を向けた。
さきほど、クリスタはギルフィードの意見を聞こうと無意識にギルフィードに視線を向けたのだ。
(クリスタは、無意識にこの王子を頼りにしている……。それに、傍から見ていてこの二人は……)
諦めたように一度瞼を伏せたシヴァラは、再びマルゲルタに視線を戻し、きっぱりと断った。
「駄目だ。魔術発祥の地である北大陸の王族には、まだ話せない。……話すべきか否か、はクリスタとギルフィード王子に話したあと、二人の意見を聞いてからだ。ラティアスの魔法士を束ねる俺の決定は、王族にも覆すことは難しいだろ」
「──っ!? 貴方、魔塔の主なの!?」
ぎょっと目を見開いたマルゲルタに、シヴァラは深く頷いた。
そこまで強く言われてしまえば、いくら王族のマルゲルタにも無理に主張を突き通すことは出来ない。
魔法国家ラティアスと友好的な関係を築いている訳ではないのだ。
それに、ラティアスの国は謎が多い。
魔法士が多く、他国に比べて魔法士の力も強い。
そして多くの魔法士が所属する「魔塔」。
研究や、戦闘に優れた魔法士が多く所属しており、その多くの魔法士を束ねるのが魔塔のトップである魔塔の主だ。
その主がまさか若干十七歳の目の前の青年だとは、とマルゲルタは悔しげに唇を噛み締めた。
「──分かったわ……。魔塔の主に喧嘩を吹っ掛けて、国同士の争いに発展させたくないもの。……話が終わったら呼んで頂戴」
「……マルゲルタ、悪いわね」
「いいのよ、クリスタ。また後でね」
行くわよ、とユーゼスに声をかけ、マルゲルタは静かに部屋を出て行った。
室内に残った三人は、暫し無言でいたがシヴァラが徐に魔法を発動する。
室内にキン、と高い音が響き薄い膜のような物が一瞬視界に映り、瞬きをする間に消滅する。
「……防音結界を張った。これでこの部屋での会話は外には漏れない」
「……随分と厳重だな。それ程の機密があるのか?」
シヴァラの言葉に、ギルフィードが言葉を返す。
ギルフィードの言葉にシヴァラは軽く肩を竦めた後、ソファの背に深く腰掛け「あー……」とどこか迷うように視線を彷徨わせたあと、ゆっくり口を開いた。
「……二人は、魔女という存在を知っているか?」
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