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──私は優れていて、お姉様は愚図。
──私には沢山人が集まるけれど、お姉様には誰も集まらない。
──お姉様が得るものは全部私のもの。
(だって……! だってだってだって……! お父様も、お母様もそう言った……!)
エリシャ・ルドランは自分に近付いて来るアイーシャを見詰める。
(なんで私がこんな格好をしているのっ、何でお姉様じゃなくて私が捕まっているのっ、何でお姉様の周りには人が居るの……っ)
エリシャは縛られた自分の腕をめちゃくちゃに動かして拘束を脱しようとするが、手首の拘束具はぴくりとも動かない。
(お父様も、お母様もそう言ってた……! そう言って、いたのに……っ)
エリシャは先程自分の目の前で絶命した母親、エリザベートの姿を思い出して視界が滲んで行く。
母親を助けに来たのに、その母親は目の前で魔物に喰われた。
自分をここまで連れて来た男は、おかしな薬を飲んで魔物になってしまった。
狼狽えている内にいつの間にか自分の目の前にはこの国の王太子であるマーベリックやリドル、クォンツが姿を表していて。
マーベリックの姿に、エリシャは一瞬だけ歓喜したがマーベリックから向けられた視線に敵視されている事を察し、落胆した。
父親や母親がいつも言ってくれていたように、エリシャの味方になってくれるのかと思って一瞬期待したのだが、その期待もすぐなくなった。
(ベルトルト様みたいに、最初はお姉様の話を聞いていても、いつも私の味方になってくれると思っていたのに……っ)
そこでエリシャははっと目を見開く。
(──あっ! そう言えば、私今は声を出していないから……っ、いつもみたいに説得出来ていないからだわ……!)
マーベリック達と会い、拘束された後すぐに口封じの布、と言う良く分からない物をされてしまった。
(えっと……、確かコレをされているといつもの説得は効果が弱いって言っていたわ)
父親ケネブから言われた事をエリシャは必死になって思い出す。
効果が弱い、と言っていた。
けれど、とても効果が強い説得の魔法もあると言っていた気がする。
幼少期に、ルドラン子爵邸に何度も赴き地下にあった良く分からない書物に書かれていた魔法だ。
その魔法の言葉が分からなかったけれど、父親が必死に分かる人を探した。
他国の行商人だ、と言われて紹介された男はエリシャに優しくその書物に書かれている言葉を教えてくれて、そして。
(確か、凄く魔力を消費しちゃったのだった……)
教えてもらった言葉で、ケネブが書物を読み解き、エリシャにその魔法を覚えさせたのだ。
魔力を消費し過ぎて、エリシャは数日間意識を失ってしまったが、目が覚めた時に父親が大層喜んでいたような記憶がある。
(──そう、お父様がどうしても困った時にはこれを唱えれば良いって……!)
口封じの布で上手く言葉を発せれないかもしれないが、突然自分が暴れ出せばマーベリックやリドルは驚いて反応が遅れるかもしれない。
(それに……今なら近付いて来るお姉様に……!)
体当たりでもして、怪我をさせてやる事も出来るかもしれない。
エリシャはそう考えると、マーベリックとリドルがクォンツとウィルバートと何やら話をしている少し後ろで、すううと鼻から大きく息を吸い込み、腹の底から言葉を発した。
「──μΦΜφღ₤₤!!」
もごもごとエリシャが口にした言葉は、皆が知る国の共通語では無いようで。
口封じの布のせいでしっかりとした言葉にはなっていないが、声を発した事その物で、エリシャの声──音に魔力が宿ったのだろう。
間近でその音を聞いてしまったマーベリックとリドルが持っていた精神干渉を防ぐ魔道具がバリン、と割れた。
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