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 ウィルバートがそう言葉を紡ぐなり、使用人達三人はぶわり、と瞳から零れ落ちそうな程涙を溜めるとカクン、と膝から崩れ落ちる。

「──旦那様っ、! お戻りを……っ、お待ちしておりました……っ」
「良かった……っ、良かったです旦那様……っ」
「あぁっ、神様……! 本当にありがとうございます……っ!」

 三者三様、口々に言葉を放つとウィルバートの傍にやって来ていたディフォートはウィルバートの手を取り、縋るように握り締める。
 料理長のハドソンは涙を零し、ぐっと唇を噛み締めるとコック帽をぎゅうう、と強く握り締めてボタボタと床に涙を落とす。
 ルミアはアイーシャに視線を向け、アイーシャに向かって「良かった、良かったですねお嬢様」と話し掛けている。

 三人はウィルバートが帰って来た、と言う事実を知り喜びに溢れているせいでウィルバートの変わらぬ姿に今はまだ気が付いていない。

「──三人とも。一先ず座ってくれ。話をしようか」

 ウィルバートが苦笑しながら家令であるディフォートの手を取り立たせてやると、食堂のテーブルへと促す。

 再会を喜ぶのはまだ暫し先だ。
 今はウィルバートが何故十年間もの間、帰って来る事が出来なかったのか。その事を説明しなければならない。
 そして、何故この子爵邸にエリザベートだけを連れ帰って来たのかと言う事も説明が必要だ。
 エリザベートが目を覚ます前に使用人三人にしっかりと事情を把握してもらう必要がある。

 ウィルバートはぐすぐすと泣く三人がテーブルに着いた事を確認すると、アイーシャ、クォンツに順に視線を向けて頷き合ってからゆっくりと唇を開いたのだった。





 ウィルバートから語られる十年前の出来事。

 自分に執着し、恨みを募らせる弟ケネブの事、仕組まれた馬車事故、その馬車事故でのイライアの死、そして記憶を失っていた事。
 恨みを持ったケネブが長年アイーシャを苦しめていた事、そして。

 今回の魔物の事。

 一連の出来事を、端的に説明し、時折クォンツが補足するようにウィルバートの後に言葉を発する。
 姿が変わらぬ事は、ある魔法を取得した途端に年を取らぬようになったと濁すと、三人は察するものがあったのだろう。
 神妙な顔をしてこくり、と頷いた。

「──そのような、事が……」

 ウィルバートの説明が終わり、一瞬の静寂の後ディフォートがぽつりと言葉を零す。
 小さく小さく零されたディフォートの言葉の後に、ハドソンは乱暴に自分の目元を服の袖で拭うと怒りを抑え切れない、と言うように唇を開いた。

「許せません……っ! 旦那様、奥様にそのような仕打ちをし……っ、お嬢様も長年苦しめ続けたあの家族をっ、俺は許す事など出来ません……っ!」
「旦那様、私も同じ意見です。自分勝手に恨みを募らせ、旦那様と奥様に対して行った所業。お嬢様への仕打ち……私はっ、長年お嬢様を助ける事が出来ずっ、あのような酷い事を本当に長年っ」

 悔しそうに唇を噛み締めるディフォートに、アイーシャは堪らず言葉を挟む。

「いいのよ、ディフォート。私の事はいつも気にしないで、と言っていたでしょう? 私を庇って、首になった人達が大勢居たのよ。首になった使用人達は、次の働き先も紹介してもらえず、辛い生活をしていたの……」
「──ですがっ、お嬢様は首になってしまった使用人達を今現在まで気にして、援助なさっています……っ本来であれば家令の私が彼らの様子を見てやらねばならなかったのに……っ」
「いいのよ。ディフォートは邸の使用人達を助けて上げなきゃいけなかったんだもの。それに、私はルミアが居てくれたから全然平気だったわ」

 ふふ、と微笑みさえ浮かべて自分達の罪など無いと言うアイーシャに、ディフォートもハドソンもそしてルミアも咽び泣く。

「……っ、ぜっ、絶対に許せません……っ、こんなっ、こんな事を……っ」
「例え神が許してもっ、私達は絶対に許しません……っ」

 使用人達の言葉を聞き、ウィルバートも強く頷く。

「ああ。私も許すつもりは無い。……だからこそ、ケネブとエリシャが脱獄した後、エリザベートに接触を図ると予測して、彼女を邸に連れ戻した。……エリザベートを使い、接触を図って来たケネブとエリシャを捕らえる手助けをしてもらってもいいかい?」

 ウィルバートの言葉に、使用人三人は力強く頷き、「はい!」と大きく声を上げた。

「ありがとう、三人とも。……これから王太子殿下の用意した人員が邸にやって来る。その人員達はこの邸の使用人として、配置する。……クォンツ卿の指示の元、上手く彼らとやってくれ」
「かしこまりました、旦那様……!」
「殿下がご用意下さった方達と協力致します!」

 使用人の言葉に、ウィルバートは「ありがとう」と告げてにっこりと笑顔を浮かべた。



 そして、食堂での話が一段落着いた頃合に。
 タイミング良くエリザベートが目を覚ました、と言う知らせがやってきた。
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