108 / 169
108
しおりを挟む◇◆◇
「──おいっ、急げ……! 王太子が戻って来る……!」
「ちょ、ちょっと待って下さい……! 私っ、沢山叩かれてっ、足が痛いんですっ! 少しくらい手を貸してくれたっていいじゃないですか!」
「おいっ、止めろよ……! 俺に魅了や蠱惑、魅惑を発動したらすぐに殺すからな……! お前達の変わりはこれからいくらでも作る事が出来る、変な真似をしたら分かってるだろうな……!」
「──っ、わっ、分かりました……っ! 頑張って歩きます、歩きますから……っ、けどお父様が……っ」
暗がりの中をバタバタと慌ただしい足音が響く。
地下深くに作られている牢に侵入した男は、牢番を殺した後、エリシャ・ルドランとケネブ・ルドランを脱出させるために大急ぎで地上へと向かっていた。
エリシャに付けられていた口封じの布は既に男によって外されており、文句を口にしながら後をついて来るエリシャの後ろからはぜいぜいと肩で息をするケネブ・ルドランが続く。
「俺たちが作った可愛い合成獣が滅された。畜生っ、あれはこれから人間を喰ってどんどん成長するように術式を組み込んだ最高傑作だったのによぉ……!」
男がぶつぶつ、と呟き八つ当たりをするように既に事切れている牢番の体を蹴り上げる。
「いいか、可愛い合成獣が消滅してしまった事に俺たちの主が悲しんでおられる。お前達はあの資料を回収、そしてあの付近はお前の領地だろう? 領地民を適当に見繕って隣国に連れてこい……! 王太子にバレる前に国から脱出するぞ……! 隣国に行けばまだ何とかなる、隣国で再び領地民を使って作るぞ……!」
その男の言葉に、最後尾を着いてきていたケネブがひゅうひゅうとか細い声で言葉を発した。
「──ならば、ならば……っ、アイーシャも……」
ケネブの声に反応したのは前にいたエリシャで。
エリシャはケネブの発言に眉を顰めた。
「お姉様? 何故お姉様なんて必要なんですか?」
「……あれ、は……魔力量は低いが……魔力制御に長けている……。緻密な魔力制御が出来れば……強大な魔法を放つ事が……、可能だ……」
「──っ、何でお姉様ばかり……っ」
「あの男の、……っ、魔力制御の正確さを、受け継いだのだろう……、魔力量は少ないから……、取り込んでしまえば……っ、二度と元には戻らん……っ」
「へえ? 何で母親と一緒に殺さないのか不思議だったけど……。スペアとして残しておいたのか? まあ、あの合成獣と同等か、それ以上の力を得られれば主も喜ばれるだろう」
軽い調子で話す男には返事を返さずにケネブはブツブツと言葉を呟き続ける。
「簡単に、殺して……たまるか……、あの男の血を引いた……人間は……っ、最期の時まで……苦しませてっ、絶望の中で……っ、息絶えればいい……っ」
「──? 何だか、お父様難しい事を言っていてよくわかりませんが……。私達はとりあえず隣国に行くのですね!」
場違いな程明るいエリシャの声に、先頭を駆けていた男は呆れつつ地下牢から地上に飛び出した。
「──っ、良し! まだ交代の時間じゃない……! だが残り時間は僅かだ……! 直ぐにこの場を離れるぞ」
「まっ、待って下さい! このどこかにお母様がいらっしゃるのですっ、お母様も一緒に隣国に行かないと……っ、あっ! あとベルトルト様っ、ベルトルト様も……!」
「……っ、そいつらは後から連れて来てやるから急げ! 直ぐに見回りがやってくる! 牢番が死んだ事が騒ぎになる前に仲間と合流するぞ!」
月が雲に隠れ、辺り一面が暗くなった瞬間に男が城壁に向かって走る。
エリシャは後ろをぜいぜいと苦しそうに走るケネブを気遣うように振り返るが、自分達がしている事は悪い事だ、と言う事が分かっているエリシャは父親の手を取り男の後を追い掛けた。
「ちょっとだけ、隣国に行くけれど……っきっと直ぐに戻ってきますわ、お母様っ、ベルトルト様っ!」
エリシャは小さく声に出して告げると、自分達を待つ男の元へ急いで向かった。
そうして、男は外にいた仲間に何か合図を送ると壁を破壊して外へ素早く出る。
大きな破壊音に、城の騎士達が近付いて来る足音が聞こえて来てエリシャはケネブの手を引いて急いで男の後に続いた。
64
お気に入りに追加
5,661
あなたにおすすめの小説
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。
信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う
jun
恋愛
相思相愛の婚約者と後半年で結婚という時、彼の浮気発覚。そして浮気相手が妊娠…。
婚約は破棄され、私は今日もいきつけの店で一人静かにお酒を飲む。
少し離れた席で、似たような酒の飲み方をする男。
そのうち話すようになり、徐々に距離が縮まる二人。
しかし、男には家庭があった…。
2024/02/03 短編から長編に変更しました。
人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~
柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。
大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。
これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。
※他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる