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しおりを挟む城壁を破壊し、外へと出た三人は迎えに来ていた男の仲間達の馬車に飛び乗る。
バタバタと粗末な馬車に勢い良く飛び乗った反動でエリシャは床にべしゃり、と倒れ鼻を打ったのだろう。
「痛いっ」と文句を口にしているが男もその仲間達も、父親のケネブも誰もエリシャには構わない。
馬車の座席に乱暴に腰を下ろした男ははぁーっ、と溜息を吐き出すと「そうだった」と思い出したかのようにケネブに声を掛けた。
「ケネブ・ルドラン。そう言えばさっきアイーシャ、とか言ったな? あの合成獣の代替となる核になれるような人間か?」
「──っ、そう、……っ、そうですっ」
男の言葉にケネブはゲホゲホと咳き込みながら言葉を返す。
「特徴は? 何か絵姿とか無いか? 核となる人間を間違えて連れて来る訳にはいかないからな」
「絵姿は……、何もっ、ただ! アイーシャはこの国では珍しい赤紫の躑躅のような髪色をした女だ……っ、エメラルドグリーンの瞳をしていてっ、あの男とも顔立ちが似ている……っ、一目見れば気付くっ」
「──こっちはケネブ・ルドランのようにあんたの兄貴に執着してない……。顔立ちが似ていると言われてもなぁ……。ああ、でも珍しい髪色をしているから判断がつくか」
その男はケネブとエリシャに視線を向けた後、「じゃあ、その娘を主の元に」と呟くとケネブは狂ったように何度も何度も頷き、エリシャは首を傾げた。
◇◆◇
アイーシャとクォンツが保養所内にあった蔵書を片付け始めて暫し。
少し前に別れたウィルバートが音もなく突然転移魔法で姿を現した。
「──ひゃっ! ……お父様、?」
「何だ、ウィルバート卿か……危うく斬り掛かる所だった……」
突然姿を現したウィルバートに、クォンツはアイーシャを自分の背に隠し、剣を構えてしまったが現れたのがウィルバートだと分かり安堵した。
ウィルバートに向けていた剣を下ろすと、クォンツの背中からひょこりと顔を出したアイーシャがウィルバートの顔を見て驚き、駆け寄る。
「……っ、お父様? 何かあったのですか……!?」
「──アイーシャ……」
憔悴しきった様子のウィルバートに焦って駆け寄ったアイーシャは、ウィルバートの頬に涙の跡がある事に気付いてぐっ、と唇を噛み締めた。
「いや、何でも無いよ。……それより、ここは……あの保養所跡の地下室、か?」
「ええ、そうです。倉庫の役割を果たしていた場所のようです、それで、ここにこの本達が……」
「──これは」
アイーシャとクォンツの前にある机に目をやり、ウィルバートは驚きに目を見開いた。
「何故、これがここにあるんだ……? この蔵書類はあの蔵書室にあったはず」
「──ケネブ・ルドランがあの場所から持ち出した物かと思います。……恐らく、ここで邪教の人間となにかしらの実験をしていたのでしょう」
本をなぞるウィルバートに、クォンツが説明すると「なるほどな」と小さく呟く。
「……私と、イライアが集めた本が……そのような邪教の実験に使われてしまっていたのか……」
「ここにある蔵書の種類だけでは合成獣のような生物を作り出す事は無理かと……もしかしたら邪教で伝わる秘術のような物と組み合わせたのかもしれません」
クォンツの言葉にウィルバートは力無く頷く。
「そうか……そうだな。だが、この本をこのままこうしてはおけないだろう。……重要な資料として殿下に提出しよう」
ウィルバートはそう告げると、その本に手を翳し、闇魔法を発動する。
数多くの本を最早見慣れた黒い粒子がじわじわと包み込み、そして瞬く間に姿が消えてしまった。
「──えっ! お父様……っ、本が……」
「大丈夫だ、安心しなさい。闇魔法は保管も出来る。今は一時的に保管しているだけだよ」
「そ、そうなのですね……! 良かったです」
ほっとしたように話すアイーシャの後ろで、クォンツは青い顔をしながら「おいおい」と心の中で呟いた。
(亜空間魔法……? そんな物が本当に存在してたのかよ……。闇魔法……規格外だな)
クォンツがそう考えている事など露知らず、ウィルバートはアイーシャに微笑んだあと、クォンツに視線を向ける。
「クォンツ卿。そろそろ我々も殿下と合流しようか。転移魔法で殿下を追いかければ王都に到着する前に合流出来るだろう」
「──分かりました。この場所の詳しい調査はまた王都の部隊に頼みましょう」
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