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それぞれの気持ち
しおりを挟む「あ~、何かあれ良さそうじゃない…?纏まったんじゃない?」
「ああ、良かった…そうみたいだ…」
2人の青年は、こっそりと舞踏会の会場から庭園の方向を眺めながら安堵の溜息を零す。
レオンの弟、アウディは隣にいるミュラーの従兄弟ホーエンスにいや~良かった良かったと言いながら笑いかける。
「一時はどうなるかと思ったけど、2人が纏まってくれて本当良かったよ、かんぱーい」
「ああ、これ以上ないくらい冷や冷やしたな!」
明るい表情で2人は持っていたシャンパングラスをカチン、と澄んだ音を立てさせながら喜びを分かち合うように合わせる。
嬉しそうにはにかみながら、ホーエンスがシャンパングラスを傾け琥珀色の液体を喉奥へと流し込むとああ、でも…と言葉を続ける。
「ミュラーと想いを通じ合わせたレオン侯爵が暴走しないか心配だな。正式な婚約の取り交わしは後日だろう?結婚前に妊娠なんて発覚したら…」
「あぁ、それ?俺も最初は不安だったけど多分大丈夫だと思うよ。兄上普段の発言はアレだけど、本人ヘタレだから多分舞い上がって逆に手出せないと思う。お互い初めて同士だからね~」
けらけらと上機嫌に笑うアウディに、ホーエンスはぎょっとする。
「…えっレオン侯爵今年でいくつだったっけ…え、ほんと?」
「本当本当。兄上曰く、ミュラー以外には反応しないんだって。ほんっと我が兄ながら気色悪いよね」
これだけやきもきしたんだ。
兄上の不名誉でカッコ悪い事実くらいミュラーの身内に話してもいいよね!とアウディは尚もホーエンスにレオンの情けない話をつらつらと話した。
2人が幸せになれなかったらこんな風にホーエンスと笑いながら話なんて出来なかった。
目の前の庭園でしっかりと抱き合う2人を見ながら、アウディとホーエンスはもう何も起きてくれるなよ、と強く願った。
「……」
場所は変わってホールの脇に移動して自分の娘であるミュラーと、レオン2人の姿を見つめていた父親は自分が見つめる先でしっかりと抱きしめ合う2人の姿を確認してほっと息をついた。
自分の愚かな判断で娘が不幸になる所だった。
この舞踏会が終わったらミュラーには最初から全て説明しようと思っている。
レオンがミュラーの気持ちに答えられなかったのは全て自分のせいだと。
幼い娘を守る為とはいえ、もっと他にやれる事があったかもしれない。
悪戯に2人の仲を気まずくさせただけで、これでミュラーがレオン以外の男を選んでしまっていたらきっとミュラーも一生後悔するし、レオンは侯爵家の跡目を早々にアウディへ譲り恐らく社交界からその姿を消していただろう。
「手遅れにならないで良かった」
いくら責められようとも、嫌われようとも構わない。
娘が好いた男と笑って暮らして行けるならもう充分だ。
ガツガツ、と荒い響きを立てながらその男はぎちぎちと自分の爪を噛みながら王宮の舞踏会会場へと続く廊下を歩いていた。
「許さない許さない許さない俺以外の男の腕の中で何故あんなに幸せそうにしているんだミュラー君は俺と結婚の約束をしただろう観劇にも行こうと言ってくれたじゃないか俺がこんなに愛しているのに他の男の物になるくらいならいっそ今日お前を俺のものにしてやるっ」
ぶつぶつと焦点の合わない虚ろな瞳でその男、ニック・フレッチャーは呟く。
どうしたらミュラーを自分の物に出来るか…そう考えてニックはミュラーから自分を求めるようにしてしまえばいいのだと思い付く。
「そうだ、そうだ。これがあった。これをどうにかしてミュラーに飲ませて自分から俺を求めるようにさせてしまえばいいんだ。目撃者がいたらもうミュラーは俺から離れられないんだから」
ニックは自分の内ポケットに入っている粉薬をそっと取り出す。
液体よりは体への吸収に時間は掛かるが錠剤より効き始めるのは早い。
飲み物にでも入れて混ぜて飲ませた後、どうにかミュラーをゲストルームに連れ込んでしまおう。
「──あら、そうしたら同じタイミングで私もレオン様にこの薬を飲んでもらおうかしら。ふふふっ、4人一緒のお部屋でしても楽しそうじゃなくて?」
「ああ、そうしようそれがいい。身内からの祝いの酒だと運ばせたらきっと2人も違和感なく飲むはずだ」
ニックは、隣にいるキャロン・ホフマンにそう答える。
キャロンもレオンと結婚の約束をしていると言っていた。それなのに、自分のミュラーに遊び半分で手を出しているそうだ。
そんなのは許さない、ちゃんとこの女の元へ返すために自分はミュラーの体を頂いて、この女はレオンに自分の体を奪って貰う。
そうすれば全てが丸く収まるんだ、とニックはギラギラとした瞳で舞踏会の会場内へと戻って行った。
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